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【東南アジア28】帰国直前、危機一髪

今夜のフライトで帰国する。ちょうど4週間の東南アジアの旅も終わりだ。シャワーを浴びて、さっぱりした気分でチェックアウトした。

カオサンロードに向かって、裏路地をフラフラ歩いていたら、男が話しかけてきた。

「おい、兄ちゃん、日本人かい?」

「そうですよ」

グラサンに髭、身なりは汚くないが、やや崩れぎみ。何かの客引きかと少し警戒した。

「そりゃいい。俺の妹が日本で働いているんだ。ちょっと日本語で話してくれないか。驚かせてやりたいんだ」

振り返れば、怪しいお願いだった。けれど僕は帰国当日とあって、最後に何か面白いことを求めていた。

「いいですけど。どこで? 電話は?」

「ありがとう。向こうに電話ボックスがあるから行こう」

ほどなく電話ボックスが現れた。しかしあいにく人が使っていた。

「別の電話ボックスがあるから、あっちに行こう」

川の方へ向かって歩き出した。

二人で並んで歩いていたら、別の男が走ってきた。

僕らに追いつくと、突如、大声でグラサン男に向かって何かを叫び、僕とグラサン男を引き離して、僕には向こうへ行けとすごい剣幕で叫んだ。

グラサン男は反撃するかと思いきや、渋々、男の指示に従い向こうへと歩き去って行った。

「え? え? どういうこと? 彼はどこいったの? 何なんですか?」

僕はわけがわからなった。

すごい剣幕のおじさんは、グラサン男が消え去るのを見届けるとようやく表情を和らげた。

「君は本当にラッキーだったぞ。あいつはマフィアだよ」

「は? マフィア?」


おじさんに連れられ、僕はすぐ近くの警察署で事情聴取を受けることになった。あのグラサン男は、あの辺で旅行者をカモにしているヤクザ者だった。

「彼が助けてくれなければ、君は終わっていたよ。フィニッシュだった。川の方は危ないんだ。きっと仲間がいただろう。あの男についていけば、金もパスポートも取られていた。最悪命だって奪われていたかも知れないよ。本当にラッキーだったね」

警官から話を聞くうちに自分が危機一髪だったということがわかり、助かったのだが僕は完全にビビってしまった。

「今日、帰国するのか。よくあるんだ。最後だからと油断して、事件に巻き込まれることは。本当によかったよ」

僕は助けてくれたおじさんに何度も頭を下げ、何かお礼させてください。ご飯でもと申し出た。

けれどおじさんは、

「君が助かって、本当によかったね。それだけで十分だ」とキザなセリフと笑顔だけを残して去っていった。

警官に「彼は何者なんですか?」と訊ねると、笑顔で「エンジェルだよ」と洒落たセリフを返してくれた。

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その後、カオサンに戻り、バーで気持ちを落ち着かせ、スターウォーズを観ながら、時間をつぶした。

評判のワットポー仕込みのタイマッサージ屋で、体をひっくり返され、旅の疲れを癒した。

もうあとは帰るだけだ。寂しかった。はじめてのひとり旅でわかったのは、世界は僕の知らないことだらけだという当たり前のことだった。

でも、その当たり前のことを実感を持って経験することが重要なんだと思う。

人生に意味などないが、生きる醍醐味はある。

僕は、もっともっと旅したかった。

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その後アメリカの西海岸を旅し、グアムに行き、シンガポールからマレーシア 、インドネシアにも行った。だが、この東南アジアで経験したほどの刺激はなかった。

そして、2000年。僕は、インドへ向かった。

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