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探究テーマ(2021年)

2011年春に大学を卒業してから、丸10年経過しました。毎年自分の中で探究したいテーマや問いを更新しているのですが、ちょうど新年度迎えたこともあり、正月時点でまとめていた問いを言語化したいと思います。

大きな問いは以下の通り。
「人間を中心とした包摂的な社会はいかにして可能か」

そして仮説としている解は、敢えてニュアンスを伝えるために英語にしているが、以下の通り。
「Human-centred Approach: Small is beautiful. Big is responsible. Its combination is sustainable. And people’s decency matters. Believe in people and update our social contract.」

同様の演題で、社会的企業研究会で2020年に講演をしているので参照いただいてもいいかもしれない。
(参考)社会的企業研究会第105回(若人の会) 演題『Human-Centred Approach: Small is Beautiful. Big is Responsible. Its Combination is Sustainable.』

以下で問いやテーマについて解説していく
(2020年12月初稿、2021年4月修正稿)。
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本稿は、2020年末時点で、私が理論と実践それぞれを通じて探究したいと思っているテーマについて、探究にあたっての手がかりとなる考えと、思考の全体像について整理したものである。

背景 
学部生(東京大学・社会学専修)の頃から社会をより良い方向に変革(transform)するための方法論や事象に着目してきた。当時は、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)、ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏が提唱する「共通価値の想像(CSV, Creating Shared Value)」、その延長で企業の非財務情報の開示などの研究を通じて、21世紀でますます企業の影響力が地球規模に拡大していく中で、企業行動や事業の中に社会・環境状況の改善(social betterment)を仕組みとして組み込むことができないかを探究してきた。卒業後、インド・日本それぞれの現地企業で途上国・先進国の対比でそれぞれの労働問題・社会問題を目の当たりにした。大学院(LSE・国際開発マネジメント専修)では、就業経験から社会をより良くするための基盤として、より良い仕事・労働環境に目を向けるようになり、インドのチベット難民の労働市場での周縁化や排除についてケーススタディを実施した。

本稿でのキーワードである「人間中心(Human-centered)」には、前職の国際労働機関(ILO)で考えるきっかけがあった。ILO100周年「仕事の未来イニシアティブ(Future of Work Initiative)」の議論で、ILOのフィラデルフィア宣言の有名な一節「労働は商品ではない(Labour is not a commodity)」のポジティブな言い換えとして、「人間中心(Human-centered)」というコンセプトが生まれてきたように思う。このあたりの詳しい話は、拙稿の「人間中心の仕事の未来を実現する -Shaping Human-centred “Future of Work”」(ILO協議会機関誌 Work & Life, 2019年10月号)を参照されたい。

社会をより良い方向に変革(transform)するために、知識と実践両面の生産者となりたい。知的生産においては、時折このような思考の整理を公開して、なにかの問いへの答えを得るよりは、社会に対して投げかけるような思索的な問いを産出することを目的としたい。そして、実践においては、後述する協同組合型スタートアップ(COOP Startup)を通じて、人間を中心とした社会(Human-centered Society)の実現を目指したい。

問① 人間を中心とした包摂的な社会はどんな社会か?
What is the Human-centred Approach?

エッセンス
・人間がモノ(被対象物)化されない
・人間が自由・良識・尊厳を纏った存在としてあり、人間の営みを支えるコモンズ(共通資本)が持続可能な形(超長期的で空間内の偏りが限定的)で管理・運用されている
・人間の営みやそれを支える社会・経済資源の循環を形容詞で考え、豊かな社会を実現・維持していくための社会・経済システムの最適解はどんな配分か? 形容詞: 規模の軸(Small / Big)、速度の軸(Slow / Fast)、空間の軸(Local / National / Regional / Global)、密度の軸(Sparse / Dense)、時間の軸(Short-term / Long-term)、結びつきの軸(Solidarity / Individualism )、権力の軸(Centralised / Decentralised)、参加の軸(Open、Participatory / Closed, Exclusive)等

解説
探究したいテーマは、端的には「人間を中心とした社会(Human-centered Society)の実現」である。ここで言う、「人間中心(Human-centered)」とは、人間対環境という対立軸を示すものではなく、経済社会システムにおいて、人間や自然が無機質な商品(Commodity)として交換や単なる消費の対象となったりせずに(People and Nature ≠ Commodity:脱商品化)、人間は尊厳ある存在として向き合われ、自然は地球全体の持続可能性を念頭に共同・共有管理されている状態をさしている(コモンズ、Commons)。

