~南へ50㎞ カラスのカァ君と共に~

台所から出る野菜くずを、毎朝裏の畑に撒いて肥料がわりにしている母。
その野菜くず目当てに一羽のカラスが、毎日ほぼ決まった時間にやって来るという。一般的なカラスのイメージとしては…通行人を蹴ったり、バス停に置かれた旅行客のバッグを漁ってみたり、威嚇するような鳴き方をしたり…特に繁殖期にはヒナを守るため神経質になるらしく、凶暴なイメージが殆どだ。
驚いたのは、母は怯えるでもなく、そのカラスをカァ君と名付け「そこに野菜のくず撒きたいから少し下がって待ってな!って教えたら後ずさりして、ちゃんと待ってるんだ。毎日話してると可愛いもんだね~」とカラスと友達になった事を泊まりに行った私に笑いながら得意気に話すのだ。数年前の話…。
幼少期、にわとりに思いきり突かれたトラウマから鳥全般がとても苦手な私だけど、母が可愛いと思うものを何だか可愛く思えてくる不思議…。


~・~・~・~・~・~・~・~
5月…快晴!今日もベランダに出て洗濯物を干す、いつものルーティンだ。目の前に割と太めの電線があり、視線を感じて目をやると一羽のカラスが私を見ている。いや、そう思ったのは私だけか(?_?;
「おはよう😊お前はカァ君かい?」とりあえず聞いてみた。
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そのカラスはバサバサと音を立て私のすぐ近くまで飛んでくると、当たり前のように腰?をおろした。『どこ行きたいか当ててみようか?』おもむろにカァ君は私にそう尋ねた。なんで分かるの?そう!私今日、会いたい友達がいるんだ!N子っていうの。幼なじみで大事な友達!と説明するのももどかしくて「連れてってくれるの?」と、図らずも前のめりでカァ君に聞いてしまった。カァ君は一瞬ドン引きしたような表情をしたけど、やれやれと外国人が肩をすぼめて微笑む、あのポーズをして『しょうがないな~』と笑った┓( ̄∇ ̄;)┏
身支度・戸締まり!スローな私は、そこからが早かった💨💨よし!レッツゴー!いや、ちょっと待て…カァ君の背中に乗るには…私は大きすぎやしないか?人間だから。『ハイ、これ使うんだよ』カァ君に渡されたMINTIAくらいの大きさのリモコンみたいな物体。そのリモコンには「縮小」と「等身大」の二つのボタンが付いていた。そっか!縮小を押して背中にまたがるんだね?戸惑う事なく縮小を押した。ウォータースライダーの中に入って高速でグルグルと流され、ドボン💦バシャン💦と水しぶきを上げてプールに飛ばされる感覚💦
時間にしたら、ほんの3秒!ほんの一瞬の出来事だった💦
いざ出発!


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「そこを右に曲がって大通りに出たら、しばらくは真っ直ぐね!」私は、ザックリすぎる指示をカァ君に出した。
縮小された私は、カァ君の首元にガッシリつかまり風を切って進んでゆく。高所恐怖症のこの私が…どうした事か…全くもって恐怖を感じないどころか、初対面のカァ君にマシンガンのように話し続ける。『僕、運転中なんだけど!』そう言いつつも優しいカァ君はうんうん頷きながら、どうでもいい私の話に付き合ってくれた。
次の信号を右に曲がった先の高台に廃墟があって、友達と肝試しに行った夜、罰が当たったのか、訳の分からない高熱が出たんだっていう若気の至り的な話や…
その先の左側にある喫茶店は、パイが美味しくて有名だよ、とか…
ここから車線増えるよ!まぁ空中だから車線関係ないか、とか…
どうでもいい私の話に、相槌を打ちながらカァ君はツヤツヤの黒髪を5月の風になびかせてビュンビュン進んでいく。
『で!なんでその友達に会いたいの?』しびれを切らしたのか、ここへきてカァ君の突っ込みが入った。話せば長くなるけど…要するに…最近ヘコむ事が多くて、N子に会うとね、毎回元気になれるんだよ。LINEでも電話でもなく、会いたかったんだ…必ず元気になれるから。
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そんなこんなで、もうすぐ目的地。
「カァ君、ちょっと待って!一旦そこのコンビニで頭整理させて🙏あと…トイレ!」
いきなり訪ねたら…ビックリさせるよね…
N子の事だから自分さておきで話聞いてくれるんだろうな…
どうしよう…どうしよう…
驚くなかれ!なんと私はそのコンビニでウダウダと一時間もカァ君を待たせたのだ💦💦

