二兎社『私たちは何も知らない』 現代女性への強烈な問題提起/そしてがんばれ藤野涼子

二兎社『私たちは何も知らない』。初めての二兎社、衝撃を受けた。脚色の見事さ、現代を織り込んだ演出の新鮮さ、若い女優陣の力の引き出し方。思わず前作のDVDを買ってしまったのだが、そこで作・演出の永井愛さんを拝見して、また衝撃。失礼だが白髪の女性だったとは。サインしてもらいながら、自分も感性をまだまだ磨ける、と奮起する。
物語は、平塚たいてう率いる青鞜社の話。何も知らぬ私は、大正期のジェンダー論か、と少々腰を引いていた。若い彼女らは「女子の覚醒」を叫びながら、自らの恋、愛欲、貞操、妊娠、堕胎、不倫、売春そして自立と生活、思想と実践などへの問いに各々が対峙し、真正面から議論する。平塚らの男女の色恋沙汰も史実をもとに、艶っぽく、生々しく描かれる。
勇ましく理念を叫びながらも、日々の暮らし、社の経営、自身の燃える想い。女性の性と生についての「選択」のジェットコースターストーリーだが、顧みるとこれは、今を生きる我々の状況と何が違うのか。歴史の中で社会の因習から女性は少しずつ解き放たれるが、残る自己決定の問題は、現代においてさらに混迷を深めている感覚にさえ陥る。『私たちは何も知らない』は現代への強烈な問題提起だ。
主演の朝倉あきさんは折れるような細い身体で、芯が強くたおやかで艶っぽい平塚を好演。伊藤野枝役は、初舞台だという「ソロモンの偽証」の主演中学生藤野涼子。まだまだ粗削りで、椅子に座った時の足の開き方にも色気がないが、まだ日本の19歳。激しい肉食獣役に、よく喰らいついていて、本当に楽しみ。田舎の地肩だけで150キロ投げる高校生のようで、大化け期待。次もその次も観たくなる。史実ではあまり表に出ない人物もコミカルに仕立てて、テンポよく、そして終演後もずっと考えさせられる2時間半。この秋一押しかも。12月22日まで、演劇普段見ない方にもおすすめ。