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全世界債券: サクっと全世界債券について

 前回の投稿では、私の投資方針について述べました。その中で積立予定として投資信託(投信)を3つ挙げました。各投信の選定理由とBenchmarkと投資先について、私見をまとめたいと考えています。
 今回は2/10に約款変更で登場した「サクっと全世界債券」を取り上げます。この投信についてまとめたブログやポストが乏しく、最も有益だと考えるので、最初にこの投信を取り上げます。
 結論として2024年2月時点で全世界債券に投資するベストな選択肢です。

(画像はサクっと全世界債券の交付目論見書の表紙より)


1. サクっと全世界債券の基本情報

 サクっと全世界債券とは、SBI AM(アセットマネジメント)が運用する投信「SBI・iシェアーズ・全世界債券インデックス・ファンド」の愛称です。
 BenchmarkはBloomberg Global Aggregate Bond Index (USD hedged) (円換算ベース) (以下 BBG Gl Aggregate Bd Index)で、円への為替ヘッジはありません。
 Fund of Funds(FOF)方式で運用され、投資先はBlackRock社のETF(AGG, IAGG)です。総経費率は0.1098%(税込)程度、内訳は信託報酬が0.0638%、投資対象とするETFの経費率が0.046%程度となっています。

 日本を含む先進国と新興国の信用格付BBB以上の債券に、これ1本だけで低コストで投資できる魅力的な投信です。
 懸念点もありますが、現状(2024/2現在)は同ジャンルで最低コストであり、債券を世界に分散投資するベストな選択肢だと考えます。

 詳細な情報は下記の公式情報を参照してください。

2. 世界の債券に投資する

 私は全世界債券に投資しています。今後も継続して積立る方針です。

 一方で前回の記事でも述べたように、𝕏(X, 旧Twitter)の投資家さんたちの間には、外国債券不要論が根強くあります。
 私は山崎元さんの影響が非常に強いと考えています。この傾向は2009年頃には既にあったようで、後に名著『ほったらかし投資術』(初版は2010年)の共著書となる水瀬ケンイチさんは2009年に下記の様に述べておられます。

概ね外国債券クラスには否定的な意見が多かったように思います
(中略)
理論的には、山崎元氏の外債ほぼ不要論が影響を与えているようです

水瀬ケンイチ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」2009/12/06

外国債券不要論のおさらいになる資料

 ここで、山崎さんの外国債券不要論をおさらいとして、以下に2つの記事を紹介します。1つ目は2009年の記事です。一貫して外国債券不要論を唱えておられたことを確認するためにリンクします。
 2つ目は2023年に執筆された記事です。この記事は山崎さんの債券投資に関するお考えの集大成だと考えられるため、この記事の目次と結論を引用します。多くの文章を引用するのは差障りがあるので、理解を深めたい方はリンク先をご確認ください。

●株式と債券の組み合わせに妙味はあるか?
●事実上、国債以外の債券は買いにくい
●個人向け社債は、市場で不人気だから個人に売られている
●外国債券はしばしば手数料の塊である
●仕組み債は個人向けに売られていること自体が問題だ
●個人と機関投資家では債券に対するニーズが異なる
●ハイイールド債にはリスクプレミアムが存在する
●個人投資家に債券投資は要らない

山崎元「個人の債券投資覚え書き(トウシル)」2023/6/13

 暫定的な結論として、
(1)個人が安心して投資できる対象が主に国債しかないこと、しかし、
(2)国債にはリスクプレミアム的なリターンが期待しにくいこと、
(3)個人の資産配分ではリスクを薄める必要性が乏しいこと、
などを考えると、株式との分散投資効果が存在する可能性に少々未練は残るものの、個人の資産運用には債券投資は必要ないように思われる。

山崎元「個人の債券投資覚え書き(トウシル)」2023/6/13

 なお目次のうち、「外国債券はしばしば手数料の塊である」という点については、サクっと全世界債券に限ると当てはまらないと考えます。

 しかし、外国債券に高コストの商品が多い点は事実であり、投資家は注意する必要があります。例えば2月16日付けの日経電子版の記事には「プロが厳選」した投信として「人気な」投信を純資産総額ランキングで紹介しています。表紙画像の2商品の信託報酬を確認したところ1.848%と1.65%です。これは手数料の塊と言って良いでしょう。
 これらの信託報酬を調べるために確認したSBI証券の投資信託パワーサーチで、ファンド分類を国際債券にして純資産降順で上位20銘柄を確認したところ、信託報酬が0.55%未満の商品はたった2銘柄です。
 こうした高コストの商品には近づかないのが賢明です。