カァ君ゴメン(\_\; やっぱり…今日は帰ろうかな…
ナメてんのかコラ~Ψ(`◇´)Ψ
カァ君の羽パンチが一発とんできてもおかしくない!だって50キロだよ!
ほんとゴメンナサイ(>_<)
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『せっかく来たんだし、どうせならご当地グルメとか買わなくていいの?』紳士なカァ君は怒ってなかった。
「いいの⁉️じゃあちょっと…好きなお菓子あるんだ」調子にのりすぎな私。
カァ君も小腹がすいたとの事で、食事をしに行った。何を食べたかは想像しないでおこう。30分後に待ち合わせという事で、私は「等身大」のボタンを押し、急ぎ足でお土産さんへと走った。
~・~・~・~・~・~・~・~
30分後、さっきのコンビニの屋根の上にカァ君はいた。私はお土産をリュックに詰め込み、縮小ボタンを押す。+ボタンも-ボタンもなく、縮小一つでカラスサイズになるとは…誰が発明したか知らないが、機械音痴には有難すぎる優秀なリモコンだ。
カァ君の背中にまたがり、来た道を帰る。
ゴメンね…とんぼ返りだね…。
無口だけど優しいカァ君は、来た道と一緒じゃつまらないからと遠回りしてくれた。付き合いはじめのカップルのドライブみたいに🚗
猫バスに揺られ心躍るさつきとメイ…そんなところだろうか…年齢はさておき😅
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『着いたよ』…
カァ君の背中でウトウトしていたみたいだ…気づくと自宅の前にいた。
何だか…ちょっぴりセンチメンタルになった私は…思わず…
「一日ありがとね。カァ君…明日も来る?」なんて聞いてしまった。
『明日はね、早朝から野菜くずを食べに行く約束してるんだ!旬の野菜くずらしくてさ!今から楽しみで仕方ないよ♡」カァ君の瞳は、暗闇で一段と輝いて見えた。
「美味しそうだな~私も炒めて食べたいよ♡いっぱい食べておいで😊」
カァ君は私に右手?を差し出した。
私は両手でカァ君の手を握った。
バイバイじゃなくて、またねって手を振った。
~・~・~・~・~・~・~・~
昨日と打ってかわって今日は朝から雨がパラつく曇り空だ。
今日は部屋干しか…
あっ!リモコン返し忘れたじゃん!
昨日着てたパーカーのポケットに手を入れる!
リモコンはなかった…だよね…
パンパンとシワを伸ばして洗濯の続きを干していると電話が鳴った📱
3ヶ月ぶりのN子だった!!
もしもし~の途中から私は泣き出していた。何故だか自分でもよくわからない。
「そんな事だと思ったよ😊実家でとれた野菜持って今から行くからさ😊」
……………………………………
~・~・~・~・~・~・~・~
カァ君も今ごろ野菜くずいっぱい食べてるかなぁ…

昨日と同じような今日
今日と同じような明日
でも、全然違う一日だよ
大切に過ごそう
そんな事を考えながらキャロットケーキを焼き、N子を待った。

久しぶりにいっぱい話した。いつもの事だけど、N子との会話はまるで修学旅行の女子みたいに最後は涙流して笑っている。
夕方N子が帰った後、持ってきてくれた野菜を冷蔵庫の野菜室に丁寧におさめる。
袋の下から色んな野菜のくずに紛れて小さいメモが出てきた。

どれだけ時間が空いてもさ
どこにいても何しててもさ
大丈夫…ちゃんとつながってるからね😊
大丈夫…ちゃんと残っていくからね😊

そう書かれていた。
変わらぬN子の丸っこい字で😊

袋の底に残った野菜くず…ベランダの鉢植えに埋めて夜空を見上げた(^-^*)🌙

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