そのためには様々な資本が特定の地域に偏在することなく、投資・生産・消費の3つの側面において地域内での循環を基本としつつ、健全な範囲で地域外との循環が起きるようにする必要がある。一方で物質的な豊かさだけでなく、ひとりひとりが一面的な社会規範を生成・内面化することなく、多様な在り方に寛容で、自由、民主主義、連帯の価値を尊重するような市民性を獲得していくことで、精神的な豊かさも求められる。

このような、人間や自然を中心とした社会(Human-centered Society)は、誰にとってもどのようなライフイベントが発生しても生きやすく、持続可能なものといえるかが大きな問いとなり、実際にそのような社会はどのように実現できるかがより実践的な問いとなる。

関心が似ている研究者として、広井良典氏(京都大学こころの未来研究センター)を挙げておく。広井氏は公共政策と科学哲学を専門としていて、大きくは「人間についての探究」と「社会に関する構想」を架橋することに基本的な関心を向けている。近著では、定常型社会=持続可能な福祉社会といった社会像を構想している。その他に地域内再投資論の岡田知弘氏、さらにたどれば、”Small is Beautiful”で人間中心の経済学を提唱した、E.F. シューマッハ、ならびにその系譜に位置する英国のNew Economics Foundationにも関心がある。

参考文献・人物
・Paulo Freire『被抑圧者の教育学』
・ILO『Philadelphia Declaration』
・広井良典『人口減少社会のデザイン』
・岡田知弘『地域づくりの経済学入門 地域内再投資力論』
・E.F.シューマッハ『スモール・イズ・ビューティフル -人間中心の経済学』

問② 多国籍企業や機関投資家の社会・環境に対する責任を社会契約(ソフトロー)でどのように規定しうるか?企業の責任を問う、一般意思(General Will)の形成プロセスとは?
How do we make "Big" be responsible? - Big is responsible

エッセンス
・Reinvigorate and update the social contract at the time of mega MNCs and institutional investors.
・社会契約に企業を埋め込んだときに、本質的な意味での企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility、CSR)とはなんであるか。
・本質的な意味での企業や投資家の責任はどのようで、どのように果たしうるか?そのための動機付けは?
・市場を介した社会変革において、民間事業者が行う、①お金を集める(資金調達)、②お金を使う(生産する)、③収益を上げる(消費される)、④報告する・開示するのうち、どこに働きかけるのが有効なのか。
・資本主義システムを一定所与のものとして、企業の行動変容について①時間軸の考慮としての長期志向(Shift from short-termism to long-termins)、②外部性(公益性)の考慮としてのステークホルダー資本主義(Shift from shareholder capitalism to stakeholder capitalism)の2点をどのように実現させるか
・①空間・時間両軸で大きいほど、その大きさの中には偏在が生じやすく、格差や不平等につながる、②株式(エクイティ)による資金調達はイノベーションの源泉になる反面、スケールアップのための経済的合理性追求のために、受益者の排除や阻害につながる可能性も、③一方で、規模をもって拡大した外部不経済は、また規模をもって対処しないと解決できないのか。上記の仮説への対応として、①時間軸の考慮としての長期志向(Shift from short-termism to long-termins)、②外部性(公益性)の考慮としてのステークホルダー資本主義、③起業家的イノベーション = 人間の想像力とテクノロジーの掛け合わせで、よくもわるくも可能性が未知数(Entrepreneurial Innovation + Impact-oriented Financing = More Impact and Better World)
・淡い期待として、資本主義システム自体は、その自体の文脈に応じた「一般意思」が経済に織り込む装置に過ぎないのかもしれない。19-20世紀の資本主義経済は、物質的豊かさを追求するという「一般意思」を織り込んだに過ぎず、21世紀の資本主義経済は、非経済的豊かさや人間中心(Human-centred)や環境(Green)を織り込んでいくだけではないか。
資本の論理を実務、実態レベルで理解してこそ、資本主義を正しく批評できる。たとえば、基本的なエクイティ、デッドファイナンスの違い、リスクリターン、銀行の信用創造機能などに触れずに論陣を張っても無意味で、マルクスの時代より資本の実践は複雑化しているのではないか。
・鍵概念:社会契約論、企業の社会的責任、企業、企業の未来、インパクト・エコノミー、インパクト投資、インパクトマネジメント

解説社会契約をアップデートする(企業の社会的役割)ー大きいことの責任
2つ目の問いは、社会契約に企業を埋め込んだときに、本質的な意味での企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility、CSR)とはなんであるか、ということを考えたい。

