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経営破綻したJALの元社員だった私が、「働く」についていま思うこと

JALが経営破綻した2010年1月。
私は当時JALグループ社員の1人でした。

私の社会人生活はもう10年以上となり、現在は別の企業で働いています。
10年以上経過した今でも、自分が働く会社の経営破綻がニュースで世に伝えられた、あの日の朝のことを一生忘れられません。

そんな「働く」について心が動かされたこの経験と、現在の私にとって「働く」の意味や小さな喜びが、読んで下さるみなさまに伝わればと思います。

JALは危ない

私は約5年弱の間、グランドスタッフとして勤務していました。

グランドスタッフになることは、高校生からのずっと夢でした。
大学時代はエアラインスクールにも通いながら、いわゆる企業研究もしっかりと行い、面接試験の準備を入念にしてきました。

”JALは危ない”
実は、当時すでに囁かれており、私の耳にも当然入っていました。
しかし、誰もがこう思っていたでしょう。

「まさか、JALが潰れないだろう」

事実、私もそう思っていたし、まったく気にしていませんでした。
とにかくANAかJALのグランドスタッフになれたらそれでいい!と。
内定連絡を受けたときは、努力してたら夢ってやっぱり叶うんだ~!と、純粋に心から嬉しく、早く空港で働きたい!とワクワクしていました。

入社2年目の、ある早番勤務の朝

そんな中迎えた、2010年1月19日の朝。
私は早番シフトの日でした。

私たちの勤務は、早番、遅番、休みの3班に分かれてのシフト勤務です。
JAL便の国際線の搭乗手続きカウンターは、当時朝7時オープンで、国際線カウンター所属だった私は、6時半出社のシフトでした。
いつもと変わらず出社、制服に着替えました。

早番勤務の際は、毎日6時半からブリーフィングという会に参加します。
ブリーフィングは、当日の天候や便の遅延情報の共有、VIP、車椅子などお手伝いが必要なお客様の情報を共有する場です。
その後カウンターに向かい、それぞれの自分の持ち場へつく、それが朝の流れです。

その日もいつものようにブリーフィングルームに向かいました。
すると、いつもいることのない、社長の姿がありました。
なんだろう・・・・・?

そこで社長より「JALが経営破綻し、会社更生法に基づく更生手続き開始の申し立てを行った」と突如告げられたのです。

「え?破綻?私もしかしてクビ?」
「明日から仕事なくなるのかな」

会社更生法・・更生手続き・・・・
生まれて初めて耳にする言葉の数々に混乱しつつも、社長の重々しい雰囲気と口調から、これはマジでやばい話なのだ、さすがにそう感じとりました。

「君たちは悪くない」

静まりかえったブリーフィングルーム。
社長は、このような説明をしてくれました。

皆さんもいろいろな思いがあると思います。
しかし今日も、いつもと変わらず皆さんの仕事があります。
今日も普段と変わらず、ご搭乗下さるお客様をお迎えし、普段と変わらず定時出発をめざしましょう。

今日以降、お客様からはさまざまなお声があると思います。
辛い思いをさせることもあると思います。
しかし、皆さんは悪くありません。
悪いのは会社です。
厳しいことを言われても、自分が言われていると決して思わないでください。
会社が言われているのだと、思ってください。

次第に、周囲からはすすり泣く声が、聞こえました。

社会人になってまだ2年。
先輩に怒られながら、やっと仕事に慣れてきた当時の私。
毎日が必死で、正直この瞬間私は涙は出ませんでした。

しかし、先輩たちの悔しそうな、悲しそうな泣く姿を見て、ここで初めて私は働くことの本当の意味や、素晴らしさ、価値を感じたように思います。

いかに先輩たちが、JALが好きなのか。
この仕事に誇りをもって働いているのか。
働くことってすごいことなんだ。
働くことってこんなに熱い思いになれるんだ。

それを、生まれて初めて知った瞬間でした。

お客様からのエール

幸いなことに、それ以後も私の仕事がなくなることはありませんでした。

普段と変わらず、毎日自分の担当業務をこなす日々でしたが、お客様から厳しいことを言われることがやはり増えました。

例えば便が遅延した際は、
「お前らは国の税金で給与もらってんだぞ!」
と、暴言を吐かれることもありました。
カウンター越しに、マイレージカードを投げられたことも。笑
もちろん、遅延でご迷惑をおかけしているのですが、イライラをぶつけられるのは辛かったです。

しかし、同時に優しい言葉を私たちに下さるお客様にも、たくさん出会うことができました。

「頑張ってね」
「JALを応援してるよ」

そのたった一言が、とても嬉しかったです。

よく飛行機を利用されるお客様の中には、あえてJALを選んでくださる”JAL派”のお客様もいらっしゃいます。
やっぱり働いている自分の会社を好きで、応援して下さる方の存在も、ありがたく本当に励みになりました。

念願のグランドスタッフになった、こうして私たちを応援して下さるお客様がたくさんいる。
辛いこともあるけどやっぱり、この仕事が好き
私もこの先輩たちと一緒に、納得いくまでこの仕事を続けたい!

このJALで働いた約5年弱の経験が、仕事への価値観を変えてくれました。

わたしも誰かにエールを送りたい

それから10年近くたった今、現在は人材業界で働いています。
グランドスタッフを退職し、この仕事に出会ってから、世の中には本当に多種多様な仕事があるんだな、ということを知りました。

求職者の方と接する際は、お仕事を探す中での希望をまず伺います。
勤務地や内容と答える方もいらっしゃれば、時間帯や給与が合えば拘らないという方、また、転職しようと考えた理由も、本当にさまざまです。

このような毎日の中で、多くの人と関わる、そして、さまざまな価値観に触れることができる。だからグランドスタッフの仕事と同様に、現在の仕事もいまでは大好きです。

就職活動は、辛いことも多く、なかなかうまくいかないことも多いです。
もちろん、私の仕事も慈善事業ではない。
なので毎月の売上目標に追われてしまうこともしばしばあります。
しかし、自分が過去にお客様からエールをもらったように、現在は、少しでも関わった求職者の方に、小さくても何かエールを送りたい、そう思いながら毎日働いています。

人生の中で仕事をする時間ってとても長い。
失敗したり、合わない人がいたり、仕事は辛いことも多い。

「何か好きや得意を仕事にできないかな?」
「今やっている仕事を、少しでも好きになれる方法ってないのかな?」

こんなことを私はいつも考えて働いてきました。
私がいまできる仕事、何か小さな1つでもいい。
世の中の誰かに繋がっていて、誰かのためになっている!

それが、私が働くことのいま大きな喜びです。

最後に、現在も航空業界はコロナ禍の影響を受け厳しい状況です。
また、他にも厳しい状況の中働いている方がたくさんいらっしゃると思います。

この記事が多くの方に届き、私が今でも大好きな航空業界、そして現役JAL社員のみなさまへのエールになれば幸いです。
また、仕事に何だか前向きになれないな、というそんな方へ、働く意味や喜びを考える何かヒントになれば嬉しいです。

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