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本原令子 「位置エネルギー(7日目)」

10月25日(火)朝方雨のち曇り

10時に、秋葉ダムで電源開発(株)の松本さんと会う。このワーケーションへ来る前に、松本さんと電話では話していた。そのとき、「高いところに貯水されている水は、位置エネルギーとして存在する」とおっしゃったのが印象的だった。高いところから落ちる運動エネルギーを水車にぶつけてその回転を使って発電する。

ダム建物

私は2011年に、オランダのアーティストインレジデンスで、モバイル・キッチンシンクを制作した。話せば長くなるけれど、新橋のギャラリーいそがやi・スペースで使った水が、見えない(臭わない)下水の道を通って海に還るまでの道のりをキッチンシンクを背負って歩いた。粘土の性質はずっと変わっていない。人間が、それぞれの時代に必要な形に作って焼いてきた。都市の地下を上下水道が巡る現代だから陶製キッチンシンクは作られて、蛇口をひねるとシンクを境に上水が下水に変わる。そしたら、私も上水と下水の境い目じゃん!?と思って、上水がどこからギャラリーまで届くか調べた。それは遠く利根川から届いていて、東京都上水局の方が上水は各家庭に届くまで、とにかくポンプアップしないといけなくて、ものすごく電気を使うと言っていた。

秋葉ダムの水は水力発電のほかにも灌漑用水、上水道用水、工業用水にも使われているので、私は事前に浜松市の水道施設課の方とも電話で話した。担当の方は秋葉ダムから浜松市内への配水は、東京のような都市と違って重力で配っていくと何度も言った。高い場所に水を湛えていること自体がすでにエネルギーなんだ。

松本さんと私


対面で初めて会った松本さんと、ダム内を見学した。油で圧をかけ、空気圧で止めるとか、電気を作るにはたくさんの電気が必要。発電していない時は送電線からもらうそう。松本さんが、11,000ボルトで送電しています、とかここは15万ボルトで、佐久間は27万ボルトで、と話してくださるけれど、その数字にリアリティーがもてない。

「目で見て送電量がわかるものはないんですか?」
「ありますよ、あの白い、、」
「ガイシ??」
「そうです、ガイシが長ければ電圧が高いんです!」
おぉ、私の大好きな碍子(ガイシ)がここで現れるとは。

ガイシ

電気は貯めることができないから、流す量を推測して発電しているそう。電気って見えない。電気で動いているものは見えるよ。パチンと点ければ、部屋が明るくなる。しかし、水から作られてわが家へ送電されるエネルギーそのもの=電気の流れは見えない。長いガイシが並ぶ鉄塔のそばで、「近寄ると、なんかこの辺がワサワサするんですよ。」と、松本さんが両手で頬をさすった。

鍾乳洞

1958年着工した秋葉ダムの地下トンネルには、64年かけて鍾乳石が垂れていた。

*トップの写真:地下トンネルの中は、暖かい。概ね一定の温度に保たれているので、お酒の貯蔵に向いているそう。側溝から蛙がぴょんと跳ねたら、松本さんが「ここ、あったかいから冬眠しないのかね?」と言った。

*ぜんぜんダムの写真を撮らなかったので、ダムカード。

ダムカード

トップと本文2枚目の写真:鈴木千陽(龍山未来創造プロジェクト)