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父と山


山で木を切る。
風呂焚き用の薪づくりや、椎茸の原木用に切り出すためだ。

子どもの頃は、親と一緒に山に入り、長い木を引きずって帰っていた。
担ぐことはできなくても、ズルズルと引きずって帰ることはできる。
そうやって持って帰った木を、チェーンソーで短くし、薪に束ねる。
太いものは斧で割る。

大人になってからは、お正月に帰省してやる事は、焚き火と薪割りになった。

いつからだろう、
薪を割るマシンが入れられていて、その機械で薪は割られるようになった。
それも見ていておもしろい。
木を横たえてスイッチを押すと、刃がゆっくりと木にめきめきと音を立てて食い込んでいき、しまいにはバッキリと割れるのだ。

チェーンソーを使える父は
なかなかたくましくてかっこいい。
さすがにチェーンソーで彫刻はしないが、刃を研いで切れるようにメンテしたりするのもひっくるめて、カッコイイのだ。
山の男ってなんでも出来そうに思える。

それはやはり木を切る時が
やはり一番かっこいい。
椎茸の原木用に
木を切り倒すときなど、
倒れる方向、足場、それらを見定めてチェーンソーの刃を入れるのだ。
長年の経験に裏打ちされているそれらの動きは、無駄がなく美しい。


静かな山の中に響く
チェーンソーの音。
倒れる木の幹の軋む音。
遠く近くに鳥の囀り。
一緒にいる私たちは
白い息を吐きながら笑う。

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