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電気銅とは

前回に続きまして、今回も、「建値とはなんぞや」ということと、「電気銅とはなんぞや」について、当方なりの見解をしたためさせていただきたいと思います。

記事の中で、建値とは、「金属の板とかインゴットの1重量単位当たりの希望卸売価格である」ということに触れました。

金属取引上の単位

ちなみにですが、JX金属が発表されている“山元建値”の単位は、メートル(メトリック)・トン当たりの円価で示されています。重量を示す“トン”には、厳密に言うと、左記メートル法とヤード・ポンド法の二通りの表記法があります。両者のあいだには、1.6%の齟齬があります。人間の体重を量るぐらいの計量であれば、この程度の誤差は、往々にして許容されます。ただ、巨大な金属の塊を取引する際には、“この程度”では済まされなくなります。

【例】
・メートル法 1トン : ヤード・ポンド法 1.016トン
・メートル法 20トン : ヤード・ポンド法 20.320トン
・メートル法 100トン : ヤード・ポンド法 101.600トン

よって、現状、メートル法を共通規格として採用する動きになっているものと考えています。(意外と、金属の国際取引上、この《単位》の問題が常につきまといます。追って、米国の《それ》とか、貴金属の《それ》について触れてみたいと思います。)表記の仕方は、"MT"です。基本、海外との契約書には、左記の単位が記されています。

銅の国際取引

銅の国際取引の主戦場は、LMEと呼ばれる取引所です。《電気銅》と呼ばれる、純粋な銅の板が取引の対象となります。厳しい品質に対する要求事項が定められており、製造者の認証制度を通して、LMEが取引対象である《》の品質を担保しています。(その要求事項の内容は、こちらに言及されています。)

【“グレードA”電気銅の概要】
・品質に関しては、英国・ドイツ・米国の基準を採用する
  英: BS EN 1978:1998 - Cu-CATH-1
  独: GB/T 467-2010 - Cu-CATH-1
  米: ASTM B115-10 - cathode Grade 1
   → 3規格共に、「不純物の混入に関する許容率」を 0.0065%に設定

・形状は、カソード(板)とする
・ロットサイズは、25トン(+/-2%許容)
・倉荷証券の単位は、25トン
・LME認証ブランドのみ取引可

つまり、LMEを通した取引に関しては、25トンを最小取引単位として扱うということです。また、品質の担保(=銅の品位が99.99%である)があるがゆえに、食物のように季節的な要因、土地の違いによる品質の差は、生まれないと考えることができます。

電気銅ってなにさ

電気銅の見た目は、ドイツの超有名メーカーである、アルビス社のウェブサイトをご覧になってください。同社は、ドイツ、ベルギー、ブルガリアにて、年間120万トンの“グレードA”電気銅を製造しているそうです。

https://www.aurubis.com/en/products/copper_cathodes

〇 4つのブランド / 4カ所の製造拠点

1. NA-ESN(ドイツ工場、LME認証)
2. HK(ドイツ工場、LME認証)
3. OLEN(ベルギー工場)
4. PIRDOP(ブルガリア工場)

〇 サイズ / 重量

同社、いずれのブランドも、厚さ5~10mm、1メートル四方の60kg前後を、1枚のカソードとして販売しているようです。現在、世界各国100ブランドが登録されていますが、おそらくサイズ感は、だいたい同じだと思います。そして、もし、左記を、LME取引に準拠したかたちで取引しようとすると、415枚前後のカソードが必要となります。

〇 コンテナに積み込んだ場合

筆者の勝手な推測ですが、LMEがミニマム・ロットを25トンに設定している理由は、海上輸送コンテナにあると思います。20フィートの通常コンテナ自体の耐荷重は、だいたい28トン弱です。(公道を運搬できる重量ではなく。)

参照: 独ハパックロイド社 コンテナに関する情報

同社の情報によれば、コンテナ内部のサイズは、下記の通りだそうです。

全長: 5,886mm, 幅: 2,342mm, 高さ: 2,313mm

つまり、1㎡を占有する荷物であれば、コンテナ左右に2列積み込めます。奥行きは、5列が限界です。仮に、左記と同様に、例の《板》60kgを10枚敷き詰めた場合、おおよそ600kgになります。これを42層重ねると、25.200トンの重量が得られるわけです。

普段、トン単位の商売に慣れていない人にとっては、想像もできない物量ですが、考え方によっては、「コンテナひとつ」なのです。中に入っている《板》は、ほぼ同一のサイズ、成分なわけですから。ロンドンの銅トレーダーにとっては、一本の牛乳をパックで買う行為と、なんら変わりはないわけです。

次回は、その《板》の値段が、どういった根拠のもとでかたちづくられるのか、そういったことについて、お話しできればと思います。

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