ポスト資本主義といわれる中での企業の役割とはなんであろうか。コミュニティ・社会・地球の持続可能性に対して、企業が負っている本質的な意味での企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility、CSR)とはなんであり、企業自身どのように長期志向・ステークホルダー志向への変容を経ていくことができるのか。また、国際開発分野における、これからの企業の役割とはなにか。総じて、企業の未来を考える。変革の方法論としては、資本主義システムを一定所与のものとして、企業の行動変容について①時間軸の考慮としての長期志向(Shift from short-termism to long-termins)、②外部性(公益性)の考慮としてのステークホルダー資本主義(Shift from shareholder capitalism to stakeholder capitalism)の2点をどのように実現させるかの示唆も得る。より抽象的な問いにすれば、大きいこと(機関投資家・運用機関・VC、多国籍企業とそのGSC)に伴う責任とはなにか。大きな者(特に機関投資家や多国籍企業)の本質的な意味での社会的責任とはなんであり、それはどのように果たされるか。市民と国家の二者関係を規定する社会契約に企業を埋め込んだときに三者の関係はどう整理されるか。企業はいかにして外部性を内部化し、長期の時間軸を持ちうるか。また「投資」とは、どこにお金を付けるかの選択と配分の問題(どういう方向付けをしたいか)で、投資(特に未上場株)は、単なるリターンではなく、大きなリスクと引き換えで、かつ企業から見れば資金調達であり、イノベーションとインパクトの源泉であることにも留意する。

参考文献・人物
UN Guiding Principles on Business and Human Rights
How to Measure a Company’s Real Impact (Ronald Cohen, George Serafeim)
“The social contract in the 21st century” McKinsey
How to Measure a Company’s Real Impact (Ronald Cohen, George Serafeim)
“The social contract in the 21st century” McKinsey
“Future of Enterprises – How does it look like? Organizational Structure and Functionality” 
GSG “Impact Investment: the Invisible Heart of Markets”
“Do we need a new social contract?” Brookings
‘Could 2020 be the year we finally rewrite the social contract?’ John Morrison
It's time for a new social contract(World Economic Forum)
“Why we need a new social contract now” (Rebecca Linke)
堂目卓生『アダム・スミスー「道徳感情論」と「国富論」の世界』

問③ 多面的な役割(有権者、消費者、労働者・生産者、投資家)を備えた市民性の涵養はいかにして可能か?小さいことはいかにして持続可能か?
How do we sustain ”Small is beautiful”?

エッセンス
・労働者・投資家・消費者・有権者としての市民からのボトムアップで社会を変革する方法にどんなものがあるか。わたしたちの”How to resist”と”How to practice democracy”にはどんなものがあるか。
・資本主義と共存しつつも、経済的価値以外の多様な価値や在り方が可視化され、あらゆる資源が循環するために、ローカルで非市場経済型でコモンズを媒介とした協働と連帯と民主主義を育むような社会統合の様式はどんなものか。
・社会的連帯経済 連帯による地域社会経済 ー小さいことの持続可能性
・多面的な実践と伴ったシティズンシップ教育
・社会的連帯経済で、その土地とそこの人々同士が結びついた形の生産・労働・消費などの人間の営みのありかた。コミュニティ内の循環と連帯を育む社会的連帯経済(協同組合)と小さなインパクト投資
・鍵概念:社会的連帯経済(SSE)、協同組合、人間(労働)・土地の脱コモディティ化、パブリック・リテラシー教育、市民社会、社会運動論、市民運動論、消費者運動論、組織論、市民教育、ミュニシパリズム、Decidem
シティズンシップ教育、地産地消 食育 給食自校式、市井の人々への敬意

解説
3つ目の問いは、多面的な役割(有権者、消費者、労働者・生産者、投資家)を持つ市民へのエンパワメントするをどのように実現するか。労働者・投資家・消費者・有権者としての市民からのボトムアップで社会を変革する方法にどんなものがあるか。民主主義的でボトムアップ型の社会変革の方法論を考えたい。組織論と運動論の観点から、有権者であり、消費者であり、労働者であり、投資家でもある、あらゆる「選択行動」を日々行う市民の諸活動の集積から社会変革に結び付けたい。具体的には、インパクトマネジメント、(個人による)インパクト投資、社会的連帯経済、リテラシー教育を軸に考える。消費者が価値を決める -受け手が価値を決めるを社会はとっかかりになるか。も少し普遍的な問いとして、多面的な役割(有権者、消費者、労働者・生産者、投資家)を持った市民性を育み、大きな民主主義(議会制民主主義)と小さな民主主義(機能的民主主義)を社会の隅々で成熟させるにはどうするか。

