見出し画像

細淵太麻紀 「下田はじめまして物語」 (3日目)

今日のお宿は吉佐美の方にあるAirbnbで、ずっと宿泊するのを楽しみにしていたところだ。AirbnbホストのNさんが、今日わたしがチェックアウトするホテルまで車で迎えに来てくれ、スーツケースを預かり、わたしが行きたいところで降ろしてくれる、という素敵な提案をしてくださり、お言葉に甘えてお願いすることにした。車中でNさんとお話ししていると、いろいろ興味深すぎて時間が足りず、勇気を出してNさんのお家に伺わせていただくお願いをしたら快諾いただいた。あとで落ち合う約束をして、田牛海水浴場で車を降りる。
Nさんのお話しによると、以前はごろごろしている石に波が当たる音が素敵だったのでよくここに来ていたそうだが、今は砂が堆積して(あるいは海水浴場のために砂をどこかから持ってきているようで)その音は聞けなくなってしまったのだという。どんな音だったのだろう、波に鳴る石の音を想像しながら砂浜を歩いた。

田牛海水浴場のお隣にある竜宮窟はたいへんな賑わい。そういえば今日は連休中日なのだった。普段はもっと静かな場所のようなので、人があまりいない時に必ずまた来ようと思う。

それにしても宇宙的。

人の多い竜宮窟の隣の田牛サンドスキー場にいくと少し人出は減る。が、やはり普段よりは賑やかなのかな。
ちょっと大きめの石の上に腰かけて海を眺めつつ、手に馴染むいい感じの黒い丸い石を拾った。なぜかこの後の道中、ずっとこの石を手中で転がしながら過ごした。

碁石が浜までは少し海から離れた車道を歩くしかない。いくつかトンネルを抜ける。車が前方からぶっとばしてくるので気をつけながら、手中の石を転がしながら、そしてたまに写真を撮りながら、先に進む。

しばらく行くと閉鎖されて柵がされている駐車場跡のところに下の海岸に降りる階段があり、階段途中の門も開いていたのでそこから降りてみた。
波打ち際に大きな岩がいくつか、その先は引き潮の広い砂浜。ここからずっと海岸線が続く。視界の先がこんなに広くひらけているのに、他に人など誰もいない。汀のゆらぎの間をひとり無心に歩いていく。

しばらく行くと川に阻まれこれ以上真っ直ぐ行けない。仕方なく防波堤に座ってGoogle mapで現在地とこの先の行程を確認すると、目的地はこの川の上流にあることがわかった。思っていたよりもだいぶ歩いていたようで、逆にこの川がなかったら行きすぎていたところだった。
川を遡上していくと、思いがけなくボードウォークが現れる。ボードウォークをゆっくりと歩きながら、川面から鳥たちが海の方に飛び立っていく姿を静かに見送る。

ボードウォークが終わると幹線道路にぶつかる。そこからすぐ左手に、ホストのNさんにおすすめされた 「south cafe」がある。仕組まれたような道行に自分でも驚きつつシーザーサラダを食す。近所にあったら通うこと必須のお店。特に海外ルーツの地元の常連客もたくさんいらした。家族連れ、食後のコーヒーを飲みながらタブレット操作するひとり客、自転車でカンパーニュを買いにくるブロンドの女性など。

そこから15分ほど北東に進んだ吉佐美苑という別荘地に、本日の宿、ブルークレールはある。私がここを選んだ理由は、ここが元洋画家のアトリエだった、と書かれていたからだ。ホストのNさんにその経緯を伺うと、Nさんがこの吉佐美苑で物件を探していた時に紹介されたのが洋画家、牛島憲之氏の元アトリエの物件だったのだそうです。牛島氏の絵の多くはご遺族によって府中市美術館に寄贈され、常設展示もされているそうです。

吉佐美苑入り口にある案内図。ブルークレールはこの苑の山の一番上のほうにある。
それにしても急な坂、、をひたすら登っていきます。
ブルークレールのリビングからの眺め。
テラスからはさらによく海が見える。左手にはもう桜が咲き始めていた。

ひといきついたところでホストのNさんが車で迎えにきてくださり、近くのスーパーAokiに買い出しに連れて行ってくれる。その後待望の、Nさんのご自宅訪問。この地に引っ越して来られる前は東京でインテリアデザイナーをされていたNさん。自然素材と日本の古い家具や建具で構成されたご自宅はNさんの小宇宙。
素敵なリビングから階段を降りて、朝、車中でお話を伺っていたお風呂場の壁を見せていただく。職人さんの手による珪藻土の塗り壁に、Nさんが海岸で拾い集めたシーグラスを投げつけて(!)できた壁は、先ほど歩いてきた海岸の風景に驚くほど似ていた。

玄関前には、苔むすつくばい。
木製のしっかりした蔵の扉にあわせて設計された玄関は増築部分。
キッチン。このでかい壺には何が入っているのか気になる。
伊豆石積みのキッチンはやわらかく明るい。
西向きの明るいリビング。右奥にお茶室。左にももう一部屋。
左手の部屋の建具は千本格子ならぬ万本格子の美しい戸。
万本格子戸の向こうは自然素材あふれる書斎的空間。
テラスにも釜が。目の前の桜はあと1週間くらいで咲くそうです。
お茶室。
お茶室の家具。
お風呂場の壁。さっき歩いてきた海岸そっくり。
Nさんの師匠、利休さん。

お抹茶をいただきながら少しお話しをした後、ブルークレールまでまた車で送っていただき、Nさんと別れる。部屋に戻ってなんだかんだしている間に陽はすぐに落ちてしまった。ので、このnoteを書きつつワインタイム。新鮮でお安いお刺身ぶつ切り(下田名物キンメも入ってる!)、スペインのチーズ盛合わせ、ぶどう、と、昨日飲み残したコンビニ安ワインで至福のひととき。
ここには書ききれないことも含めていろいろな自然の力からエネルギーを大分補充させてもらった一日だった。

金目ちゃん!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?