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関根愛「十月二十九日」(2日目)

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《今日の朝ごはん》
夕飯の残り(南伊豆産の食材で作った煮物やねり胡麻和えなど)

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《今日のお昼ごはん》
ベトナム料理屋さん「OH!PHO」のチキンフォー
(お肉が食べられないので肉抜き&野菜増しにしてもらった)

《今日の夜ごはん》
炭火焼のさつまいも
よもぎのおもち
玉ねぎとピーマンをハーブソルトで
道の駅で買った小さな干し柿ふたつ

朝ごはんを食べ宿からホストの伊集院さんのローカル×ローカルまで一時間ほど歩く。青野川沿いは気持ちの良い散歩道。朝から釣り人が何人もいる。見上げると電線に古いルアーがいくつも絡んでいて小さな鯉のぼりみたいに空を泳いでいる。南伊豆の牧歌的な景色として早々に記憶されたのは見渡す限り一面のセイタカアワダチソウ。視界の端から端まで広がる外来種で邪魔者扱いされがちなその草がいっせいに太陽のほうを向いてしなっている姿をみると可愛くて健気に思えた。ローカル×ローカルでは南伊豆の方たちとMAWの立石さん、若菜さんと旅人の皆さんとお話する会をひらいてくださった。お昼に皆さんとフォーを食べたあと里山の古民家にアナグマを解体しにいく地元民で移住者の誠さんについていく。まずアナグマをもらいにしとめた人(狙って獲ったわけではなくて飼い犬があやまって噛み殺してしまった)の家まで行く。その人(じゅんぺいさん)は偶然昨日道の駅湯の花で買った自然栽培米の玄米麺を作っているご本人だった。陽当たり抜群の自宅の広い敷地でお米や野菜を沢山育て、チャボやうずらを飼い、古民家で手作りの暮らしを営んでいるじゅんぺいさん。おくさんのゆうみさんと娘さんのあすちゃんも出てきてくれて、白い花びらが浮いたお茶をお庭でいただいた。昨日まで互いの存在など知らなかった人たちとこうして一杯のお茶を交えてぽかぽかの太陽に当たりながらお話ができるのは嬉しい贈り物のようで幸せだなあ。誠さんの借りている築百年の古民家へ行き、いよいよアナグマを解体するんだけれど、いつも回しているカメラに収める気にはなれなかったのでこの目で一部始終をじっと見た。誠さんは四十分間集中を切らさずに黙々と解体した。皮をはいで腹をあけ、内臓をすべて取り出し、頭を切り落とし、手足を切断し、皮から脂肪と肉を余すところなく削ぎ取っていく。お腹をひらいてすぐ辺りは獣の血の匂いでいっぱいになったけれど、それは私から出る血と同じ匂いで、何も変わらないんだという気がした。私は肉は食べないけれど、こうやってついさっきまで生きていた生きものが命をとられてスーパーで販売される肉の塊になるまでのその間の姿を見ることができたのは食べることで命を繋いでいく人間としてとても良かった。

日も暮れかけて目の当たりにしたできごとに少し胸いっぱいになって帰ると宿の台所で野菜を洗っていた年上の女性(みちよさん)がバーベキューしますか?と声をかけてくれた。あとで判明したんだけれど本当はバーベキュー場使いますか?の意味だったみたい。一緒にしませんか?に聞こえてしまった私はちゃっかりご主人と一緒にやっていたところに混ぜていただいちゃった。お二人は私が住んでいる鎌倉のすぐ近くの辻堂から来ていて、明日は伊豆高原界隈をみて熱海まで行くんだそう。みちよさんはきれいできさくな人で、夫のこうぞうさんはかっこよくて素敵な人だった。昼間は暑いくらいの太陽の下で美味しいお茶をいただき、夜はちりちりはぜる炭火にあたってゆっくり焼き芋やおもちを食べ、人生で今日初めて会う人たちとお話をして身も心もじわりと暖まった。二時間ほど食べながらおしゃべりをして由比ヶ浜の海で今度一緒にSUPをしましょうと言ってお別れした。こうぞうさんの会社の敷地に生えているローズマリーをどうぞと言っていただいたので今日は枕の下に敷いて寝よう。