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創業100万年@『大衆酒場カネス』(一之江)

2020年は、9.11の2001年、3.11の2011年のような記憶のされ方をするのだろうか。

バブル崩壊やリーマンショックとも違う、どんよりとした空気が漂っている。

そんな沼地を歩き続けているような日々に、嬉しいことがあったので、久々酒場に行こうと思った。

半年ぶりだ。

久しぶりにカネスでぼーっとゆったりしようと一之江まで足を伸ばしてみた。

口開けの16時半過ぎに暖簾を潜るとすでに常連さんが一人。

カウンターに座り、「いらっしゃい」と近づいてきた女将さんに早速酎ハイをお願いする。

「はい、酎ハイね」というマスク越しの返事とともに構えたスプレーに手を差し出す。

手指消毒。

こちらもマスクをしながら、ほへーっと手指をすりすりしたが、

1年ぶりのカネスで変わっていたのは、それだけだった。

あとは見事なまでにそのままだった。

海苔をぐるっと巻いた梅きゅうり。

味の染み込んだ煮込み。

お値打ちの柳川。


「2月にね、テレビがきてねぇ」

「あ、観ましたよ」

BSの『今夜もコの字で』というドラマの舞台になったのだ。

『コの字カウンター』の名付け親、加藤ジャンプさん原作漫画のドラマ化だが、実際、あんな若くて綺麗な子たちが呑んでいるのをこの酒場で見たことはないので、勘違いする人も多いのではと思いながら観ていた。

「あ、観た。でね。ちょっと忙しくなるかなって思ったんだけどね。アレでしょ。結局あんまり変わらない」

「でも若いお客さん、増えたんじゃないんですか?」

「その前からね、若い人は増えてたしね」

と言ったそばから、若い男女が入ってきた。昨今の大衆酒場ブームは下町にも押し寄せている。

写真をパシャパシャ撮り、30分もしないで出て行った。

センベロってやつだろうか。潔い呑み方だ。とてもあんな真似はできない。


その後も常連がちょこちょこやってきては、テレビから垂れ流される凄惨なニュースや理不尽な政治に、気が向けば悪態をついては酒を呑み続ける。

まるで変わらない。

アフター○○、ポスト○○、ニューノーマル、と妙な物言いが巷では叫ばれ続けているが、この酒場ではそんな号令は頭のはるか上を飛び交っているかのようだ。

どんよりした世間とは別次元の空間だった。

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