債券を組み入れる根拠

 一方で、ボーグルは『インデックス投資は勝者のゲーム』で「『なぜ債券を保有するのか』ではなく、『ポートフォリオのどれだけを債券に充当すべきか』」が重要と述べています。
 私は前回の記事でいくつか債券と金に投資する理由を上げましたが、1番目に上げたのが下記の理論です。

第一に、長期は短期の連続であり、短期的には債券が株式よりも高いリターンをもたらしたことが多いからだ。(中略)
第二に、これがより重要だと思うのだが、ポートフォリオのボラティリティを抑えることで、株式が大きく下落するときのダウンサイドプロテクション、いわば危険防止策を講じることができる。(中略)
第三に、債券利回りは1960年代初頭以降最低の水準にあるが、現在の債券利回り(3.1%)は株式の配当利回り(2%)を上回っている。(中略)債券には比較優位があるのだ。
以上を考慮すれば、「なぜ債券を保有するのか」ではなく、「ポートフォリオのどれだけを債券に充当すべきか」という疑問に変わることになる。

Bogle J. C., 2018, インデックス投資は勝者のゲーム ─株式市場から利益を得る常識的方法,
パンローリング, 長尾慎太郎 監修・藤原玄 訳. より第14章

 なお、同書の18章では詳しくアロケーションについて述べている他、すべての章が投資家にとって有用であると考えており、おすすめの一冊です。

 別の視点として、債券の時価総額は株式のそれを上回ります。下記にリンクした米国証券業金融市場協会(SIFMA)のレポート「2022 Capital Markets Outlook」(2021)によると世界の株式時価総額は118兆USD、債券は123兆USDとなっています。
 世界の成長を信じる全世界投資家(地球投資家)として、この巨大な債券市場を無視することはできません。

Figure 3 世界の時価総額 (SIFMA, 2021)

 さて、ここからは個人的な見解を述べます。
 山崎さんは上述の目次にある「事実上、国債以外の債券は買いにくい」の中で、債券の流動性の問題を挙げておられます。この点は受け入れて、個人向け国債以外のいわゆる「生債券」は不要という結論で良いかと考えます。
 一方で、ボーグルの理論を受け入れると債券は重要である、また市場規模から無視できない、それゆえ投信として間接的に債券を保有する分には構わない。ただし、株式と債券のアロケーションが重要である。その際には株式と同様に低コストと分散を意識するというのが、私の考えになります。

 ただ、しばしば債券への投資は、元本を保全しながらインカムゲインを得る手段として用いられます。
 私は、この手段では用いません。ボラティリティがある商品として、価格変動も為替変動も受け入れます。そのうえで、相対的に株式よりもボラティリティが小さく、利回りが大きい商品としてポートフォリオに組入れます。

米国債券か先進国債券か全世界債券か

 前回の記事で株式投信でオルカンを選定した理由として「特定の国に集中するよりも、国も分散する、国の中のセクタも分散する、銘柄も分散するという戦略が合理的と考えてよいかと思います」と述べました。
 債券も同様に考えます。したがってアメリカ1国に集中する米国債券よりも先進国債券、先進国債券よりも新興国を含む全世界債券が良いとなります。

 しばしば、信用リスクや為替リスクが大きいことを理由に新興国債券は不要であるとの見解を目にします。
 私は、ウェイトから見て新興国の影響は軽微である一方で国や通貨の分散につながると考えて全世界債券を選びます。
 一方で上記の主張に同意されるならeMAXIS Slim 先進国債券などでも良いかと考えます。

3. FOFの投資先について

 ここからは、サクっと全世界債券の投資先について述べます。
 サクっと全世界債券は先述したようにBBG Gl Aggregate Bd Index (USD hedged) (円換算ベース)に連動するように設計されています。
 その方法は先述したようにFOF方式でアメリカに上場されているETFでBBG U.S. Aggregateに連動するAGGとBBG Gl Aggregate Bd Index ex-USA に連動するIAGGを組み合わせています。
 比率はAGG 60%, IAGG 40%が基本投資割合となっています。
 (これはBenchmarkのアメリカ約40%と異なる比率です。後述します)

