冬木 遼太郎 「スープは噛まなくていい」 焼津市 滞在(5日目)
今日は前もって予定されていた通り、土肥さんの紹介で「スープ屋 Hygge(ヒュゲ)」へとお昼ご飯を兼ねて伺う。店主の吉田さんは、まちづくりを考える会の理事をされていて、スープ屋さん以外にも様々な活動をされているらしい。カトウさんの車に同乗させてもらい、焼津駅から南西に10分ほど移動、お店に到着する。
本当に心地良い空間で、時間がゆっくり流れていた。お肉やお魚は使っていないご飯を頂く。
吉田さんと話をする。吉田さんは特別支援学校で教員をされた後、デンマークの福祉に特化した“エグモントホイスコーレン”という学校で勉強され、そういった経験をもとに焼津で活動をされている。2017年にはその学校の生徒を日本に招き、3泊4日のキャンプも行なったそうで、この時の様子はドキュメンタリー映画にもなっている。最近は他にも、菜の花から菜種油をとる、蕎麦をうつ、小麦を育てるなど様々なイベントも企画されているらしい。お話を聞いていると、それらは単純にノウハウを学んだり、イベントとして楽しむというより、吉田さんのポイントが別の部分にあることがわかる。
吉田さんが学ばれたデンマークの学校の特徴は、まず一人一人の意思を認める、というところにある。本人がどう思っているか、どう考えているかを重要視している。例えば、障害をもった当人ではなくその親が、その子の好みを把握しているから、本人に聞かず選択をしてしまうこと。あるいは本人の意志を確認せず、ヘルパーさんと親だけの話で何かを決めてしまうことはどうしても起こりがちである。もちろんそれは、親やヘルパーさんの優しさから起こっている場合が大半だとは思うが、それよりもまず本人の意志をしっかりと確認することが、その学校の教育では大切とされている。要は知っている側(先生、親など教える側の立場)が先行してしまい、その意志によって補正される(教育される)と、物事をニュートラルに見ることはできない。つまり、本人の自由意志を阻害する、という考えのもとにある。
おそらくそれが、吉田さんの手がける活動の根底にあるのではないかと思う。なたね油を採取したり、麦を育てる催しにも同じことが言えるだろう。教える側がいて簡単に方法を伝授されるのではなく、わからない同士でもって、四苦八苦しながら物事と向き合う。知っている人がメソッドを教えるという教育ではなく、自分の意志によって学んでいく教育である。
このスープ屋さんも、ただご飯屋さんを営むというだけでなく、多様な人たちが自由な意志によって集まるための場をいかにつくるか、ということの実践が目的としてあるのではないかと思う。食べるという最小限のシンプルな目的以外に、できるだけ人を限定するような制約を作らない場づくりを考えていることが、吉田さんの発言からも伺える。「スープだと噛まなくてもいいし、高齢の方から小さい子まで誰でも食べられるでしょう」
同じ旅人のカトウさん(左)と吉田さん(右)
約2時間、吉田さんのお店に居座ってしまうことになり、お礼を言ってお店を後にする。カトウさんにお願いをして、地元密着の石津マートに行く。
ここはお店の中で魚を捌いたり、お惣菜を作られていて、猛烈なファンがたくさんいるとのこと。もう夕方4時を回っていたので、売り切れのものが大半だったと思うが、オリジナルな雰囲気が品揃えにあらわれている。
マグロ頬肉の煮付け、カツオのへそフライ、すき身など、地のものを買って帰る。ホテルに帰ってレモンサワーを飲みながら頂く。まだ一度も温泉に行けてないことを思いながら就寝。