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愛のしるし

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たくさんの「スキ」をもらった文章。下のほうにも良いやつがたくさんあります。
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#読書

わたしの好きな字書きさん

「文章が好きだ」と言いながら、わたしはほとんど小説を読まない。芥川賞とか直木賞とかその他諸々、書店に推される話題作にもだいたい興味を惹かれなかった。  おそらくわたしが物語のストーリーをそれほど重視していないのが原因だろう。わたしは小説を読んでいるとき、登場人物の波乱万丈な人生を追うのではなく、その端々で飾られる美しい文を掘り探している感覚だ。  例えば作家がふと何気ない1行に、わたしの文章的嗜好ど真ん中を貫く文を入れてきただけでその作家のファンになれる。何度も何度もその1行

思い出せ、群青

「どうしよう、今日は何も書くことがないな」と困り果てる視界の端に、“本棚”と呼ぶにはあまりにも少なすぎる小説たちが佇んでいた。『イミテーションと極彩色のグレー』には無彩色のグレーの埃がかかっている。そこから1冊またいだところに『三軒茶屋星座館』のシリーズ冬とシリーズ夏。  最近全然読んでないなあ、と思いながら文庫本のシリーズ冬を手に取った。何となくパラパラめくってみれば第三章・山羊座の202ページに無意味の栞が挟んである。  もう今日はこの本について書いちゃおう。  本当

明け方、旅の少年に出会う

 午前2時半、3時過ぎ。中途半端な夜の現に目覚めてしまったときはいつでも、わりとラッキーだと思う。夜更かしが苦手で「23時に寝ます!」と宣言しても結局22時前に布団に入ってしまうわたしが、唯一夜を感じていられる瞬間だから。  直前まで夢を見ていたのかはあまり覚えていないけど、まるで朝かと間違うほどにぱっちり眠りが解けていく。「あ、まだ2時か、ヨッシャ」と思ってだいたい1時間ほどそのまま寝ずに起きている。電気は点けない、布団から出ない、当然カーテンも開けない。  ありがたいの