「大国と小国の連邦においては大国が下に横たわらなければならない」『老子』第六一章

 連邦制の思想としてもっとも古く明瞭な原則を述べたのは『老子』であるというのが年来の主張です。『現代語訳 老子』(ちくま新書)で述べました。

 その原則を述べた六一章の現代語訳を再検討しました。鍵は牝牛が中国思想では水神であることに思いついたことです。その他基本は上記著書とかわりません。

 大国は水神の牝牛(めうし)のように流れながら天下の交りを深めていく。牝(めす)は雄の下に横たわって雄(おす)を抑える。大国が小国の下にいれば大国は小国を支配できるし、小国は大国を下にして支配することができる。下にいることによって取り、下にすることによって取る。大国は併せて人を増やしていき、小国は人との関係を広げていく。こうして両方がそれぞれの必要を得るためには、まず大国が下に横たわることだ。

 国と国の関係を性的な関係として論理化する『老子』の考え方は、ロシアのウクライナ侵略戦争をみていると、戦争というものの肉体性あるいは動物性をある側面から描き出しているように感じます。戦争は反対です。

 世界史においてヨーロッパは四・五世紀以降、連邦制を拡大することによって発展したのだと考えています。中国は『老子』を産み出しながら、それに失敗してきました。連邦と国家間の自立的関係を歴史の過去にさかのぼって考えるさいに『老子』の思想は重要だと思います。

以下、書き下し文です。

 大国は下流なり。天下の交なり、天下の牝なり。牝は恒に静を以て牡に勝つ。その静を以て故に下るを為せばなり。故に大国は以て小国に下らば則ち小国を取り、小国は以て大国に下らば則ち大国を取る。故に或いは下りて以て取り、或は下りて而も取る。大国は人を兼ね畜わんと欲するに過ぎず、小国は入りて人に事(つか)えんと欲するに過ぎず。それ兩者は各おのその欲する所を得ん。大なる者、宜しく下るを為すべし。

そして以下、ル・グィンの英訳です。見事なものです。

The polity of greatness

runs downhill like a river to the sea,

joining with everything,

woman to everything.


By stillness the woman

may always dominate the man,

lying quiet underneath him, 


So a great country

submitting to small ones, dominate them;

so small countries,

submitting to a great one,dominate it.


Lie low to be on top,

be on top by lying low.

 


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