見出し画像

黄色い翼になって

「皆さんが僕らの背中に羽根を生やしてくれますから」

 試合後インタビューで黄色い応援ユニフォームを身に纏ったファンを背中に、佐々HCは笑顔でインタビューに答えていました。ファンのことを「黄色い羽根を生やしてくれる人達」と言った佐々HCの背後で、その言葉を嬉しそうに誇らしそうに見守るたくさんの笑顔を見て、なんて素敵な関係性なんだろうと思いました。
 この光景が、私が宇都宮ブレックスのファンになって良かったと思える一つです。

 バスケチームを応援する人を全て「ブースター」と呼称すると思っていた私でしたが、細かいことを言えば「ブースター」と「ファン」、二通りの言い方があるとつい最近知りました。
 秋田ノーザンハピネッツとのアウェイ戦に初めて現地応援に行った際、ドキドキしながら座ったアウェイ側コートサイド席。黄色い応援ユニフォームを着込んだ人達がベンチ裏からコートサイドまで埋めています。そこへ秋田の会場MCを務めていた方が近付いてきて宇都宮ブレックスのファンと短い会話をしました。(注:多少前の記憶ですので言葉はニュアンス程度です)

MC「宇都宮の皆さんのことはブースターとファン、どちらで呼べばいいですか?」

宇都宮ファン「できればファンでお願いします」

MC「わかりました」

 ???
 ち、違いがあるんですか?
 バスケファンはみんなブースターと呼ぶんじゃないんですか??
 会話を聞いていた私の頭の中ではハテナマークが飛びかいました。まだ試合まで時間もあり、選手も一度コートから控室へ戻っているタイミング。ポチポチとスマホを操作し「バスケ」「ブースター」「ファン」とグー〇ル先生に問いかけます。

「bjリーグのクラブとしてスタートしたところは『ブースター』、NBLルーツのクラブは『ファン』と呼んでいることが多い」

 そう答えが返ってきました。なるほど、宇都宮ブレックスはNBLルーツのクラブだから「ファン」になるわけなんですね。何を初歩的なことを言っているんだ思う方も多いでしょうが、私にとっては新発見でした。しかも、宇都宮ブレックスには「ファン」以外に特別な固有名詞があります。

「BREX NATION(ブレックスネーション)」

 か、かっこいい…。響きがすでにかっこいいし、チームを取り巻くファン、スポンサー、自治体、メディア等、全ての力を合わせ結束し、ブレックスに関わる全ての人々を含めた「BREX NATION」に属する全員で一丸となって激しい戦いを勝ち抜き、優勝を掴み取ろうという理念も素敵じゃないですか。他チームからも「容赦なくアウェイをホーム色に染めてくる集団」として浸透しているくらい熱量のあるブレックスファン。自分もその一欠片になれたらいいなという思いで席に座っていました。
 そんな私はこの後、BREX NATIONの「情熱」と「知性」と「あたたかさ」を実感することになります。

 情熱。それは会場についてすぐに目に見える形で視界に飛び込んできます。秋田のクレイジーピンクに彩られた会場でも、ブレックス側のベンチ裏からコートサイドにかけては黄色に染まっていました。その光景に感動しつつコートサイド席に向かうため、ベンチ裏席前を横切っていて気がつきました。いつも配信で見かける、コールリーダー的な存在のブレックスファンの方がいるではないですか。その周りにいらっしゃる方も配信でお見かけする人達ばかり。「本物だ…」という興奮を隠して席につき改めて周りを見てみると、恐らくは宇都宮もしくは関東圏から遠征してきたと思える人が多いということに気がつきました。しかも皆さん旅慣れてる雰囲気。ブレックスを応援するため全国各地へ足を運ぶほどブレックス愛に溢れるファンの一端に、今日は自分も加われるのかと試合前からワクワクしてきました。

 知性。応援を確実に選手に届けるため、そして相手チームを圧倒するための工夫がされていると感じました。もしかすると、そこまでの意図はなく自然と行なっていただけなのかもしれませんが、私には「さすが」と唸る場面がいくつかあったので書きたいと思います。
 まず、試合前から勝負は始まっていました。秋田のMCの方が会場を盛り上げるため、今日の試合の見どころや秋田の選手の話題をしていた時間があったのですが、そこで両チームのブースター・ファンに向かって「盛り上がっていきましょう」みたく声をかけてきました。当然秋田ブースターが多い会場には「おぉー」という歓声が鳴り渡ります。次にブレックスファン。すると会場に響く「レッツゴー!とちぎ」のコール。とりあえず大声を出すつもりだけだった私も慌てて「レッツゴー!とちぎ」と合わせます。人数と声量では圧倒的に負けていましたが、統率された応援という点では「やってやったぞ」と思えました。
 また試合中のコールのタイミングも計算されていると感じました。秋田のホームアリーナですので、オフェンスもディフェンスも当然秋田側のコールの音響が大音量でかかります。しかし、その音響がかかるより早くブレックスファンはコールするんです。音響がかかってしまえばブレックスファンの声援はかき消されてしまいますが、音響が鳴る前の最初の第一声は確実に選手にも届いていたはず。
 もちろんこれは私の勝手な想像で、コールリーダー的な方達はそんな計算はなく純粋に応援していただけかもしれません。それでも「選手を勇気付けたい」、その思いが自然とあの応援の形になったのであれば、それはすごく素敵なことだと思いませんか?

 あたたかさ。この日ボッチ観戦をしていた私の隣には、宇都宮から遠征して来たらしい背番号13の応援ユニフォームを着たナベさんファンの二人組。試合中、目の前で繰り広げられる「いつもは画面越しに見ていたプレー」に私は思わず「うわ、本物だ」と声に出ていました。すると「初観戦ですか?」とナベさんファンが声をかけてくれました。初めての生ブレックスに舞い上がっていた私に、ナベさんファンのお二人はフレンドリーに接してくれ、ベンチから大きな声でアピールしている佐々HCの姿に「いつものノリオです」と解説してくれた時は思わず笑っちゃいました(その後コートインしてテクニカルファウルの笛を吹かれてしまいましたが…)。終始楽しく、たとえオフェンスでなかなか決めきれない場面が続いた時でも声援を送り続けることができました。
 試合中はブレックスを全力応援することはもちろんですが、ハーフタイムや試合前後もブレックスファンは楽しんでいるように見えました。秋田のマスコットであるビッキーに合わせて一緒にウェーブに参加したり、試合前の高校生のエキシビジョンマッチに拍手を送ったり、試合終了後は敬意を表して「ゴー!ゴー!ハピネッツ」のコール。BREX NATIONであることの自負、それを感じました。

 ブレックスの選手達はファンに向けて「皆さんの応援が力になった」「遠征にも足を運んでくれてありがとう」「画面の向こうでも応援してくれる人に感謝している」といつも感謝を伝えてくれます。
 佐々HCはファンのことを「日本一」と言ってくれます。
 常に泥臭く全力でバスケをしてくれている人達にここまで言ってもらえるなら、どこまでもついていこうと思えます。私達の声が少しでも選手の力になるなら、声の限り応援し続けたいと思えます。一人一人は一枚の羽根でも、寄り集まって大きな翼になれます。どんなにタフな試合でも、勝っても負けても、選手の背中に高く飛ぶための黄色い翼を生やしたいと思うのです。

 初めて行った現地観戦。BREX NATIONの黄色い翼の一部、羽毛の毛羽立ちくらいにはなれたかなと思えた日でした。

#宇都宮ブレックス
#BREXNATION

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?