そして、小さいことはどのようにして持続可能か。誰にとってのなにが次第で「持続可能性」は政治的になる。なにを守る(持続可能にする)ためになにを変革するのか。SDGsの副題は「transforming our world」で、日本国憲法第3章、生命、自由、幸福を追求するなどの基本的人権と地球を持続可能にで守っていく。カール・ポランニーは社会統合のパターンとして、「交換・再分配・互酬」をあげたが、それに「創造・包摂・淘汰(および可視化)」の要素も加えて、地域の持続可能性を念頭に置いた、コモンズを媒介とした協働と連帯と民主主義を育むような小さな地域の社会統合の様式について考察したい。

その手段として社会的連帯経済(SSE)を考えると、① SSEがもたらす物質的豊かさとその循環の健全さ(『スモール・イズ・ビューティフル』(E.F. シューマッハー、New Economics Foundation、 灌漑と漏れ口を塞ぎ、健全な域内還流(New Economics Foundation « Plugging the leaks »)、② SSEがもたらす精神的豊かさとその連帯の健全さ 『モモ』(ミヒャエル・エンデ) (Cf. 現状充足性 いま、ここ、この場所、この人)、③ SSEが育む小さな民主主義と市民性、そして全体主義への抵抗 『力なき者たちの力』(ヴァーツラフ・ハヴェル)といった特性があるように思う。

一方で、社会的連帯経済の内在的課題としては、①財務的な持続可能性(収益と資金調達の安定性)はどの程度あるのか?財務的なマイナスは組合員の参画による便益でオフセットされている?、②小さくあることは、規模の経済が働かない場合も?(1ユニットあたりの生産・購買コストが高い?)、③小さくあった組織が、大きくなるとき(全国組織化)に生じる歪みはないか?外在的課題としては、どこかで【市場】とつながる部分があり、市場との競争にさらされる部分は、SSE組織・組合員の持続可能性が阻害される?社会的連帯経済とは、その土地とそこの人々同士が結びついた形の生産・労働・消費などの人間の営みのありかたではないか。ここには仏教的な奥行きも感じる。

社会的企業とビジネスの境界となるのは、購買力のある消費者に依存するならビジネス、排除から包摂を目的として受益者(消費者)に経済的負担をかけずに企業自体が持続可能なオルタナティブな収益モデルがあること(行政からの業務委託でつなぐ企業、レベニューシェア型も入る)。どんな人が消費者か?でみえるどんなビジネスがある。

出資=生産=消費が渾然一体となった経済 ・株主ではなく、メンバーに奉仕するために、経済的合理性の壁を乗り越えることもできる。そのためには、①「灌漑」資金が当該地域の隅々にまで循環することによる経済効果が発揮されること、が大事。②「漏れ口を塞ぐ」資金が外に出ていかず内部で循環することによってその機能が十分に発揮されることが大事。

参考文献・人物
ヴァーツラフ・ハヴェル『力なき者たちの力』
佐久間裕美子『Weの市民革命』
Matthew Bolton “How to resist - turn protest to power”
宇沢弘文『社会的共通資本』『人間の経済』
工藤律子『つながりの経済を創る』
齊藤幸平『人新世の資本論』
カール・ポランニー『大転換』(Karl Polanyi "The Great Transformation")、ジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』
Social and Social and Solidarity Economy / Cooperatives(Karl Polanyi, Robert Owen)
Peter Utting ”Social and Solidarity Economy: Beyond the Fringe”
Community Interest Company、Community Bank

問④ 社会のパラダイムシフトのメカニズムと促進の必要条件は?
Theory of Social Transformation

エッセンス
・社会のパラダイムシフト(社会変革)を促進するための条件はあるのか
・仮説:①世代交代(人口動態)、②画期的な技術の実装(イノベーション)、③マクロ環境変化の顕在化(グローバリゼーション、地球温暖化等)、④コミュニケーション加速器・拡声器としてのメディアの発達。
鍵概念:パラダイムシフト、パラダイム、アノマリー、革命、価値観変容、イノベーション、技術革新、規範、逸脱、差異
領域:社会システム理論、社会思想、社会哲学

