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私道かぴ「稲取、不思議スポットめぐり(2日目)」

朝、燦燦と注ぐ朝日、外の家族のにぎやかな声、犬のわんわん吠える音などで起床。
「おばあちゃんち」で町田さんと朝食。ZARDが流れていて一日中それが脳内BGMになる。鯖さつまいもカレー、玄米、はやとうりのスープ、小鉢の総菜たち。全部おいしくぱくぱくと進んだ。店主の森下さんは移住者だそうで、いろいろと地域のことを教えていただいた。不動産の迅速さとサービス内容、移住率の関係性はたしかにおもしろそう。
また明日も来ますと言って店を出る。

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郵便局で用事を済ませ、駅に寄ったら窓口で年配夫婦(おそらく旅行者)が「何もない所だなあとは思ってきたけど、こんなに何もないとは思わなかった」と窓口の人に言っている現場に遭遇した。係の方は「まあ、駅の周りは特になにもないかもしれませんねえ…ちょっと行けばね、まだあるんですけど」と言う。「なんにもない」とは何を指しているんだろうか、みたいなことを思いながら駅前を歩いていると、「かやの寺」に行き当たる。

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中に入るとインドと和が仏教独特の融合を見せている造形物がたくさんあって、ひとまずお参りする。道にいる像がぜんぶ赤い毛糸の帽子をかぶっていてかわいい。
ぼーん、と鐘を鳴らしたからだと思うが気づいたらお寺の人が音もなく近くにいて心臓が飛び出るかと思った。地下に胎内巡りのようなものと、運だめしスポットがあるということで「運試し…?」と思いながら付いていく。胎内巡りの最後には電気がついているところがあって不動明王像がいるから拝んで、みたいなことを言われたので暗闇を壁伝いに歩いていたら、ぼうっと光るところがあったので止まる。目が慣れてよく見ると換気扇だった。あやうく換気扇を拝むところだったな、と思ったらすぐそばに像。音とか壁の感触とか、思ったよりもスリリングで楽しかった。完全な暗闇っていうのはやっぱりいろんな神経が研ぎ澄まされていいなと思う。運試しゾーンはなかなかクレイジーで「いいぞ!」と思った。それらを「ふーん」「へー」といいながら回っていると、たまに顔を出して下さるお寺の方が、「羅漢の窓」という、修行を終えた羅漢像が窓から拝めるというスポットでなぜか一番テンション高く解説してくださった。釣りをしたり、囲碁したり、お酒のんだりと楽しそうな羅漢が好きなんだろうか。たしかにみんないい表情だった。こういう出会いがあるから散策はやめられない。

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そこから何かのスイッチが入ってしまい、「ああもうこれはお寺と神社を一通り全部めぐりたい」と思って、八幡神社とどんつく神社、竜宮神社を目指す。途中直売所の「こらっしぇ」に寄り、「キワーノ」なる初見の果物の前で、観光で来ていたご婦人たちと「このフルーツ何なんだろうね」と盛り上がった。「どういう状態になったらおいしいの」「私もあれっと思ったけどね」「試食でもあればね」口々に感想を言い合って散り散りに去っていった。いろいろ言うけど結局買わない、これはたぶん全国共通。

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稲取の道は細くて、入り組んでいるのですぐに方向感覚がなくなる。海に向かっているのか山に向かっているのかわからなくなって、「とりあえずこっちか」と角を曲がると急に鳥居が出てきた。それが八幡神社だった。神社内は風の通りが心地よく、頼朝が使ったという井戸があった。


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その後向かったどんつく神社がものすごい坂で、歩いているそばからふくらはぎが筋肉痛になるほどだった。この頃になると「あ、伊豆稲取、まじで坂やばいな」とだんだんわかってきて、「徒歩10分(ただしとっても急な坂)」みたいに表示してくれないと体力が大変、みたいなことを思った。汗だくで灯台まで着く。
どんつく神社のベンチに座り、疲れすぎて海風に当たりながらしばし寝た。近くのホテルの工事に来ていた男性二人が神社にやってきて、境内の中を覗きながら「やっべー!」と言っている声で目が覚める。やばいよね、と心の中で同意し、来た道と反対の海側へ降りることにした。

