ワクチンによる心筋炎とコロナ罹患による心筋炎、どちらが多いのか。 厚労省が作成した資料のデタラメを指摘する

ツイッターのトレンドに「宮沢先生」というワードが上がっていて、何かと思って見に行ったら、京大ウイルス研の宮沢孝幸准教授が「TVタックル」に出演して、それが話題になっていました。宮沢氏は関西のテレビにはわりとよく出ているようですが、東京だとTVタックルくらいで、他の出演者らで宮沢氏を袋だたきにするのが定番になっています。そういう番組です。

私は見ていなかったのですが、この番組に出演していた東京医科歯科大学病院副病院長の荒井裕国氏が、「若い人がコロナに感染した場合の心筋炎発症率は100万人あたり800人」という数字を持ち出して、子供もワクチンを打てと主張したようです。ワクチンで心筋炎を発症するより、コロナ罹患で発症する確率の方がはるかに高いから、ワクチンを打つべきだと。宮沢氏は「実数は少ない」と反論したものの、中途半端に終わってしまったようで。

問題は、この「100万人あたり800人」という数字です。これ、デタラメな数字なんです。ネット上では、森田洋之医師や宮澤大輔医師(お世話になっております)など多くの方が指摘していて、今さら私が書くのもなんなんですが、検証をかねて解説してみます。

この数字のネタ元は厚労省がWebで公開している「心筋炎関連事象疑い報告の状況について」(2021年10月15日)です。どこがどうデタラメなのか、検証してみましょう。

●心筋炎関連事象疑い報告の状況について」(2021年10月15日)https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000844075.pdf

このPDFには、次のような図表が出ています。


ワクチン接種後に発症した心筋炎等の症例数は、100万人あたりで、ファイザー製ワクチンの場合、10代男性で3.7人、20代男性で9.6人、モデルナ製の場合、10代男性で28.8人、20代男性で25.7人となっています。一方、新型コロナ罹患による心筋炎等発症数は、100万人あたり834人となっています。この比較図を見れば、誰もが「コロナにかかって心筋炎になる確率のほうが圧倒的に高いから、子供もワクチンを打った方がいい」と思ってしまうはずです。

ところがですね、この図の下の注意書きには「国内の新型コロナ感染症の入院患者の15〜40歳未満の男性で、100万人当たり834人」と書かれています。つまり、分母は「15〜40歳未満の男性入院患者」なのです。「入院患者」に限定していて、しかも「30代」まで含めている。この年代でコロナに罹患して入院する確率は非常に低いですが、それを分母にしているんですね。

これがどこから出てきた数字かというと、このPDFの30ページ目に下の2枚目の図表が出ています。15歳から40歳未満の男性の場合、「対象人数」(入院患者)は4798人で、その内、「心筋炎関連事象者数」は4人(死亡1人)となっています。

あれ?って思いませんか? 実数がたった4人なんですよ。たった4人だけど、この年代の男性入院患者が4798人だから、約208倍して100万人あたりに換算して、834人だと言っているのです。しかし、いったいいつ、この年齢層の男性の入院患者が100万人に達したのかと。

ただ、「本当にたった4人なのか?」と、普通は思いますよね。漏れがあるんじゃないかと。ごく一部を切り出して割合を出して、全体に外挿しているという可能性はあります。

このデータは、国立国際医療研究センターが主導する「COVID-19 Registry JAPAN」(https://covid-registry.ncgm.go.jp)という研究調査から出てきた数字だとPDFには書かれています。

(2022年7月1日追記)-----------------------------

最初に書いた稿では、「2021年5月31日時点で、この研究調査には、922施設の研究施設が参加し、登録症例数は41万385症例となっています」と書いていましたが、記述を間違えたようで、正しくは「4万1385症例」でした。そこで、以下のように書き直しました。

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2021年5月31日時点で、この研究調査には、922施設の研究施設が参加し、登録症例数は4万1385症例となっています。一方、日本全体の検査陽性者数は、2021年5月30日時点の累計で約75万人です。「COVID-19 Registry JAPAN」の登録症例は入院患者に限ったものですが、それでも、すべてを網羅しているとは言えず、おそらく漏れがあります。
検査陽性者の約75万人に対し、登録症例数(入院患者のみ)が約4万症例という比率から、実際の心筋炎発症数はおおよそ10倍と仮定し、判明している4人の10倍で40人と想定します。

ワクチン接種は基本的に国民全員が対象ですが、コロナ罹患のリスクも国民全員にあるわけです。だから、公平に比較するなら、「入院患者数」ではなく、「この世代の人口」を分母にすべきです。

年代別の人口(2021年8月1日時点)は、15〜19歳男性人口は290万人、20歳代男性人口は650万人、30歳代男性人口は710万人で、合計で1650万人になります。この中で、コロナに罹患して入院して心筋炎を発症したのは仮に40人とすると、100万人あたりに換算して2.4人です。
一方、ワクチン接種後の心筋炎等の発症率は前述した通り、100万人あたり、ファイザー製ワクチンの場合、10代男性で3.7人、20代男性で9.6人、モデルナ製の場合、10代男性で28.8人、20代男性で25.7人です。

やはりワクチンの方が心筋炎等の発症リスクが高いと言えるのではないでしょうか。

しかし、若い人の場合、なぜワクチンを打った方が心筋炎のリスクが高まるのでしょうか。ここからは医師でも研究者でもない素人の推測です。

コロナワクチン接種で起きる重篤な副反応は、自分自身の免疫によって自分自身が攻撃されて起きるとされています。ウイルスに攻撃されているわけではないんですね。コロナ感染症では、喉や鼻の粘膜にコロナウイルスが留まっている間は無症状・軽症ですんでいますが、そこからウイルスが血中に入り込むと、免疫が暴走して重症化するとされています(諸説あり)。一方、コロナワクチンというのは、ウイルスモドキを血中に入れることで、重症化した状態を軽く再現して免疫を引き出すものなので(抗体は血液中にできます)、心筋炎など重篤な副反応が起きてしまうことがあると。
で、若い人の場合、ほとんど重症化しないので、ワクチンによる害のほうが大きくなってしまうのだろうと思います。

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