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光潤(こうじゅん)

椿油を全体量の72%使って石けんを作った。


マルセイユ石けん、というものがある。その原材料の基準に寄せた配合だ。

マルセイユ石けんは、17世紀にフランスのマルセイユ地方で作られたのが始まりだ。特産のオリーブ油を使って作るのだが、石けんは1日2日では出来上がらない。流行ると「まがいもの」が出るのはいつの世も同じで、短期間で作ろうとして、本来入れるべきでないものを入れて、ニセモノ石けんが作られることがあった。


それを厳しく取り締まったのがルイ14世で、彼は原材料や製法に厳しい規制を設けた。


当時は、100%オリーブオイルで作られたものだけが「マルセイユ石けん」だとされていた。それがしばらくして72%が植物性の油であれば良い、というように緩和された。


72%という数字にこだわるのは、それが由縁だ。


今回の石けんに使用した椿油は、中国製、日本で不純物を取り除き精製された製品だ。日本には椿油の産地があり、それらの地方で既に椿油の石けんは作られている。


椿油は、三大オイルのひとつで、世界で古くから健康と美容のために使われている歴史あるオイルだ。オリーブオイル、ホホバオイル、カメリアオイル。これが三大オイルだ。


椿オイルといえば、黒髪を連想させるように、艶のあるしっとりとした質感を好む方に人気のオイルだ。


それを原材料とした石けんもやはり、髪をしっとりとさせる。ふわりとしたヘアスタイルを好む方には向かない。

洗い上がりの肌も、クリームが必要ないほど自然に潤う。


そのほかには、ココナッツオイル、パームオイルを使用した。それぞれ、泡立ちや硬さを出すための役割があるオイルだ。パームオイルに関しては、環境破壊が問題になっており、このオイルを使うことを嫌う方もいる。


香り付け用の精油は、5種類をブレンドして仕上げた。1日の最後に使用することが多い石けんには、気持ちを落ち着かせ、自らの深淵とつながることができるような香りを私は好む。


今回の特徴は、スギナのチンキを使用したことだ。

昨年の春に無農薬の土地で詰んだスギナを、ウォッカに漬けておいた。スギナの成分をお酒に移して、その成分を石けんに閉じ込める、という思惑がある。


作成間際に加えたのは、ドライカモミール粉末だ。


ドライハーブの香りは長く石けんの中に残る。しかもほのかに。手のひらで泡立てる時に、少しだけスクラブのような感触が楽しめるのも良い。


どうしても何か物足りなくて、考えていた。間際にこうしてピン、と来るものは吉と出る場合が多い。


カットし終えたので、ここから約1ヶ月熟成させる。熟成といっても、味噌のように熟成するわけではなく、しばらく寝かすことで鹸化を進め、強アルカリから弱アルカリ性に落ち着かせる時間を意味する。


ジェル化して輝きのある色合い、椿の潤い、ということで『光潤』と名付けた。

時々、覗き込んで、香りを確かめる。日常に石けんがある生活は、日常であって特別だ。


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