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竜宮神社を見て、波が打ち付ける音を聴きながら急な坂を下りていく。
海風に当たっている時は気づかないけれど、ぶわぶわと髪の毛を噴き上げられながら歩いている時にふっと濃い潮のにおいを感じる。熱帯っぽい植物が多い、と聞いていたけれど、たしかにアロエが縦横無尽に生えていて元気だった。

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たっぷり疲れて宿に帰り、町田さんと落ち合ってみかん狩りにいくことに。「ふたつぼり」の車に迎えに来ていただいた。家族やカップルなど結構人がいた。案内してくださったご婦人に「稲取の坂やばくないですか」と聞くと、「そうなの…」とめちゃくちゃ実感がこもった返事。「私は早いうちから免許を取ったけど、返納してしまってからはもう、外に出るのがおっくうになっちゃって」。そうだろうなあと思う。近所に散歩に行くだけで十分筋トレになる。
「このみかん畑も段々畑でね、急斜面だから機械じゃなくてひとつひとつ手で世話しなくちゃいけなくて。まあ、みかんにとってはその方がいいんだけど」と言っていた急斜面は、歩いてみたら足がずるっと滑るような、崖っぽい部分もあった。切ったみかんがどんぐりころころ的に美しく斜面を転げ落ちていく。液体がたんまり含まれた果実がどん、と地面に落ちた時にだけ起こる快感があることに気づく。腐っているみかんなどをいくつか切ってその音だけをしばらく楽しんだ。

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夕ご飯にお蕎麦の「誇宇耶(こうや)」さんに行こうとして宿を出ると外が真っ暗で驚いた。最近本当に夜がはやくなった。真っ暗な中歩いているとますますここがどこなのかわからないな、と思っていると、右手に大きな建物。どうやら小学校らしい。
ふと左を見ると、本屋があった。店主の方と目があった。やばい、と思った。何か惹かれるものがあり、ふらふらと入店する。
手前の棚を見ただけで、「なんだこの本屋は」と思った。棚の作り方がおそろしく研ぎ澄まされている。「このテーマにこの一冊持ってきますか!」とか「あーなるほど、わかります!これ挿しますよね!」とか「なんだこの本は!こんなのあるのか!」と、内心大興奮で全部の棚をなめるように見た。その後は、社会、人文、民族、絵本、子育て、どの棚に移っても「参りました」しか声が出なかった(心の中で)。
文房具や漫画、雑誌などもきちんとそろっていて、子どもだけでも入ってきやすい雰囲気を感じる。泣く泣く四冊に絞ってレジに行き、店主さんに思わず話しかけてしまった。もともとは隣町で書店をされていたところ、祖父の代から続くこちらを継がれたのだそう。文房具など本以外のセレクトもあるので色々大変なのだそうだ。
「また来ます」と言って店を出た。また来ます、山田書店。

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お蕎麦の「誇宇耶(こうや)」さんで鴨南蛮。鴨肉が分厚くてとってもジューシー。お蕎麦もこだわって作られているのがわかった。次はざるだな、と思う。静岡に住んでいた友人から進められていた「黒はんぺん」も食べた。少しあぶってあって香ばしい。愛媛のじゃこ天と違って骨などの触感はなく、もちもちしていて歯切れがよい。

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日帰り温泉に入って帰る。いくつかある風呂の中に「どんつく風呂」というのがあって、長いトンネルのようなものの先に小さな鳥居と、像が立っていた。「いやいやこれ一体どんな気持ちで入ればいいんだよ」と思って恐怖を感じて出た。露天風呂は星がきれい。


伊豆稲取は散策しているだけで身体が鍛えられるようです。
明日もいろいろな人とお話しできますように。