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Eri Liao 「 飲屋街、雪 (3日目) 」

 マンテンゲストハウスのあるこの御殿場の飲屋街でも、まだ雪の降ってた明るいうちから、配達の酒屋さんがあっちゃこっちゃ出入りしたり、裏通りの店「松ちゃん」からおっちゃんのカラオケがこだましたり、中華屋さんにようやく灯りが点いたり、中華屋さんだけじゃなくて、ガールズバーも、年増のスナックも、ピザ屋も、女子会も、男性グループも、お店、お客、みんな、じっと芽吹きを準備してついに春が来たかのように、看板が出て、電源が入り、キャッチが立ち、我々はその間を大手を振って飲み歩いている。誰に咎められることもなく。マンボウが明けたので。

 ここから歩いて30秒くらいのところにある、「ほらあな」というピザとクラフトビールのお店へ行った。勝呂さんが手がけたお店で、そこかしこがマンテンゲストハウスを彷彿とさせる。流石。ベアードビール、反射炉ビア、生ハムとサラミ、アヒージョ、マルゲリータ、フレッシュチーズのピザ、ベーコンときのこのピザ、エルダーフラワーハイボール。御殿場に来てからというもの、何を食べてもおいしい。ここに住んでる人はこんなにおいしいものを食べてることに気がついているのかしら。「この時期に御殿場にきたなら、絶対食べてほしい、今しか食べられないから」といろんな人に言われて興味のあった水かけ菜、お漬物で少し出していただいた。台湾でお正月に食べる年菜(からし菜?)に似た風味で確かにおいしい。細かく刻んでご飯と混ぜるというのをやってみたい。極寒の時期にしかとれないもので、そして極寒なのでとるのも手足が凍えそうでとても大変な、だけどその分すごくおいしい、と昨日リンコロで小沢さんが話してくれた。

 昨日からなんとなく人々がうずうずしていた。ゲストハウスの窓から目の前の通りを覗くと、20時をとうに過ぎて、もう閉店した飲み屋の周りに、行き場をなくした人たちが、4-5人のグループになってそこここにふんわりと吹きだまっていた。マンボウに区切られた今日と明日の境目で飲兵衛たちの体がさまよっているのを眺めていると、川の水が元に戻らなくなってしまって戸惑う魚を見ているみたいだった。どこからが今日でどこからが明日で、いつまではマンボウで、いつからがマンボウじゃなくて、というのは、身体レベルで感知できることではないのだから。

 このあたりに自衛隊の駐屯地やキャンプ富士なる米軍の基地があるということは、私は藤沢に住むようになるまで知らなかった。一度、自宅のアパートでぼんやりしていると、地鳴りのような、これまで聞いたことのない恐ろしい低音がゾワゾワゾワと下の方から響いて、恐ろしくなって、あわててネットで調べまくったことがあった。「断続的な地鳴りのような重低音について」というタイトルで、神奈川県西部のいくつもの自治体のサイトが自衛隊の演習について書いているのがズラリと出てきて、地域住民からの膨大な苦情をまとめて掲載しているサイトも出てきて、中にはかなり感情的なものもある数々の苦情・クレームを読みながら、それまで自分が全く知らなかったことに驚いた。 

 鮫島さんもnoteに書いていたけど、昨日一昨日と、御殿場の人たちといろいろ話していると、話の端々に自衛隊の存在がはっきりとあるのを感じる。小学校のクラスの半数以上を占める自衛官の子どもたち、雪かきが断然うまい自衛隊の人たち、転勤が多くて引越しの手際がめちゃくちゃ良くなってしまった自衛官の妻たち、「うちの夫、一番最初に死にますから!」と笑って話す、旦那さんが爆発物処理班で働いているママ友、カフェで女の子を口説こうとするがうまくいかない自衛官、キャバクラへ行く自衛官、男3-4人グループで居酒屋で大量に飲む自衛官。そして自衛隊に広大な土地を貸し、貸付料を大きな収入源としている御殿場市。その恩恵を受けることになる御殿場市民。御殿場市民にこうしてあちこちでお世話になる私。

 ここへ来た日、電車で私の横に座って眠っていた若い男の子たちは、米軍の男の子たちだったのかもしれない。「すぐわかりますよ、姿勢がシュッとしてて、だいたい大きいリュックで、髪型も短くて耳の周りがさっぱりしてるから」とこの辺の人は言う。彼らが飲みに来ると言う需要があるので、この辺は飲み屋だらけなんだと言う。御殿場駅を出て、まず目に入るのは、庄や、白木屋、くいもの屋わんほか数件のチェーン店の居酒屋やガールズバー等の入った真っ白で大きなBE-ONEビル。その角を曲がってすぐにあるゲストハウスの目の前のビルも、1階に居酒屋、その上にショットバー、その上にカラオケ。その隣はフィリピングッズのお店、中華屋さんと続く。その先も、昨日までほとんどシャッターが降りていて気がつかなかったが、今日になって、まだずっと飲み屋が続いているのだとわかった。

 今朝は一段と寒く、雨からまもなく雪になって降った。午前中、森岡さんがパグ・サンカクを連れてマンテンゲストハウスにくる。サンカクは寒がりなのか、ストーブの前をほとんど動かなくて、仕事をしている森岡さんの隣でふがふが寝言を言っている。

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 何しろ寒いので、あんまり外に出る気がしない。部屋でひたすら溜まったメールを返信したり、zoomで4月のイベントに向けてミーティングをしたり、共演者に送る音源の録音をしたり、金曜日のライブの曲を練習したり。昨日買ったコーヒーを淹れて、地元のスーパーエピで買った干し芋を食べながら。ライブの衣装を買わなきゃいけないというのは頭にあったが、そういえば金曜日はいくつか試したい新曲があるので、歌詞を覚え、久しぶりの曲は歌詞を思い出し、そして三線を練習しなくてはいけないのだった。昨日まですっかり別世界にきた旅人気分だったのが、一気に日常のことを思い出して、少し焦る。

 昨日の夜のことがものすごい遠い出来事のように感じられる。リンコロのあの空間でみんなと話した時間。今日はそのことを思い出して書きたかったのに、もうこんな時間になってしまった。あと数時間後、エピの入り口横にあって気になっていたコミュニティラジオのスタジオで、昨日リンコロで出会ったウード弾きのタキコさんが公開収録するというので、覗きに行こうと鮫島さんと話している。エピには初日に食料を買い出しに行って、すごく気に入った。また行けてうれしい。大体私はどこへ行っても地元スーパーというものが大好きで、目を皿のようにして全部の棚をくまなく見て、買い物する地元の人たちの振る舞いも少し観察したりして、そういうのがなぜだかもう本当にたのしくて、旅先の地元スーパーという場所に入ると、買い物カゴを取って野菜を見たあたりで、脳内から何か物質が出てスイッチが入るのが自分でわかる。御殿場産干し芋、髪ゴム、沼津のキンカン、沼津の黒はんぺん、牛乳を買って、いつも買い物に使っているエコバッグに詰めた。このまま家に帰れるんだったら、菜の花やみかんの類、お魚、渡辺ハムのいろいろ、見事なお惣菜(しかも見事な値引き!)を何品か買って行きたかった。mayaちゃんが「私何回も行ってるのに、一度もポイントカード作るか聞いてくれないんですよー」と言ったので、「私聞かれた!」と、思わず興奮して立ち上がって挙手した。そういえばエピについての素晴らしい話をロバ夫さんから聞いたので、昨日のリンコロの会と合わせてそのことも書かなくては。

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