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飛行機のお隣さん

今日は、今回の帰国時のフライトで経験したことを共有したい。

今回の渡航、クライマックスは下痢と嘔吐でベットとお手洗いの往復だった。恐らく、夕食に食べたフィッシュカレーにあたった。東南アジアの料理を食べるとたまに遭遇する魚の臭みと、それを消そうとするレモングラスのような爽やかさと酸味。正直言って、私はあの味・香りが苦手。夕食のカレーでそれを感じたのだが、自分の好き嫌いの問題なので食べねば、と頑張ったのが間違いだったのだろう… 早朝まで1時間起きに目を覚ましてはお手洗いに急いだ。悶えながら、「あーこんな状態で帰るなんて…ビジネスクラスでフルフラットで帰れたりしないかなー」なんて淡い期待をしていた。

翌朝の出発時間には、嘔吐は治っていたものの、絶不調でホテルを後にすることになった。また吐くのでは…離陸前後、着陸前後は酔い易いのに機内のお手洗いにはロックがかかるからという不安から、ありったけのジップロックをカバンに詰め込んだ。結局出番はなかったので、日本に着いてからリュックの奥底からくしゃくしゃになった袋が発掘された時は、そんなこともあったなあと感慨に耽っていた。他にもリュックからはポカリの粉が発見され、あの体調で、しかも40分弱しかないと切羽詰まる中、よく考えて行動したなあと自分を誉めたくもなる。

当国を発つフライトは、中央4列シートの通路側だったので、出国時はまだ気持ち悪かったが、何かあってもすぐにお手洗いに行ける安心感があった。しかし、いざ搭乗し自分の座席に行ってみると見知らぬおじさんが座っている。私の席なんですが…と話しかけても、彼はろくに喋らず自分の膝をさすって、その横の奥側の席へどうぞと案内してくる。
いやや、なんでやねん。こっちも病人や!!と心の中で呟き、空いてる通路側の席があったら移ってやろうと決心。とりあえずそこに座ってみると目の前の4列は、通路側の1席を除いて全て空いていることを確認。しかも、この前の席は、ブロックの1番前の席でお手洗いにも滅茶苦茶近い!このチャンスを逃してはならないと、すぐさま席から立ち上がってCAさんに申し出た。体調が悪くてお手洗いに頻繁に行きたいからと事情を説明して通路側の席へ移らせてもらった。

昨晩は吐き気と腹痛で何度も目が覚め眠れなかったので、席に移るとそのまま寝てしまった。気づいた時には空の上で、昼食が始まっていた。胃の中の物はほとんど吐いてしまったので、お腹は空いていた。機内食に消化の良さは期待できないが、取り敢えず口にした。こういう時に食事を摂ると、食事をしたことを後悔するような激しい腹痛や気持ち悪さに襲われる。今回も例外なく、機内食が私の消化期間の中で大暴れし始めた。あまりの気持ち悪わに私はまた眠ってしまった。どれくらい経ったか忘れたが、私の短いなりに伸ばした脚に何かが触れる(1番前の席なので、足元がかなり広い)のを感じた。そして、話し声がする。ふと目を開けると、先ほどまで空っぽだった隣の席には、70代前後の恰幅の良い男性(以下おじいちゃん)が座っている。どうやら私の脚にあたったのは、彼の妻だったようだ。恐らく、このおじいちゃんは他の席に座っていたが、この広々した席が空いているのを見つけて、移ってきたようだった。

会話から彼らがドイツ語話者であることがわかった。ドイツ語は、今から丁度10年前に1限×週3で1年間履修した第二外国語。当時はドイツ語圏の研究と留学を目標に、隙間時間で必死に勉強していた。その1年間の履修の後、結局研究対象はドイツ語圏ではなくなったので他の言語を勉強することになった為、今ではドイツ語と判別できるものの、"Ich kann nicht Deutsch sprechen!"(ドイツ語喋れません!)という状態だ。

おじいちゃんはがそのグローバルサウスの国の生地を使ったシャツを着ていた。とても似合っていて、いいね!と伝えたかった。英語なら、”I like your shirt"といったところだろうか。じゃあドイツ語は…気分が悪いのに頭をフル回転させ始めた。否、気分が悪いから考えることで気分を紛らわせていたのかもしれない。
うーん。なんだっけ…"Ich liebe Digch." (I love you の意)だから、Ich liebe…でいけるんじゃないか…シャツってなんだっけ、絶対あの時に習ったよな…あんなに必死で覚えたのに、こうも簡単に消えていってしまうのが悔しいなあと悶々と考えていた。

考えていたが、思い浮かばない。すると、CAさんが手のひらサイズより二回りぐらい大きいサイズのスナックを配りにきた。おじいちゃんは受け取った。それを食べるのかと思いきや、おじいちゃんが意外なところに仕舞った。おじいちゃんは、釣り用のチョッキのようなたくさんポケットのあるチョッキを着ており、そのもらったスナックをチョキの懐のポケットにしまった。服のポケットに入るようなサイズのスナックではなかったので、私は目を見開いてしまった。

その後、おじいちゃんの手から機内食で出されたクスクスが現れた。どこから出てきたの?と二度見してしまう私。そしておじいちゃんは、それを指で食べ始めた。この時点でも驚き。クスクスを指一本で食べるのは難しいと分かったのか、食べるのをやめ、例の懐ポケットに手を突っ込んでがさがさ何かを探し始めた。すると、今度は機内食で提供されたスプーン!!!
驚きである。因みに、このスプーンはプラスチックではなく、ステンレスでリユースしていそうな素材。それ、もらってきてもいいものなのか!もう私の中でのドイツ語で喋ろう作戦はどこかへ吹っ飛んでいき、目の前で起きている珍事件の数々を理解するのに必死になってしまった。


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