解説社会のパラダイムシフト論(社会変革論)
4つ目の問いは、社会のパラダイムシフト(社会変革)を促進するための条件はあるのか、ということを考えたい。トマス・クーンが『科学革命の構造』(1962年)で取り上げた「科学のパラダイム論」になぞらえて、「社会のパラダイム論」について考えたい。社会のパラダイムを、「社会集団の中での行動や思考に一定期間内で一定の方向性を付与するような常識や規範の総体」と定義すると、一般的には社会に安定をもたらすように思われえる。その反面、地球温暖化や格差拡大といったアノマリー(変則性)を伴った事業に対処するために、組織や人々が行動や思考様式を変えていく必要があるときに、既存のパラダイムは変化に対して反作用する力があるように思う。このような新しいパラダイムへのシフト(大転換)を求める作用と既存のパラダイムに戻ろうとする反作用が衝突したときに、環境の変化に合わせて、より良い社会のパラダイムシフトを加速させるためにはどのような条件があるだろうか。時間軸を長くもてば、世代交代はパラダイムシフトを促進させるひとつの要因となるだろうが、その他にはどのような要素がシフトを加速させるだろうか。悪魔のひき臼(資本主義✖️グローバリゼーション)から逃れて、「定常社会」(広井良典2019)への大転換はどのようにして実現できるか。時間のかかる世代交代を待たずに、既存のパラダイムに対抗するアノマリー(変則性)はどのように見出され、広げることができるか。この問いに答えることで、人間を中心とした社会(Human-centered Society)の実現を目指すうえでの示唆を得たい。

ニクラス・ルーマンの「社会システム理論」での社会の見方としてキーワードになっている、コミュニケーションの生起に着目して、過去の社会思想や社会的な現象、それに付随する社会のパラダイムシフトを分析することを通じて、シフトを加速させた要因を探究する。

参考文献・人物
トマス・クーン『科学革命の構造』
ニクラス・ルーマン『社会システム理論』
マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』
デイヴィッド・ピーター・ストロー『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』

⑤ 人の規範意識からの自由(unlearn)のメカニズムとプロセスは?

エッセンス
・人が規範を内面化していくメカニズム・プロセスはどのようで、また一度内面化した規範から自由(unlearn)になるメカニズム・プロセスはどのようなものか
・規範(べき論)からの自由論ー全体主義的な規範からの逸脱と、多様なオルタナティブ的生き方の実現
仮説:対話的合理性(no dialogue, no rationality)
鍵概念:社会規範、行動規範、社会的合意、規範意識、内面化、逸脱、一般意志
領域:心理学、社会心理学、発達心理学、インテグラル理論

解説
5つ目の問いは、異なる在り方、多様な在り方への寛容さはどのようにして獲得されるか。人は生まれてから様々なルールを学習し、内面化していく、良い面としては社会秩序が生まれ、悪い面としてはルールからの逸脱は他者への中傷と自己への非難として作用する。「自己責任」の呪縛からどうやって自由(unlearn)になれるか。対話的合理性(no dialogue, no rationality)の時代へ向かうべきではないか。

シモーヌ・ドゥ・ボーボワールの言葉、「人は女として生まれるのではなく、女になるのだ」に表されるように、人は生まれてから様々な社会規範・行動規範を学習し、内面化していく、良い面としてはそれによって社会秩序が生まれる、悪い面としては規範から逸脱したときに他者への中傷や自己への非難として作用する。異なる在り方、多様な在り方に不寛容で、一度レールを外れたら自己責任になる社会。そして人々がこんな不寛容な社会規範を学習し、内面化し、また不寛容が再生産されるような社会。そしてこの規範は個々人の学習・内面化を通して、世代を超えて再生産されつつも、時代時代で変容もしていく。人はあらゆる側面で標準仕様にできてはおらず、どこかを切り取れば逸脱をしているものだ。私たちにかけられた長年の呪い(悪作用する社会規範)から自由になるために、多様な在り方を受け止め、ひとりひとりが自信をもって表現していく。

一緒に悩み、対話し続けるのが連帯。NHK 100de名著のフランツファノンの『黒い皮膚・白い仮面』の最終回で伊集院光さんが言っていたけど、他者理解において「『諦める』ということは完全な分断で、『答えが出た』と思うことは偏見」。

参考文献・人物
フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』
真木悠介『気流の鳴る音』、見田宗介『社会学入門』
ピエール・ブルデュー「ディスタンクシオン」
岸正彦「断片的なものの社会学」
ポールウィリス「ハマータウンの野郎ども」


最後に個人として実践を深めていきたいのが、問3に通じる、SmallやSlowな営みで、実際にCOOP設立を検討したりしている。

スローの実践


個人の人生の方向性としては引き続き、縁に随っていく。





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