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【東南アジア25】パッポン危機一髪
昨晩パッポンから遅くに戻ったので、昼前くらいまで寝ていた。
今日はサイヤム方面に行く。
ここはいわばタイの銀座や新宿のようなところらしい。
東京からバンコクに到着し、すぐにカオサンに来て、翌日にはチャンマイに向かい、そのまま東南アジアを回ってしまったので、実際バンコクがどんな街なのか全然わかっていなかった。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32001539/picture_pc_0830c5290b22884a45b55c919eae24fc.png?width=1200)
サイヤムは、もうほとんど東京だった。
できたばかりの伊勢丹は、床もエスカレーターもきれいで、日本のそれよりむしろ立派なくらいだ。
デパートの中にある日本食レストランに入ってみた。
4週間ぶりの日本茶が、沁みた。
味噌汁よりとんかつより、日本茶にこそ日本を感じた。食べ物は似たようなものがあるが、この日本茶というのは日本ならではの味わいなんだなーと知った。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32001655/picture_pc_06eb0fb204b37ee15c4b08dcab9bf792.png?width=1200)
そして今夜も3人でパッポンへ繰り出す。
Rくんは、今日もロレックスを購入。日本の友人たちの分まで買っていくそうだ。時計に興味のない僕は、店員の女の子と談笑。本当にタイに住みたくなるな。
トゥクトゥクの男が、面白いところがあるぞと声をかけてきた。誘いに乗ると、パッポン通りの繁華街から少し離れた雑居ビルに連れて行かれた。
酷かった。
部屋に入ると、3段ほどのひな壇。男が店の奴に何か伝えると、奥からゾロゾロとミニスカートの女性たちがあらわれ、ひな壇に並んだ。
さしずめミスコンのような様相だが、参加者のラインナップにはぐうの音も出ない。
目が合うと、全力フルパワーで愛嬌を注いでくる。それがまた痛々しい。
あまりちゃんと書くと訴えられそうなので濁すが、20年前はこれでも需要と供給のバランスが取れていたのだろう。
男が言うには、「昨日の日本人はここで1500B払ったぞ」
僕らにその気がないとわかると、男はもう1軒見てくれという。そこも似たようなものだった。
パッポンまで戻ってもらい、事前に約束していた交通費を払うと、これじゃ足りないとごねてきた。2軒も連れいったのに、これじゃあ俺は商売上がったりだというのだ。
不確かな好奇心に可能性をかけて連れていく。客引きとはそういうものだろう。
そもそも僕らも買うなんて恐ろしい約束をするわけはないから、見るだけだよ、それでもいいんだよねと何度も念を押していた。
とまあ、それは建前だ。そもそもがほとんど僕らのような冷やかしの観光客だろうから、それではやってはいけない。今となれば、トゥクトゥクの兄ちゃんの気持ちはよくわかる。
けれど、当時の僕らは二十歳そこそこ。世間知らずの学生だった。
徐々に僕らのやりとりは険悪になっていった。
「この金持ち日本人が、若造のくせにふざけんな、俺を馬鹿にするな」と思っていたはずだ。
びた一文払わない僕らに、男が語気を強めだした。だが、先に切れてしまったのは僕らの方だった。
「ファックユー!!!」
Rくんが中指をおっ立てて、186センチの長身で凄んだ。
男の目の色が変わった。
「ファック ユー? ああ? ファックユー?」
「あーファックユーだよ」
Rくんも一歩もひかず、中指を再度強くおっ立てて日本語で返す。
男は、トゥクトゥクのシートの下に手を潜らせた。
嘘でしょ! え、何が出るの? まさか。
僕はその手の先を凝視しながら、どう逃げるか考えようとしたが、ビビって体が固まってしまった。
男は、シートからいつまでも手を抜き出さない。
男は逡巡していた。やめて、と祈る僕。
しばしの睨み合いの末、男は渋々と金を受け取った。まだ片手はシートの下に入れたままだった。
威勢よく男と別れた僕らだったが、角を曲がるやホッと息をついた。
「あれはやばいって。拳銃かナイフが出てくるかと思ったよ」という僕に、Rくんも「やばかったね。ぶん殴って逃げようかと思ったよ」と返したが、果たして、そう上手くいったかどうか。
若さとは、本当に怖いものだ。
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