性教育について調べたら日本の歪みに辿り着いて絶望している件

 卒論で性と生殖に関する健康と権利(SRHR)について書いている中、ゼミの先生から「日本の性教育は世界と比較して逆行している。その背景を調べなさい」と言われ、SRHR研究会の記事から七生養護学校事件に辿り着いた。養護学校で具体的な避妊方法や性行為を教えていたところ、それが「行き過ぎた性教育」だと保守派の人々から批判され処罰されたという事件だ。(結局wikiの概要が一番分かりやすいので貼っておく: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E7%94%9F%E9%A4%8A%E8%AD%B7%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E4%BA%8B%E4%BB%B6)

 「保守派の人々」。もっと言うと、夫婦別姓・同性婚などに反対し、伝統的な家族の形を支持、ほかにも憲法改正賛成、原発賛成、慰安婦の否定、米軍基地移設賛成…多くの人が一度は耳にしたことがある政治的問題で、THE・自民党って感じの意見を持っている人々だ。
 また、この事件に登場する政治家は統一教会との関連が指摘されている人がほどんどで、襲撃事件が起こるよりずっと前から統一教会は日本を浸食していたのだと痛感させられる。襲撃事件の数日前、暇つぶしにカルトに関するサイトを見漁っていたら、安倍氏と統一教会との関連が噂されているとの記事を読み、なるほど日本で夫婦別姓や同性婚が進まず、伝統的な(?)家庭の形にこだわる政治家が多い理由はここにあったかと点と点が繋がったことはあった。合同結婚式の”儀式”を読んで、吐き気がしたこともあった。しかし、彼らの力が性教育の歯止めにまで及んでいたとは正直知りもしなかった。
 私は彼らの論調には積極的に歯向かっていきたい所存だが、その理由は「困っている人がいるのに、自分たちの権力のために人々の権利を踏みにじってるのは承服できない」からであり、自分が直接的に被害を受けているとか、そういうわけではなかった。やんわりと感じる生きづらさに繋がっていることは知っていたが、それに慣れてしまった自分もいて、被害者意識的なものはなかった。自分の苗字が気に喰わないのでさっさと結婚して変えたいとまで思っているし、たぶん異性愛者だし、該当する地域に住んでいないし、そもそも地元とかこだわりないし。
 けれど今回の「性教育への介入」は、当事者ど真ん中で、十分な性教育を受けられなかったことで私たち(とりわけ若年女性)が被る害と、晒されている危険の多さを実感していた。そのため私は今、彼らの卑劣な行為に対して以前までとは違う、恨みにも近い憤りを感じている。

 幼いころから十分な性教育を受けていない私は正直、性教育に関する卒論を書きながらもそのような話題に漠然とした抵抗感がある。どうしても、性に関する話題ははしたないことだという認識が拭えないのだ。その抵抗感自体が、一部の権力者によって植え付けられたものであり、彼らによって自分の知る権利を剝奪されていたのだと知ったときは悔しさで息ができなかった。

 私は子宮頸がんワクチンを対象年齢が過ぎてから接種している。母が副作用を懸念し、私もそれを鵜呑みにしてしまったことから接種が遅れたのである。これまではメディアに踊らされた自分を反省する経験くらいにしか思っていなかった。
 しかし、七生養護学校事件後に発足した「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の事務局長だった山谷えり子氏が、子宮頸がんワクチンの10代接種に反対していることを知った。ワクチンは10代での性行為を前提としており、定期健診で防げるからだという。

 涙が止まらなかった。十分な性教育も受けさせず、主体的な避妊など自分を守る選択肢を奪っているのは、私たちを危険に晒しているのは、この悔しさを分かってくれると信じていた女性だったからである。
 日常的なジェンダーギャップ、性被害、セカンドレイプ、性暴力が軽んじられ、自己責任と批判される社会。誰も得しないと皆が気づけば社会は変えられる、そう信じていたのに。そもそもが間違っていた。

 遅れているのではない、逆行しているのだ。ゼミの先生が「逆行」という言葉を遣った理由がようやく分かった。
 遅れは取り戻せる。進めればいいのだから。けれど逆行は、それに抗う強い力が必要になる。逆行させている者たちの多さに、強さに、圧倒されている。逃げ出したい。無理だ、この国では解決できない。ここ最近の暗いニュースも相まって、日本から脱出したいとこれほどまでに強く思ったのは今日が初めてだった。

 今回の卒論では、性教育と政治との関連までは含まれない。あくまで国際的な基準に沿った性教育イベントであり、中学校でその話をするわけにはいかない。
 けれどイベントの対象者である中学生にはどうか、どうかこの歪みに辿り着いてほしい。あわよくば一緒に声を上げていきたい。
 せめて、受講してくれた生徒全員が自分で身体と心を守れるように、知ってほしい。助けて欲しいときに正しい手を取ってほしい。

 たった一度のイベントだけど、このために色んな経験を積んできたとまで思う。頑張ろう、良いものを作ろう。

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