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通りすがりの優しいことば

今日、すごく嬉しいことがあった。

子育ての合間に書くnoteはいつも途切れ途切れになり、日記といえどもその日にポストできたことはないのだけど、今日はあったことそのままに、雑でもいいから、忘れないうちに書き留めたい。

(・・と書いたまま、やはりその日にはポストできず、下書きに保存して2週間ほどが経ってしまった。)

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朝早くから電車に乗って子どものフィジオセラピー(赤ちゃんの体のバランスを見たり、寝返りの頻度などで左右の動きにばらつきがあると、均等に筋肉がつくようトレーニングの方法を教えてくれる)に行き、抱っこひもで8kg近い子どもを抱え、左右の肩には荷物が掛かって、へろへろだった帰り道。

家まであと少しのところで、自転車に乗ったおじさん(ドイツ人年齢不詳。実際は見た目より若いのかもしれない)が颯爽と現れ、「英語話せる?どこから来たのか聞いていい?」と話しかけられた。

ターコイズブルーのロングコートに革靴、赤緑ライン入りの白のニット帽。その色をさらっと組み合わせるのすごいぞ・・と思う難易度の高い装いで、怪しい人には見えなかったので、「日本です」とこたえると、「やっぱり。そうかなと思ったんだけど。とても素敵なスタイルだね!」と褒めてくれた。

まさかそんな言葉が降ってくるとは思わず、突然のことで少し面食らってしまったけども、ニコニコ笑顔で言われ、とても嬉しくなった。

その日着ていたのは、ユーズドで買ったオーバーサイズの茶革のロングコートに、紺のタートルネック、ベージュに黄のラインが入ったチェックのパンツ。

コートは、抱っこひもで前に子どもを抱えても、寒い日は子どもに被せられるくらいに身幅に余裕があって、産後重宝していた。子ども第一になった日々の装い。朝は鏡の前でチェックする間もなく、飛び出してきた。それを褒めてもらえるとは。

少し話してから興奮気味にお礼を言い、「良い1日を~!」なんて見送ったら、彼はすぐ先のアパートの1階にあるカスタムメイドの紳士服屋の前で自転車を停めた。

追いついて、「ここで働いてるんですか?私、この上のアパートに住んでます」というと、「知ってるよ。お腹が大きいときから見かけてたから。いつもその黒い帽子かぶってるよね。いいね!」と。

産後の抜け毛やドイツに来てから美容室難民でボサボサになった髪を隠すために被っている、黒のベレー帽。これも、そんなふうに言ってもらえるとは。

多国籍なドイツとはいえ、マイノリティとしての生活はときに厳しい目を向けられることもあるなかで、こうした何気ない日常での優しさは、飛び上がりたくなるほど嬉しい。

舞い上がってしまい、その嬉しさを伝える適切なことばを整える余裕がないまま、とにかく何度もお礼を言った。

なにより、「毎日子育てで疲れていたから、あなたの言葉にパワーをもらいました」と必死に伝えた。彼は、これからお店のオープン準備だろうに、お店に入らずに、笑顔で、私がつたない英語で言葉を紡ぎ終わるのを待ってくれていた。

優しい言葉にはちからがある。

おそらくおじさんは何の気なしに気軽にひょいと届けてくれたであろう一言で、こんなに元気をもらえるんだな。

いままで、街の中で素敵な着こなしの方を見かけて気になっても、往来のなかで近づいて、横から「突然すみません、とても素敵ですね」なんて声は掛けたことがなかった。(正直なところ、できる気もしない)

でも、伝えてくれたら、驚きはするものの、受け取る側は素直にとても嬉しいんだと知った。

でもきっと嬉しかったのは、格好をほめてもらったことじゃない。

「家の前の通りで近所のひとと言葉を交わす」という、日常生活の何気ないようなこと。それが、知り合いもそこまで多くない、なかなか慣れないなと思っていた町で起こって、今暮らしているまちのなかに、自分が少しずつでも馴染みつつあることを感じさせてくれたからだ。

通りすがりの会話が、1日中子どもと向き合って、夫としか会話をせずに終わることもしょっちゅうの、ときに孤独に思える私の日々を彩ってくれた。今日という日を、少し特別なものにしてくれた。

「これで明日からもまた少しがんばれる」そう思えた。

ありがとう、近所で働くおじさん。その日は一日中満たされたような気持ちで過ごすことができて、そんな私の様子をみてか、子どももゴキゲンだった。これも大きな二次効果。

つぎに素敵な(好みの?)スタイルの方を見かけたら、私も「とても素敵な装いですね」と勇気を出して思いきって声を掛けてみようかな。

(・・いや、やっぱりできる気がしないけど)

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生活がガラリと変わった今年は、こうした日常のなかの些細な「うれしい」を寄せ集めて、気持ちをつないで乗り切った。おつかれ、2019年。




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