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池田ひとみ(松崎町滞在まとめ)

​​今回マイクロ・アート・ワーケーションで10/1(土)〜7(金)の1週間、伊豆半島南西部の静岡県賀茂郡松崎町に滞在しました。滞在が終わってあっという間に2週間が経ちました。
期間中の日誌にはその日にあったことを書いていましたが、この滞在を振り返ってまとめを書いていこうと思います。

・漆喰鏝絵(こてえ)
このワーケーションに応募した際に、松崎町を第一希望にしていました。今自分のやっている制作に活かすことができそうなヒントがありそうと思い、松崎町の名工、左官の神様、入江長八(1815-1889)の鏝絵と、なまこ壁が気になっていました。
私は編み物を使って作品を作っているのですが、編んだ糸を石膏に漬けて彫刻を作ったりもしているので、鏝絵やなまこ壁に使われている漆喰を素材として使うことができるのではないかと思い、色々知れたらいいなと思っていました。
実際に滞在中には、松崎町の「伊豆の長八美術館(長八の作品が50点ほど一気に見れます)」や「浄感寺・長八記念館(天井画の​​雲龍がすごい迫力)」「岩科小学校(重要文化財、鶴の間がカラフル)」「伊那下神社(山岡鉄舟の書を長八が漆喰で仕上げている)」等で入江長八の作品を沢山見ることができました。
主に建物の装飾として漆喰で立体的な絵を描く鏝絵ですが、漆喰と絵が掛け合わさっていることがまず不思議でした。入江長八は11歳のとき左官職人の弟子入りしたのち、20歳のとき、江戸へ出て谷文晁の高弟、狩野派の喜多武清から絵を学ぶ一方、彫刻も学んだということです。
左官職人として学んだ後に、日本画を学んだという、2つのことを掛け合わせることの独自性と、従来は壁の補強のため漆喰を塗っていたものを装飾に発展させていったところがとてもいいなと思いました。
鑑賞に拡大鏡が必要であるほど緻密な細工のものもあり、どんどんこだわって進んでいったら、誰も成しえない領域まで突き抜けているところが面白く、それは作品の装飾性からもとても伝わってきました。
また滞在二日目に、町役場で「なまこ壁の体験プログラム」が開催されているところを見学し、少し漆喰を塗る体験もしたのですが、コテで漆喰を塗ることが難しいということがよくわかったので、鏝絵のすごさをさらに実感できました。

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そして滞在5日目には、松崎町で現役で鏝絵を制作している、左官職人の中村さんの鏝絵作品ぎっしりのアトリエを訪問させて頂きました。沢山の鏝絵に圧倒され、お話を聞くこともでき、農具倉庫をアトリエとして改修し天井から何段にも重なっている額や道具なども自分で作ってしまうところなどもとても参考になりました。
また漆喰につなぎとして繊維の藁と接着剤として海藻の角又を入れて使っているとのことで、藁の繊維の代わりに編んだ糸を使ってもいいのではないかと考えていたので、帰ってから試したいことだと思いました。野外彫刻みたいなものが作れるかもしれない(?)

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・街並みと歴史
また松崎町は、過去に養蚕業が行われていたという歴史があり、そのことも気になっていました。養蚕の歴史についての資料は、旧依田邸と岩科学校で見ることができました。
依田家の名主の依田 佐二平(1846-1924)は、実業家として「松崎製糸場」を設けて養蚕業を営み、明治期には松崎町でも盛んに養蚕が行われていたようです。この時代に生きていたら養蚕工場で働いてみたかった。現代ではほとんど養蚕は産業としては衰退し文化遺産として扱われていると思いますが、自分が扱っている糸というものについては今後も自分なりに調べていきたいと思います。
他にも旧依田邸では、北海道十勝開拓を行った依田勉三についての資料や、また別の日には教育に貢献した土屋三余の三餘塾資料館にも行くことができ、町の歴史に多く触れることができました。

