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私の部屋だけ… 次はパイプユニッシュを持って行くと決めた

 前回に引き続き、今回も私がハズレの部屋を引いたお話しです。前回は、ハズレを引いたかもしれない程度で、断言は難しかったのですが、今回は明らかに一線を超えたと確信しています。

 飛行機トラブルにより予定より10時間遅れで到着したそのホテルは、まだ私が現地に慣れていない2回目の渡航で、数々の苦行のようなホテルステイを終えた後、ここは安住の地!と期待していたホテルだった。お部屋は、海に面していて、大きな窓からテラスに出られ、ブルーオーシャンが望める造りになっていた。

 ホテルに着いた日は、疲れ切ってすぐに寝てしまった記憶がある。翌朝目覚めると、ここ数日間のホテルでは感じなかった温かい陽光が大きなカーテンから溢れ出て、部屋に入ってきているのがわかった。

 この数日間のギャップにテンションが急上昇した私は、スマホを片手に窓の外へ出ようと窓にかけた。次の瞬間、私の腕は違和感を覚える。おかしい。窓に鍵がかかっていない。いや、窓の鍵は完全に壊れていて、ないも同然だった。

 なぜか部屋を変えてくれとホテルにクレームしなかった。それが全ての間違いだったと今なら思う。日中は仕事で出かけ、戻るとまた部屋の様子がおかしい!なんと、ベットの上にスワンがいたのだ。しかも私の部屋だけ。後日聞いたところによると、他のメンバーの部屋にはスワンは疎か、替えられていたけど、他人が使用したと思われる濡れたタオルがグシャっと置いてあったり、清掃にすら入った痕跡がなかったり、サービスの質がなんとも不均一だった。スワンを作っていたら、他の部屋に清掃に入るのを忘れちゃったのか、スワンにタオルを使っちゃって、交換できなかったのか、なんて冗談を言って酒の肴にしていた。

(残念ながらカップルでは泊まりに来てないんだけどと苦笑しながらも、嬉々として写真を撮る私)

 さてさて、今回の私の部屋だけ…はここでは終わらない。その夜、部屋の洗面器で洗濯をしていると、背後にあるシャワーの方からゴボゴボゴボという鈍い音が聞こえる。それはまさに、如何にも悪いことが起こりましたという通知音だった。まさかと思って、コンタクトも眼鏡もしていない目で見ると、ぼんやりとした視界の中で黒い物体がシャワーの下で水たまりを作っている。昨晩、シャワーを浴びた時に流れが悪いのを確認していたので、全てを悟った。とりあえず洗濯を終え、考えた。夜も遅く疲れていたので、フロントにクレームをする気力はなかった。日中現場に行き汗まみれだったので、なんとしてもシャワーを浴びたい。悪臭漂うバスルーム。足の踏み場を少しでも維持する為、水は極力使わないように、洗面器で体を洗い、髪の毛を洗うのと、ボディソープを流すことだけをあの黒い渦の近くで済まそうと決意した。シャワーの真下の黒い渦は、私が髪を濡らすだけでもどんどん私の聖域を脅かしてきた。そして、髪を流しているうちに、私の領域は益々なくなっていく。それに加え、鼻をつく匂い。コンディショナーを諦め白旗を上げて退散した。

 その夜は本当に散々で、シャワーをろくに浴びれなかったので、体が冷えて寒い。前の夜からの喉に感じていた痛みは、夜が更けるにつれ増していく。そしてかんでもかんでも止まらない鼻水。ベットに入るも、翌朝今度はトイレが詰まる・逆流するんじゃないかという謎の恐怖。さらに熱っぽさを感じ、寝苦しい。コロナではない、コロナではないと念仏を唱えるように自分に言い聞かせていた。2つの不安で頭がいっぱいになり、すっかり頭が冴えてしまった。恐らく念仏を唱えるうちに寝落ちしたものの、目覚めは最悪。全然疲れが取れた気もしないし、体調が良くなった気もしない。

 翌日は予定を切り上げて早々に最大都市に帰った。ちゃんとしたベットで寝るために。外資系の綺麗な、安心・信頼できるホテルの部屋で私は、すぐにでもベットに倒れたいはずなのに、最後の力を振り絞ってシャワーを浴びた。逆流しない安心感、悪臭のない清潔感、そして疑うまでもなくシャワーから出てくる温かい水に温められ、私は漸くベットでゆっくり寝ることができた。夕方ごろに目を覚ますと、すっかり気分はよくなり熱も下がったようだった。他のメンバーらには、心配されマラリア検査を念の為受けた。なかなか採血できず10分ぐらい悶えたが、無事陰性。私たちは、第2回渡航最後の宴へと向かった。

 タンザニア最後の夜であるにも関わらず、私は遠慮もなく、スワンの話、逆流の話を俎上に載せた。ここで他の部屋の様子が明らかになったのだが、やはり何故私の部屋にだけスワンがいたのかがどうしても気になる。そこで、仮説を立ててみることにした。あのシャワーは詰まると予見されていたからあのタオルでどうにかしてくれ、つまりお詫びのスワンだったのではという仮説が最も有力になった。だから私は、この国に泊まる人にはスワンを見かけたら気をつけて、と必ず声をかけると決めた。そして、次回渡航には必ずパイプユニッシュを持っていくと決めた。持って行きはしたものの、幸運なことに、出番がくることはなかった。泊まったことない現地資本のホテルに滞在する際は、お守り代わりに持っていくことをお勧めする。



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