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電気銅の値段と鉱石の関係性

前回に続きまして、今回も、「電気銅とはなんぞや」ということと、「電気銅の値段って、どうやって決まるの」について、当方なりの見解をしたためさせていただきたいと思います。

ここでは、これまで言及して参りました「(a) LME電気銅価格」と「(b) 建値(≒電気銅販売価格)」の間に、「(c) 銅精鉱購入価格」という、もうひとつの概念が登場します。

電気銅販売価格(製錬メーカーの製品販売)

(b) は、「電気銅メーカー(製錬所側)が、製品を売る際の販管費・取り分を“プレミアム”として (a) に加えたもの」と表現しました。

建値 = LME電気銅価格 + 販管費・取り分

既出ですが、日本における電気銅のメートル(メトリック)・トン当たりの価格は、下記で確認ができます。

https://www.nmm.jx-group.co.jp/cuprice/

銅精鉱購入価格(製錬メーカーの原料購入)

一方で、(c) は、メーカー側にとって、原料にあたりますので、「彼らが、製品をつくるための製造コスト・取り分を“ディスカウント”として (a) から引いたもの」と表現できるものと考えています。

銅精鉱購入価格 = LME電気銅価格 - 生産コスト・取り分

これを説明した内容が、旧 JXホールディングス 株式会社の投資家向け資料 (pdf媒体) の54ページに掲載されています。

丸々引用してしまいますが、登場する語句は下記の通りです。

〇銅精鉱代

買鉱精錬会社が鉱山に支払う銅精鉱代は、LME価格から製錬マージン(TC/RC)を差し引いた金額

〇製錬マージン

TC/RC:溶錬費/精製費
ベース分とP.P.分から成る

〇 P.P.(プライス・パーティシペーション)

LME価格が一定の基準値を上回った分について、鉱山と製錬会社が一定割合で分配する制度

つまり、この場合における原料調達費は、彼らのことばで言い直すと、下記の通りです。

銅精鉱購入価格 = LME電気銅価格 - 精錬マージン (TC/RC+P.P.)

加工費を前もって決めるということ

表参道のチョコレート屋さんの感性で言い表すと、「うちの材料費は、ロンドンのチョコレートの相場から、カカオ豆を液状にする費用と、それをきめ細かなチョコレートにするまでの費用で決まるの」ということでしょうか。そして、「相場が良いときは、カカオ豆農家さんから、儲かった分のキックバックをもらえる“場合”があるの」ということです。

正直、よくわかりませんよね。

これは、あくまでもチョコレート屋さんの視点です。一般的な発想で臨むと、「加工するコストって、競合がいれば、切磋琢磨して、少しずつ低減させてゆくもの」だと思いがちです。

もし、ロンドンのチョコレートの値段が、1単位当たり 1,000ポイントだとして、日本のチョコレート業界が指定する“マージン”が、350ポイントだとします。左記の方程式に当てはめると、原料費は 650ポイントになると思います。

でも、実際には、同じ業界内でも、Aさんは、実際の加工費として 300なり200ポイントでつくれるかもしれない。一方で、Bさんは、400とか 500ポイントを消費しないとつくれないかもしれません。

同様に、Aさんは、製品を 1,100ポイントでしか売れないかもしれないし、Bさんは、3,000ポイントで製品を売ることができるかもしれません。これが、恐らく“競争市場”の原理原則であると思います。

寡占市場であるということ

副題の通り、鉱物の取引のされ方は、寡占市場であるということを念頭に置かなければなりません。これまで触れてきた原料購買上の方程式を鵜吞みにすれば、製錬側のマージンが薄まれば薄まるほど、鉱山側の利益が増えるということになると思います。また、なんらかの理由で、その“マージン”が高騰すれば、鉱山側の利益を損ないます。

やや飛躍しますが、極端なことを言ってしまえば、チョコレート屋さんが、カカオ豆農園の開発に乗り出し、原料の販売から、チョコレート製品の販売まで一気通貫で事業を行うことができれば、その“マージン”とやらの所在がどこにあろうと、純粋な利益の割合は、確保できることとなります。

だからこそ、資源開発を担う会社は、鉱山の開発から鉱石の精錬、地金の製造、各種金属材料の開発・販売を一手に引き受けているのかもしれません。そして、相対的な取引形態をとっている理由としては、刹那的な相場の上げ下げに一喜一憂するのではなく、長大な時間軸の中で、産業を安定的に維持・継続させることに主眼を置いているからだと思います。

言い換えると、昨今の銅相場の不穏な値動きは、これまでの“古き良きやり方”が通用しなくなり、一部の思惑が幅を利かせるようになり、過度な競争が生まれ、市場に悪影響を与えているからなのではないか、そのように考えることもできるかもしれません。

製錬メーカーの存在意義

現在、製錬メーカーは、その技術をうまく利用し、いわゆる都市鉱山と呼ばれるヤマから、有用な金属を抽出することに注力しています。

それは、「エコでグリーンな社会を実現するため」ではなく、「スクラップから金属を回収することに経済合理性がある(≒儲かる」からです。「効率的かつ確実に、狙ったモノを取り出し、副産物をも有用に活用できる」が故に優位性があり、収益性があり、持続性があるのです。結果論として、「エコでグリーンだね」といったハナシに帰結します。

なぜ、「経済合理性があるのか」というハナシは、また別の機会にでも、考察を深めてみたいと思います。

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