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青森自転車旅①恐山

早朝、小雨の中、東京駅まで走る。
大丸の前で自転車をバラして、輪行バッグへ。

鉄道開業150年記念のフリーパス。2泊3日。はじめての青森。

新幹線で約3時間、八戸駅着。青森初上陸。

私鉄の青い森鉄道に乗り換え。こちらもフリーパス。

約45分で、野辺地駅へ。

JR大湊線に乗り換え。
新青森駅方面からの乗客も合流し、1両編成の車両は隙間なく埋まる。

「自転車?」と隣に立つ婦人。
「あ、はい」
「やっぱり。息子もやっているのよ。どこまでいくの?」
「大間まで」
「今日?」
「はい」
「自転車で?」
「はい」
「行っちゃう?」
「行っちゃう」

1時間ほどで、下北半島の入口、下北駅に着いた。

キャノンデールは修理中。20インチの小径ブルーノで走り出す。

小雨が降る中、市街地を抜け、県道4号線に入る。
ゆるやかな登り坂が続く。
恐山は、その名の通り山だったか。目指してはじめて気がついた。

参道の山道は一本道で迷うことはないが、道しるべの地蔵尊が立つ。
その数、数十体? 百体はあるか。

小雨が鬱陶しくて、飲料を買わずに、山道に入ってしまっていた。
喉がかわいて仕方ないと困っていたら、湧水があらわれた。

霊場恐山は貞観四年(862年)慈覚大師 開山 山道ひば原始林の実から霊水噴きいで、その冷水なる水は不老水ともうたわれ登山する人を喜ばせている

不老水とはすごい。
「恐山冷水」で、遠慮なく喉を潤す。登り坂で熱った体が冷やされた。

下北駅から走ること1時間。
額のふちに親子龍(父・母・子)が彫刻された迎えの門があらわれた。
ほんのり硫黄の臭いがただよう。

山道を抜けると眼前に宇曽利湖。登場の仕方が劇的で、興奮する。

奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんねおう)の石像。
この二人が三途の川を渡った亡者の衣を脱がせ、衣領樹の枝にかけてくれるらしい。

其の枝の高低によって罪の軽重が計られます。己が罪業を冥途の関所の麓にさらして、罪業の浅深を知らされます。

どこか漫☆画太郎先生の珍遊記を彷彿とさせる。

石像のすぐ横には、三途の川にかかる太鼓橋。

三途の川を渡るとあの世の世界へ参ります。あの世の世界は、男女の区別がなくなると言われています。
この世からあの世への掛け橋 三途の川を渡す「太鼓橋」とは、俗世と霊界を隔てる三途の川と太鼓橋。その奥に見えるのが霊場恐山です。
なおこの太鼓橋の勾配は急で悪人には橋が針の山に見え渡れないと言われているほか、帰りは橋の上で後ろを振り返ってはいけないといわれています。

現在、通行止め。2024年に再建予定。

千年の風雪に耐えられるよう石造り(太鼓橋としては本州初)にするそうで、1口千円3口以上から寄付も募っている。

「あの世へ 渡ろう 太鼓橋」という強烈なスローガンを目にすると、実際完成しても橋を渡る勇気はないかもしれない。
何度か訪れたことのあるローマの真実の口にも手を入れたことがない。
この手の演出は苦手だ。

総門の手前には、六体のお地蔵様。石坐像で日本一の大きさとか。
この地で見る風車は、どことなく金田一耕助の世界観が漂っている。

六大地蔵の由来は、生きとし生けるものすべて、6種の世界(六道の世界)に生まれ変わりを繰り返すと言われています。6種の世界とは地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天国の六つ。
この6種の世界、それぞれで、衆生の苦しみを救ってくれるのが六地蔵なのだそうです。
地獄道から救ってくれる 檀陀地蔵(だんだじぞう)
餓鬼道から救ってくれる 宝珠地蔵(ほうじゅじぞう)
畜生道から救ってくれる 宝印地蔵(ほういんじぞう)
阿修羅道から救ってくれる 持地地蔵(じちじぞう)
人間道から救ってくれる 除蓋障地蔵(じょがいしょうじぞう)
天道におられます 日光地蔵(にっこうじぞう)

恐山はイタコのイメージから、おどろおどろしい異空間なのではと思っていたが、観光名所然としたオープンな印象を受けた。

下北駅からバスも出ていて、若者がたくさん訪れてもいた。
もちろん旅好きなシニアもたくさんいて、笑顔で記念写真なんかも撮っていた。

これが誰もいない閉山後の11月以降、雪が深くなってから訪れたら、また違う印象なのだろう。

ひとしきり恐山をまわり、さて、そろそろ大間へと思った矢先、トラブル発生。

最短距離の山道を走って、海沿いに出る予定が、恐山から先は全面通行止めという。

下北駅方面へ市街まで戻り、大回りするように海沿いに出て、大間まで北上するしかない道はない。

30キロ近くのロス。自転車にはきつい距離だ。

「自転車か! 無理せん方がええぞ。大間までも結構きついで」とは恐山の受付の方。

とはいえ、大間の宿はすでに抑えている。いまさら絶賛爆裂値上げ中の市街地のホテルに泊まる気にもなれない。

宿に遅れる旨の連絡を入れる。

「時間は大丈夫ですよ。ただ真っ暗なので、お気をつけていらしてください」

何時につけるかわからないが、走り出さなければ、はじまらない。

美しい景色が、せめてもの救いだ。



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