渋谷のミチバタを歩く Vol.1 ―齋藤紘良

僕の現在には物語がある。
体重にも身長にも、髪毛や眼の色、言葉づかいやクセにもある。
たとえ誰も気に留めない変化にも実はちょっとした話がある。

10月某日。
その日の朝は、秋の気候らしくぬるい気温だったので外出時に上着を持っていくかを少し迷った。
夕方は少し冷えるだろうと予想し、白いナイロンジャケットを羽織って家を出てみると外は清々しい風が漂っていた。
心地よい気分で渋谷東しぜんの国こども園を目指して京王線渋谷駅中央口を抜けると、なんだか妙に遠回りしたくなったので鶯谷町あたりをくるりと巡りながら東1丁目へ向かおうと思う。

あらためて渋谷には谷が多い事に気づく。
渋谷区立こもれび図書館一帯は太古の高台を感じさせ、今でも見晴らしがよく風が吹き抜ける。
なぎ食堂の交差点は谷間の辻だろうか。
都立第一商業高校あたりの豪華な家々の庭もしっかりと紅葉し始めている。
見上げると奇抜な紋様を携えるビル。エントランス付近で撒き散らす高周波が痛い。
代官山TSUTAYAからは緩やかな勾配が並木橋へと続く。

マスクをしているせいか、気候のせいか、それとも坂の多さゆえなのか、まち歩きをしていると身体が暖まってジャケット内が火照る。
ほのかに汗ばんだ首元に秋風がそよぐ。
(ああ、やっぱり秋は最高だな、)と思いながらも、冬のピリッとした寒さも捨てがたいのだけど。

ミチバタで道草をした時間は23分。
つかの間に味わった心地よい情緒に少し得をした気がした。
しぜんの国こども園に着くと、知り合いにあいさつをひとつ。
(あれ、もしかして、いつもよりも自分の声に覇気が出ている?)
それほど立派でもない体毛を逆立てながら、気のせいのように小さな変化を、いまは深い考えもなく書き留めておきたい気分だ。

Vol.2に続く

ミチバタキッズ主催代表 齋藤紘良

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