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Eri Liao 「JR御殿場駅を降りる (1日目) 」

 曇り。「御殿場は寒いです!」とホストの森岡さんから何度も言われているので、もう3月の終わりだが、久しぶりにまたダウンを羽織って家を出た。ぶ厚い下着、貼るホッカイロも持った。

 私の住んでいる藤沢から、御殿場は実は結構近い。よくライブをしに行く都内より、埼玉各地より、全然近い上に乗り換えもラクで行きやすい。そう考えると、1週間家を空けると考えても、家を空けることに変わりはないのになぜかあまりストレスにならず、朝ものんびり起き、コーヒーを淹れたり、ベランダの植物を手入れし水をやり、お風呂掃除をしたりしながら荷造りをし、藤沢駅に向かう。ちょうど駅前まで来たところで、小ぶりなデモが前でつっかえていて、なかなかそれを越せない。機動隊の車の前には、2-30人くらいの、ほとんど声も出さず、小さなリュックを背負った無害そうなおじいさんおばあさん達が、こじんまりとよりかたまって歩いている。そのうち二人くらい、「TRUMP 2020」と書かれた青い旗を掲げるでもなく持って歩いている。

 妙な時期の旅行だ。コロナ、マンボウ、戦争。そもそも、御殿場へ旅行に、というのも、ごく一般的な見方からすれば妙だろう。「御殿場」という名前は地名としてなんだか派手で、立派で、その高級そうな名前でまずイメージするのは、何と言ってもアウトレットだ。アウトレットへ旅行には行かない。アウトレットとか、モールとか、ああいう大型の、たくさんの、もの、人、資本が溢れている建築物は、ハッキリと明るいのにブラックホールみたいで、吸い込まれて、吸い込まれて、どこへもたどりつかないような。でも私は、モールやアウトレットが私に差し出す、あの独特のちょっと落ち着く感じも知っていて、人にあまり言わないが実は結構好きだ。特に大切でも特別でもない、ただの存在としてウロウロできて、天候に左右されず快適に守られている空間で、私は他の場所では得られない安心感を得る。

 藤沢から国府津経由、1時間半ほどでJR御殿場駅に着く。PASMOでは自動改札を通ることができず、駅員さんのいる窓口を通って外に出た。御殿場はJR東海=TOICAのエリアにあり、PASMO圏から乗った人がエリアをまたいで乗降車することはできないらしい。何かショックを受ける。

 小雨。御殿場線に乗っていたほとんどの人が御殿場で降りた。私の横に座っていた、肌がやや褐色の若い男の子達、二十歳前後くらいだろうか、6人ほどのグループも御殿場で降りた。松田あたりまで小声の英語で話していて、そのあとみんな寝ていた。窓の外のみるみる山がちになっていく景色と人の家々を見ながら、横で寝ている彼らのことを、
「ええ、みんなうちの息子なんです」
と誰かに言っている自分を想像した。電車は谷峨という駅あたりでトンネルを潜り、急に周りがものすごい山の中になった。六つ子。それとも三つ子を二回。双子を三回。産めなくはない。産んでいる人はいる。私がもし歌人だったら今みたいな気持ちを歌うんだろうと思った。彼らはそこまで似ているわけじゃないけど、共通する雰囲気があった。

 御殿場駅の目の前、ロータリーを渡り、マイロードという商店街というか飲屋街を入ってすぐのところに、今回の滞在先であるゲストハウスがあった。駅からあまりに近い上に、入り口があまりに入り口然としていないので、一度通り過ぎ、戻って建物をぐるっとチェックしてマイクロ・アート・ワーケーションのポスターを見つけ、ここだよな、とドアを押して入った。

 ここから私は急激に御殿場の人たちと知り合うことになる。今私はゲストハウスの自分の部屋にいて、ここにはストーブ、ベッド、コートかけ、大きな切り株みたいなデスクと椅子があって、私はその切り株の上にパソコンを置いてこれを書いている。この部屋の窓からは、外の景色ではなく大きなスクリーンが見える。ここは元映画館だった場所だ。

 ここからの話はまた明日書こうかな。何しろ眠くなったし、もう遅いし、本当は夜より朝に書くほうが好きだ。日付の変わる前に書いてほしいと言われているのだけど、とても色々あったし、書く前に少し休みたかったし、最初の日は私を受け入れてくれる御殿場のみなさん、今回一緒に滞在しているアーティストの鮫島弓起雄さんと色々お話したりしたかった。

 メモ代わりに少しだけですが今日の写真。

マンテンゲストハウスの中。かつて映画館だったところ。
スクリーンは、その時のスクリーン。1階部分の座席はもうない。
左にあるのはテント、その中にあるのはコタツ。
準備してくださっていたウェルカムパーティがマンボウのため中止、
代わりにインスタライブでトーク配信。
森岡さんはバーから、鮫島さんはお部屋から、私はコタツから。
マンボウで20時にはお店が閉まってしまうし、最初の日なので、
と、ゲストハウスオーナーの勝呂さんがご飯を用意してくださった。
菜の花の炒め物がややナンプラー風味でおいしく、たくさんいただいた。
菜の花はここに来る途中の電車の窓からも、
川沿い、線路沿いにたくさん見えた。

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