Figure 1 サクっと全世界債券の特色 (交付目論見書(2024/2/10)より)

 以下で各ETFについて述べます。

AGG

 AGGとは、「iShares Core U.S. Aggregate Bond ETF」のTicker symbol(東証の証券コードに相当)です。この記事ではAGGと呼びます。
 BenchmarkはBBG U.S. Aggregate Index (USD)です。
 経費率は0.03%と極めて低コストです。
 2/15時点で11,525本の債券を保有しており、過去1年間の利回りは3.24%、残存期間は加重平均で8.4年となっています。

IAGG

 IAGGとは、「iShares Core International Aggregate Bond ETF」のTicker symbolです。この記事ではIAGGと呼びます。
 BenchmarkはBBG Gl Aggregate ex USD 10% Issuer Capped (Hedged) Indexです。
 BenchmarkにUSDでのヘッジがあるうえ、10%の発行体キャップがオプションされている点は気になります(ない方が好ましい)。
 経費率は0.07%と世界の債券に投資するETFとして極めて低コストです。
 同じく2/15時点で5,096本の債券を保有しており、過去1年間の利回りは3.59%、残存期間は加重平均で8.2年となっています。

 AGGとIAGGは信用格付がBBB以上の債券に投資するうえで、低コストで分散が効いている良いETFだと判断できます。
 また、ボーグルが述べた「債券利回り(3.1%)は株式の配当利回り(2%)を上回っている」は2024年においても有効であることがわかります。(AGGが 3.24% IAGGが3.59%, オルカンと同じ指数に連動するETFのACWIは1.88%)

4. サクっと全世界債券の課題

Benchmarkのウェイトと差がある

 さて、3節「FOFの投資先について」で後述すると述べた、BenchmarkのウェイトとFOFでのウェイトに差がある点について述べます。
 一般的にインデックスファンドは指数に連動するように運用されるため、配分をBenchmarkに近づけるようにします。
 実際にサクっと全世界債券の請求目論見書を見ても「ポートフォリオの国・地域別構成比率(以下、構成比率)等がベンチマークの構成比率に近くなるように、投資対象ファンドの基本投資割合を調整します」(下記画像の2‐(1)‐2.‐(ii)‐③参照)と記載されています。

Figure 2 サクっと全世界債券の投資方針 (請求目論見書(2024/2/10)より)

 一方で同項目にはアメリカを60%、アメリカを除く全世界を40%に配分すると記載されています。
 オルカンに投資する方ならアメリカの比率60%に違和感を持たないかもしれません(私も当初は意識していませんでした)。しかし、債券の時価総額ではアメリカのウェイトは40%程度です。例えばサクっと全世界債券と同じ指数に連動するLSE上場のETF、AGGGやGLAGで確認してみるとアメリカの比率が約40%です。このズレが非常にきになります。
 𝕏でこの点について指摘しておられた、あさばちゃん(@asb_joya)のポストを引用する形で下記の投稿をしたところ、SBI AMさんからお返事をいただけました。
以下に引用します。SBI AMが引用に差し障りがある場合は削除できるように返信ポストを埋め込みます。(長くなりますがご了承ください)

 まずは、速やかに対応してくださった。SBI AM担当者の方に改めてお礼申し上げます。丁寧な回答をありがとうございました。

 さて、回答の大意は指数への連動性を確保しつつ低コストにするため構成比を検証した結果としてこの構成比が適切だと判断したとなります。
 つまり、経費率が相対的に高いIAGGのウェイトを下げてもBenchmarkとの乖離が少ない割合を選んだと取るのは、穿った見方でしょうか?
 低コストは嬉しいですが、IAGGも十分低コストだし、約款変更前の早慶率から見たら十分低いので、素直に指数の配分にしたら良いと思います。
 しかし、低コスト化のために尽力されているようです。

 ここで気になるのは本当に連動性が確保されているかという点になりますが、2/10の約款変更以降1週間では検証のしようがありません。
 最短でも次々回の月報(最新の月報は12/29基準)か第11期の運用報告書が出る5/12頃まで待つ必要があります。

