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草野冴月「町と縁と旅人」(MAWまとめ)

1)松崎町でのMAWについて

「なぜ松崎町を選んだんですか?」と、滞在中何度か聞かれることがあった。
正直な話をすると、最初の理由は「8月に受け入れてくれるところだったから」だった。

私は、とにかくマイクロアートワーケーション(以下MAW)に行きたかった。どうしてもMAW応募して、旅人になりたかったのだ。だから、8月に受け入れてくれる地域を探していたのである。では、なぜ8月でなければならないのか?

私は、静岡市で社会人劇団を運営しながら、演劇関係・フェス関係のスタッフをしつつ、中高理科の非常勤講師として市内の一貫校に勤めている。
(詳しくはポートフォリオサイトをご覧ください。)

これで何となくお分かりいただけるだろうか。
私がMAWに参加できる期間は8月のみ。
そう、夏休みだ。

そこで、滞在地域の候補として
①受け入れ時期に8月が含まれていること
②自然が豊かであること
(理科教員なので自然に触れたかった)
③星が綺麗に見える場所
を含む場所に応募したところ、
縁あって松崎町とマッチングしていただき、晴れて旅人になることができたのである。

滞在地域である「松崎町」については、町の名前となまこ壁とダイビングが有名、くらいのことしか知らなかった。それならば、いっそ殆ど前情報を入れずに、新鮮な気持ちで見聞きしたものを集めてこようと思っていた。

MAWが始まる前に立てた、滞在1週間の目標は「松崎町をモデルにした芝居の脚本を書くための材料集めをすること」だった。これに関しては、MAWを終えた今「1週間じゃ足りない。全然足りない。1ヶ月過ごしたい。」が素直な感想である。

つまるところ、私は松崎町に惚れて帰ってきたのだ。
滞在地域が松崎町でよかった。

滞在初日に撮った景色。
普段見られない町の様子に興奮した。


2)松崎町の好きなところ

●滞在中訪れた場所のまとめ
1日目:伊豆文邸足湯
2日目:松崎町役場、旧依田邸、池代割れ岩、宝蔵院、21世紀の森、三聖堂、なまこ壁通り
3日目:ギャラリー丸平、ホテル豊崎、室岩洞、岩地海岸、梅養院、入江長八美術館、長八記念館、岩科学校
4日目:伊豆文邸、中瀬邸、弁天島、大沢温泉依田乃庄
5日目:町散策、松崎新港
6日目:石部の棚田、千貫門、伊豆まつざき壮立ち寄り湯
7日目:伊豆文邸足湯、フランボワーズ、旧依田邸、野天風呂山の家

●とてもおいしかった松崎のご飯やさんとカフェと甘味
民芸茶房、味正、フランボワーズ、カフェ西ん風、コスタフォルノ、浜丁カフェ、ジュードカフェ、イタリアンサルーテ、地魚さくら、ほりらぼ、アサイミート、永楽堂、井むら

圧倒的、ジオパーク。
これでいいのか?アートか?とは思ったけど、いいのです。これが私のワーケーションなのだ。(理科と演劇だもの。)

たくさん山歩きした。
アートも地球から生まれるのだ。

これは、私が滞在時にずっと感じていたことなのだが、松崎町はいろんなこともの人の純度が高い気がする。純度というか、透明度というか。シンプルイズベストな印象が強かった。
雑踏が少ない、夜には余計な灯りがないからなのだろうか。

だから、4日目くらいから「松崎どうですか?」と聞かれたら「とにかくすごく綺麗です。」と答えるようにしていた。そう伝えた時の皆さんのちょっと誇らしい顔がすごく好きだった。

住んでいるとわからない、その町の良いところって、どこもきっといっぱいある。
それを、MAWを通じて見つけよう!取り入れよう!!という町の方がたくさんいたことに感動した。
静岡市もきっと同じで、住んでいるとわからない良いところがあるんだろうな。ストレンジシードに出演したアーティストさん達が「静岡のここが好き」とか「ここが良いところ」と言ってくれるところを大事にしたいなと思った。ホスト側になるときの心構え的なものを松崎町で学んだ気がする。

もっと町の人の声を聞いてみたい。
町おこしに興味がある人だけじゃなくて、例えば絶対にいつか出ていくぞ!と思っている人とか。
町を知れば知るほど、もっと好きになるんだろうなという気がしている。

3)私にできることはなんだろう

松崎町の話を一本書くための材料集めのつもりで行ったのだけど、町と人に惚れたので、「草野冴月」にできることはなんだろう?と考えてみた。
いくつかアイディアが出たのでここにまとめておく。

・町を知ってもらう仕掛けができる芝居を書きたい。
・芝居だけじゃない見せ方がありそう。インスタレーションとコラボしても◎
・町の人にお芝居を作ってもらうのはどうだろう?「松崎町のうた」みたいに。
・アサギマダラが主役になる短編はどうだろうか。飛来して、去っていって、また帰ってくるのはまるで旅人のよう。

以下は、滞在中に思いついた松崎町でつくる松崎町のための演劇を使った企画。
実現できるといいな。(企画書も作るつもり)


◆まち歩きシアター
<概要>
松崎町にある歴史文化財をめぐりながら、各所で短めのお芝居(15〜30分程度)を見る。
どの順番で見ても良いが、すべてのお話を見ると全体が繋がっているお話だと気がつく仕掛けがしてある。

<内容>
「伊豆文邸」「浜丁」「中瀬邸」「なまこ壁通り」「俳句交流館」をポイントとし、
各所で短編劇を鑑賞。各ポイントで語られるお話には、町の中の風景が登場する。
→各ポイント間を移動する間に、芝居の中で語られたものと町の景色を重ねてみることで、町の見え方が変わる。

