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長谷部勇人「秘境(3日目)」

僕はこれまでにギターを作ったことがあります…と言っても、それはボディに彫刻を施したものであって、厳密には市販のギターパーツを組み立てたことがある程度の経験です。今回の旅を終えたら、木材の塊からギターのボディを加工してみたいと思っていますが、精密な加工が必要なネック(弦を押さえて音程を変える箇所)を作るのはまだ難しいかなぁと思っています。

まずは高橋建具さんを見学させていただき、龍山町の職人技を見せていただきました。職人の仕事場は壁面に道具が整えられ、予想外にもコンパクトな空間にまとまっています。引き戸を作るには正確な寸法を測ることはもちろん、滑らかに稼働する隙間、それを調整するカンナの底には髪の毛の一本の隙間まで整える神経が必要なようです。見せていただいたヒノキのカンナがけが薄いこと薄いこと。建具と楽器では作るものさえ違えど、木工道具は共通であるわけですから、技術の熟練度に差を感じました。

その後に約束いただいた白倉木工さんでは、求めていた龍山町のヒノキを分けていただくことができました。ヒノキの乾燥には1年以上かけることが理想らしいのですが、ここにあった木材は10年以上も眠っていたものです。表面は茶色く汚れ、やや反っていましたが、ギターに必要なサイズに削り出すとヒノキの香りと綺麗な木目が映えていました。

そういえば、今日は空き時間に行ける範囲での秘境を尋ねました。それは神社と渓流でしたが、道が心配になるほどの山道の奥の奥に進み、誰もいないようなところに出くわすと、ここに来てよかったなという風景に出会えました。カンナの髪の毛一本の調整や10年寝ていたヒノキの例もそうですが、何か研ぎ澄まされた先にしか見えないものがある感覚を久しぶりに覚えました。

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