石黒健一「池田20世紀美術館、一碧湖、Bistro KEN、芸術の森 ろう人形美術館、富戸小学校、川奈ホテル、K's House、まるたかのうずわ(4日目)」
ととりば最後の朝食の後、急いでチェックアウト。
ととりばの朝食の鯖味噌のお茶漬けは、これまで食べたお茶漬けの中でも一二を争うものであった。薬味に使うのは梅干し、伊豆の本わさび、そして青唐辛子。この辺の地域の人は沖縄のコーレーグースのように醤油瓶に青唐辛子を直接入れて使う家庭もあるほど、青唐辛子が一般的な調味料として扱われているのだそうだ。家に帰ったら青唐辛子を必ず育てようと思う。
池田20世紀美術館に再訪し、館長の伊藤康伸さんに1時間ほどお話を伺う。美術館の成り立ちや、年に一回行われるコレクションを目の前に模写ができる「こども絵画大会」などの地域との関わりといった、47年の間の様々な取り組みについて丁寧に説明していただいた。50周年に向けて企画を画策中とのことで、その時には是非再び訪れたい。
周さんとお昼までの間、一碧湖を一周散歩しながらお互いの京都での活動について話す。
お昼ご飯は八幡野港「ととりば」のすぐ近所のBistro KENへ。この辺では珍しいジビエ料理専門店で、名物の骨付きシカの盛り合わせカレーをいただく。フレンチ出身のシェフらしい丁寧な仕事が随所に感じられるやさしい味わいだった。
カレーはポタージュのように滑らかで素材の全てが溶け合わさり、全く臭みがなく肉々しいスネ肉は繊維一本一本が解けるように柔らかく、じっくりローストした季節の野菜と玄米がバランスよく調和していた。
富戸小学校に行くまでの間、以前から気になっていた芸術の森ろう人形美術館へ。トルコのエスキシェヒルで蝋人形館にいったことがあったが、トルコの知らない偉人たちの像ばかりで似ているのかわからないという感想を覚えたため、天皇像などよく知る人物を扱ったこの芸術の森に一度来てみたいと思っていた。
中で撮影するためには1000円「募金」が必要とのことで、外観のみ撮影する。オーナーの自宅兼「美術館」のような雰囲気が漂っていて、ろう人形という静止した瞬間を切り取った像たちの中に暮らす夫妻の姿の間で独特の時間が流れていた。
伊東市のコミュニティスクールである富戸小学校で3年生の17人の生徒に富戸の町の魅力を紹介してもらった。
9月から準備したというこの発表会は、富戸の海の見どころや定置網漁の構造や利点について、地元の三島神社の祭事、鹿島踊りの実演など盛り沢山の内容であった。内容ごとにそれぞれ設られた教室に移動し、段階的に富戸のことを紹介していくという手の込んだ構成に感嘆する。
コロナでここ数年中止となっていた鹿島踊りを小学3年生の生徒たちは入学前に見たわずかな記憶と映像資料、地元の人からの指導をもとに再現してくれた。
生徒たちの発表の後は我々旅人が自分達の活動を紹介させてもらった。
東さんの自転車の作品は子供たちに大人気。
子供たちの質問の時間は久しぶり背中に大量の汗をかくような経験であった。「人に役に立つことはなんだと思いますか」「やりがいはありますか」「どうしてその仕事を選んで続けているのですか」
それぞれの質問にちゃんと答えられたかは自信がないが、自分の活動の根本を見つめ直すような時間となった。また別の形で、どこかで彼彼女らと再会したい。
宿に戻る途中に薄羽さんがぜひお連れしたいところがあると、連れてきてくれたのは川奈ホテル。ぜひ伊東で訪れたいと思っていた場所の一つであった。
惜しまれつつも近年建て替えとなったホテルオークラの創設者大倉喜七郎によって1936年に開業した川奈ホテルは戦後米軍によって接収などの時期を経て、現在はプリンスホテルの傘下となっているが、建設当時の姿を極力変えず現在も営業を続けている。
レストランでは現在でも銀器が使われていて、毎日磨かれているというエピソードがこの川奈ホテルのエスプリを表象している。薄羽さんがここが好きで伊東に移住したというのも頷けるほど、伊東の地に残される豊かな文化、時代の証人の一つとして、これからもこの地にあり続けてほしいと思う場所であった。
その後チェックインしたのは、ここも伊東の歴史的建造物の一つである老舗旅館を改装したK's House。
この日の夕食は薄羽さんも一緒に、伊東のご当地グルメの一つ「うずわ」をいただいた。
宗田鰹のたたきを青唐辛子と醤油で、またどんぶりにして熱々の出汁をかけながらかき混ぜて半熟状態になったお茶漬けで楽しめる。
宿に戻ってこの旅で初の温泉に入ることができた。大好物の源泉掛け流しだ。朝風呂も欠かさず入ろう。