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松崎町に来て見た風景は、海岸線の海から始まって、山、岩、川、棚田、花などの沢山の要素が小さい町の中に詰まっていて、とにかくどこもいい景色です。自転車で周っても気持ちがいいですし、車に乗ればちょっと遠くの雲見海岸や石部の棚田まで足を伸ばせます。
また、松崎町は温泉があるという事も楽しみだったので、複数の宿に泊まって温泉に入ってみたり、何箇所か足湯に行ってみたり(桜田公園の足湯おすすめです、雲見海岸は雨で断念)日帰り温泉(山の家)に行ったり癒されました。美味しい魚を毎日食べ、桜葉あんぱん、桜餅、アサイミートのコロッケを食べ、かなり旅を満喫しました。
1週間の間で駆け抜けた感じで色々なところに行っては、なんで今までこの地に足を運ぶことがなかったんだろうと思いました。そしてこれから松崎町に行ったことがない人に行った方がいいよ!とおすすめする事でしょう。

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・コミュニケーション
マイクロ・アート・ワーケーションを通して、ホストの方々に松崎町の色々な場所を紹介していただきました。1週間という短い時間に凝縮して町の魅力を知ることができたのも、ホストの方々のおかげで、とても感謝しています。
ちょうど時期的に松崎まちかど花飾りのイベントの準備を進めているという話や準備している様子で、文化や風景を大切にすることを、地域の方々で手をかけてやっているところが垣間見え頼もしく感じました。
地域おこし協力隊の方々との交流会では、このような形で地域に関わる事もできるのだなと知ったり、また色々な目的を持って松崎町に辿り着いたことがすごいことだなと感じました。
また、滞在期間が重なっていた旅人のeitoeiko癸生川さんとお話しもでき、色々な知見を持ったお話しを聞かせて頂きよりこの旅が充実したものになりました。
この旅を終えて帰宅し数日たった頃に、雲見浅見神社から郵便物が届きました。滞在6日目に登山のような参拝をした場所だったのですが、拝殿にお参りした際に御朱印の葉書を記念にもらったので記帳を残していました。
届いた手紙には、神社が無人であったことのお詫びの手紙と一緒にお札が同封されていて驚きました。松崎町のホスピタリティを再認識させられるような出来事でした。

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この数年の新型コロナをきっかけに新しい生活様式、行動の制限があったことは、自分に何かしら変化をもたらすものだっただろうかと考えると、少なくとも私の中で少し変わってきたのは、今までの自分の制作では出来ないような、リサーチを元に作品を作るような制作方法を探るきっかけになればいいなと考えるようになったことです。その事もありこのマイクロ・アート・ワーケーションに参加したことは、今後どのように作用してくるかわからないけれど、確実に一歩になりました。
今私が住んでいるのは静岡県西部の掛川市というところです。浜松市でのレジデンスがきっかけとなり2020年に引っ越して、その途端に新型コロナでの緊急事態宣言、なかなか外に出る機会がなくいつ動き出したらいいかよくわからないまま、人とあまり会わない生活を送っていました。
そして制作以外の仕事では、リモートワークで企業のカスタマーサポート業務で、リモートで仕事が完結してしまうのでとても便利な世の中ですが、これでいいのかなと、脂肪を蓄えながら思っていました。
今回の旅は率直に言うと私にとって直接人と会うことのリハビリでもありました。このワーケーションを通して、地域の方に出会い自然豊かな環境をリサーチすることによって、制作のモチーフを探したい、という目的はありましたが、本当はもっとその手前のところできっと私は準備ができていない気がして心配していました。

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そんな自分の不安を超える楽しさと充実感でとにかく松崎町に飛び込んでとてもよかったと思います。
郷土の歴史や産業、生活があり、海岸や山の風景に触れ、今回の旅ではホストの方々や地域の方々、出会った方々との交流がとても温かかったです。アートと社会と繋がりを作っていける可能性のようなものが感じられた場所でもあります。
最後にこの自由度の高いマイクロ・アート・ワーケーションという企画を実施してくださった、アーツカウンシルしずおかの皆様にもこの度はこのような機会をいただけたことをとても感謝しています。ありがとうございました。