現状はベストな商品

 しかし、月報や運用報告書を待たず、積立を継続すると判断しました。
 まず、FOFで運用されており投資先のETFが投資目的に合致している点が挙げられます。

 低コストで全世界の債券に投資するならAGGとIAGGの組み合わせは最適です。なぜなら先述したLSE上場のETFは日本から購入できず、購入可能な外国ETFに同指数や類似指数の優れた商品がありません。したがって両ETFを組み合わせるのは、現在の日本の投資家にとってベストな選択肢です。

 もっとも外国ETFを組み合わせるなら他にも選択肢があります。しかし、資産形成において国内投信は商品の特性に外国ETFよりも優位性があると考えます。外国ETFは分配金を支払う必要があり、再投資に手間がかかります。一方で投信は分配金を支払わずに投信内で再投資することが可能です(分配金を出す投信もある)。
 また、投信の場合は金額指定で購入できるメリットもあります。
 したがって資産形成が目的の私の場合は外国ETFで保有するよりも国内投信で保有したほうが有利と考えます。

 【余談】また国内の投信やETFは二重課税調整が可能で確定申告の簡便性もあり、やはり国内の商品に優位性があります。国内にない連動指数のETFを除き国内のほうが有利です。

 それでは、他に優れた投資信託がないかSBI証券の投信パワーサーチで検討した結果、かろうじて楽天全世界債券がある程度だと再確認できました。やはり全世界債券に投資する低コストの投信は貴重です。
 楽天全世界債券は、アイルランド籍の投信をFOFで運用していますが、円での為替ヘッジがあるうえ、指数に余計なオプションがついており、相対的にコストが高いです。

 以上の結果からFOFでの投資先が信頼性があるETFであり、指数のウェイトと異なっていても、個別にETFを保有するよりもサクっと全世界債券で保有するほうが適していると判断します。
 つまり現時点ではベストな選択肢です。

5. サクっと全世界債券の積立方針と今後について

 以上のように今後もサクっと全世界債券を積立るという結論が出ました。
 前回の記事で述べた比率や毎月積立の方針に変更はありません。
 今後ともサクっと全世界債券に投資する(あるいは考えている)仲間と情報交換できたら嬉しいです。

知名度を上げたい

 一方で、冒頭にも書いたように、サクっと全世界債券は𝕏であまり話題になっていません。私は約款変更のお知らせを偶然SBIグループの公式サイトで見かけ、「素晴らしい投信が登場した! これぞ待っていた債券投信だ!」と感じたのですが残念です。
 しかし、そのおかげで、議論を深める事ができる少数精鋭の仲間と出会うこともできました。その点には感謝しています。

 しかし、気に入って積立ている投信なので知名度が上がってほしいなと思います。
 今後、全世界に株式も債券も投資する投資家が増えて知名度が上がってほしいと考えています。
 課題もありますが優れた投信です。盛り上げていきましょう!!!

 オルカンのような略称を考えアンケートをしましたが、残念ながら思うほど広まりませんでした。投票してくださった方には深く感謝しています。ありがとうございます。
 また、アンケートを考えたあとに頂いたアイデアもあります。せっかくなので、ここで紹介します。

最後に

 17日の朝にこの記事を書き始めたところで、先述の あさばちゃん(@asb_joya)のポストを見て慌てて、公式さんに質問したところ、SBI AMさんから迅速なご回答をいただくことができました。
 SBI AMやSBI GAMそして朝倉社長のフットワークに感謝です。配分については疑問もありますが、低コストを求める個人投資家にとってありがたい存在です。ありがとう!

6. 参考情報

サクっと全世界債券について

AGGについて(英語版、日本語版)

IAGGについて(英語版、日本語版)

AGGGについて(英語版のみ)

GLAGについて(英語版のみ)

オルカンについて

オルカンの同指数のACWIについて

楽天全世界債券について

楽天全世界債券のFOF先の投信について

eMAXIS Slim 先進国債券について

免責事項

 この投資方針は、私の個人的な考えに基づき私の自己資産を運用するためのものです。記事中の銘柄・投資方法を推奨・勧誘するものではありません。投資は大きなリスクを伴うものです。投資する場合は自己責任で行ってください。
 市場環境や状況に応じて変更する可能性があります。その場合はXに投稿する予定です。


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