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井原宏蕗「自然と人と彫刻と」【河津町滞在まとめ】

河津町での滞在を終えて早くも1週間以上の日々が過ぎてしまった。

忘れないうちに早く滞在のまとめを書こうと思ってはいたのたが、東京に帰れば、日常がまた始まってしまい、制作中心の生活に戻り、あっという間に時間が過ぎてしまった。

そんなずさんな自分に反省しつつ、少し日が経ってしまった今、改めてマイクロ・アート・ワーケーションで訪れた河津での滞在を振り返ってみようと思う。

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はじめに

今、思い返すと、マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)2022の募集の記事をインターネットで見つけた際、このワーケーションのシステムをあまり理解しないまま、応募したように思う。2020年、参加した伊勢市でのワーケーションが楽しく充実した滞在だったので、ワーケーションという言葉に惹かれ、とりあえずエントリーしたというのが正直な感覚だった。希望滞在場所に関しても伊勢市の際は、先方の都合で希望地域に滞在できないこともあったので、とりあえずホスト一覧から魅力的な言葉が書いてある地域を探し、希望順を選び、応募をした。

河津町を第一希望にした理由は説明欄に書いてあった「自然が多く、自由な時間を過ごすことができる」という内容に惹かれたからだ。結果、見事第一希望で採択され、そこから河津について後追いで調べ始めた。おそらく他の旅人さんと比べるとあまりに事前の下調べがなさ過ぎた状態であっただろうが、その見切り発車の選択が、結果として素晴らしい滞在に誘ってくれた。思い返しても、応募の際に河津を第一希望にした自分を褒めてあげたい。

そんな経緯で河津という滞在場所が決まったわけだが、滞在時期に関しても希望していた9月上旬になり、また同時期に3人の旅人が集まったのも有り難かった。旅人同士で交流したり、情報共有をしたり、気になる場所に一緒に行ったり、晩飯を共にしたり、同時期に滞在した旅人たちのおかげで、滞在がより充実したものとなった。正直、もう少しのんびりするのかなと思っていたが、振り返るとずっと動き回っていたように思う。

河津と彫刻

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河津滞在の一週間では色々な場所に行くことができた。少しでも気になる場所があれば積極的に訪れ、なるべく多く場所で多くの体験をしようと心がけた。また滞在中は、自分が彫刻家だという観点から、仏像やお地蔵様、獅子、狛犬など街中にある彫刻を意識的に探しながら散策を行った。(ちなみに毎日更新したnoteではその日に見つけた気になる彫刻をカバー写真にしている。)

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「河津平安の仏像展示館」や「栖足寺」には平安時代の仏像が残されていて、伊豆半島の歴史や文化が古から今へと続いていることを感じることが出来た。堂内へは入れなかったが「涅槃堂」には日本では珍しい江戸時代の涅槃仏が鎮座していた。急な階段を登った先の「三嶋神社」には細かな宮彫が施された本殿がひっそりと残っていた。街中にある「川津来宮神社」の奥にも宮彫を垣間見ることが出来た。「河津八幡神社」には河津出身の彫刻家である後藤白童の河津三郎像と、蘇我兄弟の像があり、河津を代表する観光地、河津七滝の三番目、初景滝の前には「踊り子と私」のブロンズ像が設置され、同じ像が河津駅前にもマスク姿で設置されている。

たまたま選んだ河津町はあまりにもたくさんの彫刻に溢れた町であった。

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滞在中は少し足を伸ばし、お隣の下田にある「上原美術館」の仏像館や、伊豆の国市にある運慶の国宝仏がある「願成就院」、函南町にある「かんなみ仏の里美術館」など他の伊豆半島の仏像にも触れることが出来た。どれも素晴らしかったが、河津にあった平安仏を中心に鑑賞すると、共通点や違いなどをより意識することが出来た。

河津のイシクラゲ

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滞在中は制作より、なるべく多くの場所を訪れることを意識して活動していたが、滞在後半では、自身の制作に使用している生物やその痕跡も河津で探すことが出来た。

今回の滞在で収集したのが、note6日目で急に出てきたイシクラゲという生き物である。(イシクラゲについての説明をしっかりしていなかったので少しこのまとめで書かせていただく。)

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イシクラゲというのは陸地に住むシアノバクテリアで、海中にいるワカメとよく間違われるが、全く異なる生物である。彼らは乾燥に非常に強く、乾燥中は休眠しているだけで、また水分がある環境に戻れば生命活動をすることができる。そんなイシクラゲを使用した作品は生きている作品になり得るし、例えば数十年後にまた環境に戻る可能性を持つ作品にもなる。

現在、イシクラゲと和紙の原料である”こうぞ”を混ぜ、生きている(光合成する)紙の制作と研究をしている。それは紙であり、生物であり、時が経っても条件が揃えば生態系に戻る可能性を持つ紙でもある。

また作品にするだけでなく、イシクラゲを使った紙漉きのワークショップなども行なっている。せっかくこれだけのイシクラゲが生息する地域なので、今後機会があれば、河津でもワークショップを行いたい。

持ち帰ったイシクラゲはしっかり洗い、乾燥させ保管してある。きっと近いうちに作品に使用するだろう。

【採取したイシクラゲ】

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【水洗い中のイシクラゲ】

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【乾燥したイシクラゲ】

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結局、2袋あったイシクラゲも洗って、ゴミを排除し、乾燥させると138.1gになってしまった。(これが多いかどうかはピンとこないと思うが、採取した体積の半分くらいになってしまう印象。)

滞在中、旅人やホストと一緒にイシクラゲを探すことが出来たのも嬉しい時間だった。またイシクラゲを探していると色々な人に声をかけてもらった。傍から見ればかなり怪しい光景だと思うが、イシクラゲの話をすると知らなかったと喜んでくれた。こういう不意なコミュニケーションもなんだか有り難い時間である。

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ちなみにイシクラゲを色々な場所で採取していると若干の違いを感じることができる。いる環境、水分の含有量でも印象や、採取のしやすさが変わってくるが、はっきりと、色の違いや、大きさの違い、形の張りや光沢感など、採取する環境が変わると、イシクラゲの細かな差を感じることができるのが面白い。このイシクラゲの採取を継続することで、採取する行為を通して街や風景がまた違って見えてくる気がする。

今回のワーケーションがただの観光だけでなく、今後の作品の一部になるという意味でもいい滞在になったと思う。

終わりに

この滞在を通して、河津町が、そして静岡県も、なんだか一気に身近な場所として感じることができるようになってきた。それはただの観光ではなくワーケーションとして参加したからだろう。

改めて、河津に滞在することができて本当に良かったと思っている。色々な場所に行き、多くの方と出会うことができた。滞在中、一緒に色々な経験を共有した旅人の高野ゆらこさん、柴田まおさん。ホストとして私たち旅人の滞在をずっとサポートして下さった和田佳菜子さん。意見交換会でお会いした河津町長をはじめとする河津町役場の方々。河津の滞在でお会いした全ての皆様に改めて感謝を伝えたい。

そして願わくば、この滞在をきっかけに、河津とのつながりを今後も継続していければと思っている。もし可能であれば、今回出会った旅人たちと共に、また河津で一緒に活動をすることが出来れば尚嬉しい。近い将来、ワークショップや展覧会など、河津で何か開催することが出来ないかと夢を膨らませながら、また河津に滞在するその日を楽しみにしています。

井原  宏蕗