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冬木 遼太郎 「BRAZIL FRESH」 焼津市 滞在(4日目)

溜まっていた洗濯物をホテルの乾燥機に入れた後、ビア スタンド ヨージーのマスターに聞いた、食事処「かどや」に昼食を取りに行く。別の人からも、「かどやがあるから焼津に住んでる人もいるくらいに美味しい」という話を聞いた。向かう途中、排水が流れるところから水蒸気が出ているのを発見する。

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におってみると、やはり出汁の空気の正体だった。近くの加工工場から流れ出ているのだろう。

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10分ほど歩いてかどやに着く。すでに何人かがお店の外で待っていた。置いてある紙に名前を書き、席が空くのを待っていると、車から一人のおじいさんが降りてきた。おじいさんも店の中に入ろうとしたのだが、入り口の手前にある2段ほどの階段が登れない。手を支えてあげて、ようやく登れたおじいさんにすごく感謝されたが、車の運転してても大丈夫なんだろうか、と内心少し不安になる。

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店先にあった謎の道具


10分ほど待って入店。店内は、近くに住んでいそうな老夫婦や車で来ているカップル、会社のお昼で来店したサラリーマンのグループなどで賑わっている。みんなとても満足そうですごく良い。気持ち良い接客のおばさんに、マスターがお勧めしていた、すき身定食を注文する。ものすごく美味しい。すき身も勿論おいしいのだけれど、お味噌汁がむちゃくちゃ美味しい。ご飯もおかわりする。

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ホテルに戻り、洗濯物を回収してから、焼津駅に向かう。別の入り口から焼津に入ると、どういう感じかを見たかったからだ。浜松・豊橋方面の電車に乗り、隣の西焼津駅で降りる。3、40分ほど駅周辺を歩くが、基本的には住宅地で商店の数は少なかった。

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再び電車に乗り、もう1駅西側の藤枝駅で降りる。ショッピングモールやホテルが併設されていて、かなり大きい。駅前のバスに乗り、大井川町の方へ行こうと思っていたのだが、次にバスが来るのが50分後だということが判明し、歩いていくことにする。ヘリコプターを見て昨日のスウェーデン人の彼を思い出す。撮ってみたが、遠すぎて虫みたいにしか映らなかった。

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「BRAZIL FRESH(ブラジル フレッシュ)」という食料品店に入る。初日に大井川を通った際に目をつけていたところである。

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入店して真正面に、肉を直接切り売りしているコーナーがありハンバーガーなどの軽食も扱っている。棚には普通のスーパーでは目にしない輸入食品がたくさん置いてあり、奥にはイートインスペースもあった。小さい男の子を連れたブラジル人のおじさんが、ちょうど肉を注文して切ってもらうのを待っていた。コーヒーはあるかと聞いたら、置いてないとの返答だったので、棚のジュースとチーズを練り込んであるというパンを頂く。

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ジュースは敢えて一番味の想像できない、マンゴスチンのジュースを選んだ。不二家のネクターにさらに砂糖を足したような味。マンゴスチン自体の味はあまりわからなかった。パンの方は、一般的なフォカッチャをもう少しもちっとさせたような食感で、普通に美味しかった。おじさんは買い物を終えてもしばらく店主と談笑していた。そういった状況から、この場所がある種コミュニティの拠点にもなっていることがわかる。

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忙しくなさそうなタイミングを見計らって、レジをしていた店主らしきおじさんにいくつか質問する。この地域は昔からブラジル人が出稼ぎに来ていたらしい。おじさん自身も日系ブラジル人とのことで、30年ほど前にブラジルから日本に来たとのこと。

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ホテルに戻り、夕食をとりにいく。街を散策して地元の人がいそうな居酒屋に数点目星をつけ、そのうちの一軒に入ってみる。
が、すでに9時を回っていたので、店内は中央のテーブルでおじさん二人が座っているのと、奥の座敷に4人組の若い方たちがいるだけだった。自分はカウンターの一番端に座り、瓶ビールを注文した。

ビールを飲みながら、おじさん二人の会話に聞き耳を立てていると、どうやら漁師さんと漁業関係の方らしい。他愛もない話もありながら、やはり仕事である漁業について話されていた。おじさんたちの話では、近年の温暖化によって漁場や獲れる魚の種類自体が大きく変わってきているという。北海道でサケよりブリが多くとれたり、これまで西日本が主な漁場だったトラフグが、福島で大量に水揚げされているらしい。

「お料理、どうですか?」店主らしき男性が声をかけてくれた。頼んだものが、カツオのへそや黒はんぺんなど地のものばかりだったので、外から来た人だとすぐわかったのだろう。自分が静岡に来た理由を説明し、焼津について色々と質問させてもらう。ここの店主さんからすれば、商店街の取り組みは全く伝わってこないらしい。「SNSを見ないとわからないような宣伝だけで本当にやっていると言えるのか」「だからマルシェのような催しも事後的にしか知ることができない」という意見を言われた。

今日、大井川の地域を見てきたと言うと、昨年焼津でもコロナ感染者が40人ほど出たという話になった。「多分あれは大井川の方の外国の人たちでしょう。あっちの人は話す距離が近いし、声も大きいから。」自然な受け答えの中に、自分とは異なる人たちに対する否定的な態度があらわれていた。

こういったネガティブなできごとを、この日誌に書くことはすごく大切だと思っている。もちろん過度に不和を強調する必要はない。ただ、このアートワーケーションという企画の旅人全員が「静岡サイコー!」みたいなポジティブな話だけを書いていると、それはかなり異様だと感じるだろう。街の中でのひとつの取り組みをすべての人が肯定しているわけではない、それは自然なことである。意見の相違や、その行き着く先の否定や断絶も存在しているだろう。もしそれが見えないのであれば、そこにはバイアスがかかっているし、本当に街の全てを見ているとは言えないと思う。

総じて社会は少数の、弱い方へとしわ寄せがいく。表出しにくい声や少数の視点を取りこぼさないことは、アーティスト以前に人としての役割だと思っている。

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