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おきなお子 第7日目 伊豆のグエル公園〜まるで空師のように

いよいよ、最終日、7日目。
前の日から宿泊したJ-GARDENで目を覚ましました。
夕べの夜に着いて、眠る前に、天然温泉にゆっくり浸かりました。浴場は植物に包まれ、南国気分。
外に出ると、オリオン座や星々がはっきり見えました。
まだ肌寒い夜風に吹かれまがら、しばらく外のデッキに寝ころんで眺めていると、星の瞬きから、時間のことを思いました。今見ている光は、何光年前から届いてる。実感は持てないけれど、それほど遠くからでも届く。宇宙空間の真空の中で。
旅の終わりに、と考えました。
子鹿社で「文学」にもう一度巡り会うような体験をして、そうして二十年も前に志し、書くというあの集中への距離を考えると、この二十年間を喪失したようにも感じましたが、それでも光が届く、あの時心震えたり、動けなくなった「文学」の鋭さは、膨大な時間をも超えて、今ここにあると思いました。真空のままちゃんと保存されている、情熱。

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朝、もう一度南国の温泉を光の中で満喫し、荷物をまとめて、このJ-GARDEN を散歩しました。
ここは、まるでスペインのアントニオ・ガウディ設計のグエル公園のような趣きで、植物がそこここに葉を揺らし、刈り込まれた木が凝った石畳に影を落とし、美しい園庭は少し見る角度を変えると新しい顔になるくらい豊かな造形に満ちています。
驚くのは、この全て、オーナーの石井さんの手仕事ということ。
この青空チャペルも、大きな丸い溶岩オブジェも、門も、竜も、天然温泉も掘ったのだとか。
信じられません。

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世の中にはほんとうに、夢のような仕事をする人がいるものだと、感心することしきり。
幸運にも顔を出してくださった石井さんに、お話しを伺いながら、この公園を回ることができました。

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石井さんは、もはや物語の主人公みたいに、彩豊かなご経歴です。
現在はこの庭園をつくり、ホテルのオーナーをしながら、ロートアイアン作家として、見事な門とかを作製し、東京ドーム等にも納品されているそうです。
そして、その始まりは、なんと! 五郎入道正宗の弟子に教わっていたという刀鍛冶にルーツを持ち、そのあと師匠が飛行機事故で亡くなり転向したという、人生はドラマだというフレーズそのままのダイナミックな人生。
また、この園庭を彩る木々も、石井さんが空師として刈っているとのこと。
「空師って? 」
「鳶職の人は5メートルまで。それ以上の高さは空師の仕事なんですよ」
名前もなんとも魅力的!  空近い高さが職場かぁ。憧れます。
確かに見ると、かなり高い木も、丸く刈ってあります。アフリカって呼ばれるサバンナ風の木があったり。石井さんがご自身の手仕事です。
さらに、シダ博士でもあるそうで、道理で浴場や、フロントにシダが緑の葉を光らせていました。
シダ博士にシダの話を聞くとやはり夢中になります。

この伊豆半島でお会いする専門家が、みんな人生を賭けてやり遂げている途中の道のりにいらして、評論家ではなくて実践家だったというのも、出会った方々の魅力の特徴です。最高!

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この場所は、美しすぎて、魅力的すぎて、ファション雑誌や、EXILEのダンスのロケーションになったり、じつはさまざまなところにお目見えしています。納得です。
まるでグエル公園みたいとご本人にお伝えすると、いえいえ いえいえと極端に否定されました。
いえ、もちろん、わかります。スペインで見たあの有機的な建築。あの色彩。世界で唯一観光客が訪れる工事現場サグラダ・ファミリアは、ガウディ没後100年経ってもまだ続いています。人類が共有する壮大な夢。
でも、石井さんにしかできない素晴らしさは、設計をしたのではなく、手仕事だということ。ここはガウディにも負けません。必見です。

わたしは満足しました。
この風景に祝福されて帰ります。
伊豆高原の駅には、桜が咲いていました。

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さて、7日間の旅も終わりです。
めくるめく体験をして、自宅に戻るのが、まるで夢うつつから現世に戻るような感じで、ぽわんとしていました。
車窓から霞む海を眺めて、空師か…まるで空師のように、わたしも想像を見ても美しい形にしたいななんて、ふわふわと物思いにふけります。
伊豆では咲き誇っていた桜も、春の陽気も、新幹線こだまが駅について、名古屋の街を歩くと、まだ春手前の空気に迎えられ、現実に目が覚めました。駅構内にいる人もまだ色とりどりのコートを着ています。
その中を、コートを手に歩いて行きました。


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