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何もしないことをする

「みちのそら おえかきワークショップ」についてのおはなし

 自由に絵を描く。
みちのそらのおえかきワークショップでやることはそれだけです。好きな画材で、好きな絵を描きましょう。何を描いてもどれだけ描いても良いし、描かなくても、良いのです。

 自由、ということの難しさに、とまどう人もいるかもしれません。制限がありお手本があり目的があり目標があり方法があり正解がある方が、安心して取り組めたり、意欲がわいたり、達成感を得たりするでしょう。そこにある楽しさや学びや成長も大切です。けれども、ここではあえて、そのようなものをできる限り設定しません。

 損得合理性からの解放について、常々考えています。
損するより得する方が良いこと、合理的で効率的であることは、そうでないことよりも良いこと、という認識があたりまえになりすぎてはいないでしょうか。

 ゴールを見据えて道を決めること、近道を探してゴールに早く到達すること。回り道をする時間を惜しみ、考えることや失敗することを省く、合理的な考え方は、資本主義社会や学校教育には必要なことかもしれません。けれども、それは、全てにおいての正しさではありません。

 多くの人が知っているように、どこへ向かうかわからない道や、遠回りや迷い道は、思わぬ体験や深い学びの宝庫です。もちろんそれは、不安や間違いや失敗の宝庫でもあることと背中合わせです。失敗は成功のもと、とはあまりにも知られたことばです。成功のまえには失敗が欠かせない、ということなのです。失敗を経験せずに効率良く得たようにみえる成功には、芯がなく、壊れやすいように思えます。それは、成功といえるでしょうか。そんなことを、いつも考えています。

 さてみちのそらのワークショップ。ここは、画用紙や絵の具のある空間です。まず、そこで自分が何をしたいか、したくないか、何を描きたいか、描きたくないか、それを自ら感じることからはじめます。それから、なにをするかを選んで行動します。絵を描かなくてもいいのです。ただ、絵を描く材料がそろっているだけです。どの道具を使うか、そこから、ひとつひとつが選択の連続です。全て、自分で決めていきます。

何を描こう
鉛筆で描こう
絵の具をつかってみたい
絵の具ってどうやってつかうの
気になっているなにかを描いてみたい
好きな色で描きたい
絵の具をまぜたらどうなるか知りたい
隣にいる人は何をしているかしら

 それぞれの思ったことを、それぞれのやり方で、試すことができます。どうしたらいいかわからないことや、思うようにいかないこともあるかもしれません。そんなときに、どうするのか、それも、自分で考えて行動します。
 相談してくれたら、お手伝いします。相談したいけれどできないような様子があれば、そのことを助けることもあります。その人が、思ったことを行動するために必要な手助けは、ときどき発生します。けれども、それ以上のことをしないことを心がけています。

 つまり、「何もしないこと」を、しています。みちのそらの空間で、絵を描いていいよ、ということ以外には、極力、何もしません。そこにいる人たちに、なるべく影響を与えないことが、私の仕事です。誘導も指導も評価もしません。ヒントやアイディアも出しません。
 いつもと違う場所と絵を描く道具とそこにいる人同士の空気は、充分に非日常の刺激となり、絵を描く行動の中に表現されていきます。

 気持ちが表現されていくこと、それが、絵を描くことの大切な部分です。そのような様子を見ることはとても貴重で楽しいものです。ですから、なぜそれを描いたのか、なぜその色を使ったのか、描いたらどんな気持ちになったのか、そんなことをたずねてみることはあります。聞かれた人は、そんな質問に答えても答えなくてもいいのです。

効率よく成長を促すことをしない、
ニュートラルな空間。
それが、みちのそらのワークショップです。

誰もがその時間
自由になること
解放されること

そのために、全力で、「何もしないこと」をしています。

「何もしない」ことは、どうしても伝わりづらいものです。当たり前です。だって何もしてないんだもの。
けれどもどうか、「何もしない」ことに最大限の意味を持って、あえて行なっていることをご理解いただけると幸いです。




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