短編劇は、町民がアイディアを出し合って作成(脚本ワークショップを事前に行う)
演じる俳優も、何名かは町民からの公募が良いのでは。

演劇ファンや観光客だけでなく、普段松崎町で暮らしている人が新しい松崎町の魅力に気づく機会になるのではないだろうか。

伊豆文邸。
いいステージになりそう。


◆旧依田邸ミステリーシアター

<概要>
旧依田邸を舞台にしたイマーシブシアター(体験型演劇)または、マーダーミステリー型推理ゲーム

<内容>
イマーシブシアター(体験型演劇)
…旧依田邸内の蔵や庭など各所に俳優がおり、全て同時進行による芝居が展開する。観客は、自由に移動しながらお話の全体像を捉えていく。

マーダーミステリー型推理ゲーム
…旧依田邸にまつわる伝説をモチーフにした事件を、参加者が登場キャラクターになりきって解決する。参加者が俳優のように演じながら推理ゲームをするイベント
事件例:旧依田邸の地下にあると言われていた武田家の埋蔵金がダクト工事中に発見された?!
嘘をついて持ち逃げしようとする犯人がこの中にいる。謎を解きながら話し合いをして食い止めろ!

ここで俳優が喋っているだけで絵になる。


◆3つの橋にまつわる中〜長編戯曲

松崎町にある「過去」「現在」「未来」の橋のお話を創作し、町民参加型で公演を行うプロジェクト。脚本創作からワークショップを行い、3つのお話を創作して実際に公演したり、絵本にしたりする。

4)松崎町で生まれたセリフ

滞在期間中、松崎町で触れたものや聞いたものから着想したセリフを毎日ひとつずつnoteに書いていた。

1日目:炉ばた館にて
「海があって、港があって、猫が寝転んだりして。これ最高じゃない?ここだから生まれる言葉もあるの。……ううん、ここじゃないと生まれない言葉があるの。」

2日目:ホタルの語源を武彦先生に聞いて
「ホタルって、火が垂れるって書くでしょ。もう一つ”星が垂れる”って書いて『星垂る』っていう表現があるんだって。私はこっちの方が好き。見て。星が降りてきてくれたみたいでしょ?……蛍が星なら、人は死んだら蛍になってもいいよね。そしたら、大事な人に会いに行けるよね。」

3日目:岩地海岸の海蝕洞にて
「潮騒が聞こえる。ここも、もうすぐ波に呑まれるだろう。海触洞に反響した低周波が体を通じて脳に届く感覚が心地いい。私の音楽は、海から生まれる。そして海に還っていく。セイレーンかよ、と自嘲った音も泡に溶けた。」

4日目:浜丁カフェにて
「家も庭も道も、人が住んで手を入れなければ、すぐに朽ちてしまうものだ。古いものが残っているということは、誰かがそれを守ってきたということ。歴史というのは、人の営みそのものなんだね。」

5日目:松崎港にて
「別に、“何かしよう“って思わなくてもいいんじゃないの?ここに居て、目で見て、感じたことが、そのままアンタの中に落ちていれば。夕陽が綺麗だったとか、温泉が思ったより熱かったとか、そういうのでいいんだって。自由を怖がらないで。自由は楽しむものだよ。」

6日目:千貫門からの帰りの車で
「この土地を作ったのは地球だけど、この町を作ったのは私たち人間なんだよね。町は、人で成り立ってる。だから、私はこの町が好き。」

7日目:野天風呂 山の家にて
「旅人は去るもの。でも、きっとまた来るわ。ここが気に入って戻ってくるアサギマダラみたいにね。」

5日目のと7日目のがお気に入り。

5)MAWが私に起こした変化

1)で前述した通り、私は静岡で色々な活動を行なっている。それ故、常に「立場」というものに捉われていたように思う。

「演劇ユニットHORIZONの代表」「演出家・脚本家・俳優」「ゲームのシナリオライター」「学生企画のプロデューサー」「フェスの運営」「理科の先生」「演劇の先生」……

どれが本当の私なのかわからなくなっていた。劇団の活動を始めた10年の間に、どうやらスレてしまったものがあったようなのだ。

今考えてみると、MAWで一人旅に出かけたいという願望は、さまざまな方向に膨らんだ自分をぴったりのサイズに戻したいという思いがあったのかもしれない。
事実、松崎町での1週間は、「立場」や「自分の立ち位置」というものを考えずに”ただの草野冴月”という1人のアーティストでいることができた。そして”アーティスト”としての需要に震えた。
これが、私にとっては大きな意味を持つことだった。

MAWを終え、私の視野は少し広くなったように思う。立場や外聞を気にすることなく、自分の大切にしたいものを大切にしようと思うようになった。
私の居場所が、とても愛おしくなったのだ。

これは、松崎町で出会った人たちが皆、松崎町を愛していて
この町を素敵にしたい!という思いで話をしてくれたり、私のアイディアを目をキラキラさせて聞いてくれたり、そういった熱く優しい時間がくれた宝物だと思う。

悩んだ時は松崎に行って、海を見よう。
町の人とお話をしよう。
浜丁のカフェでところてんを食べよう。

6)最後に

マイクロ・アート・ワーケーションを企画していただいたアーツアカウンシル静岡の皆さま、受け入れてくださったまつざき里山ファクトリーの皆さま、滞在中関わってくださった町民の皆さま、本当にありがとうございました。

次は10月に花飾りを見に行きますね!
また、逢おう!!

演劇ユニットHORIZON代表
演出家・脚本・俳優・振付ほか
草野冴月


追伸:
私の居場所、大切なものたちです。
よかったら見てみてください。