Inis Oirr

Inis Oírr について。アイルランドのアラン諸島のいちばん東の島の名。(下の地図の綴りは少しおかしい。)

英語話者は殆どが「イニシーア」と発音する。この地名の英語綴りが Inisheer となっているので。

私も長くその発音だと思っていた。アイルランド語で「島」inis は「イニシュ」なので。アイルランド語では「イニシュ・イール」となるのだと。

ところが、あるとき、この島出身の、この島のアイルランド語を母語とするシンガー(実はわが最愛の歌い手)が出したアルバムで、この島をテーマにした有名な器楽曲に歌詞をつけて歌ったのを聴いた。

すると、驚いたことに「イニス・イール」とはっきり発音している。私は何かの間違いではないかと思った。でも、この島のことばを母語とする人が間違えるはずがない。しかも自分の島の名だ。

それで、私はすぐにその人に問い合わせた。この発音は間違いではないのですか。「イニシュ・イール」ではないのですかと。

ずいぶん失礼な質問だったと思うのだが、答えは「いえ、こう発音します」というものだった。

母語話者なので、なぜそうなるのかについての言語学的な説明は自分ではできない。その島ではそう発音するから自分もそう発音するというだけのシンプルなことに違いない。

そこで、私は考えた。アイルランド語の広子音と狭子音の法則から考えるとどうなるか(aouが隣接すると広い、ieが隣接すると狭い)。

inis は単独では「イニシュ」だ。しかし、そのあとに続く oírr はおそらく oirthear「東」の属格 oirthir または thiar「西の」だろう。前者の場合、アラン諸島の東島、後者の場合はゴールウェーからみて西の島の意ということかもしれない。

ともかく、現代の綴りだと Inis Oírr で inis に続くのは oírr と、o が s に隣接している。そうすると、法則からすると、s は広子音「ス」になっても不思議はない。

国土地理院のような地名に関する国家組織がある。そこのウェブサイトでは、アイルランド語が Inis Oírr とあり、発音を聴くことができて、明瞭に「イニス・イール」と聞こえる。一方、英語になると Inisheer で、これは「イニシーア」だ。

したがって、Inis Oírr が「イニス・イール」と発音することは100%間違いがない。

なお、歌の中で隣の Inis Meáin「中島」(アラン諸島の真ん中の島)も歌われるが、それははっきり「イニシュ・ミャーィン」と発音される。s に隣接する母音が e なので、s は狭い子音「シュ」になる。非常に厳格に法則が守られている。

この歌は次のビデオの冒頭部分で聴くことができる。

#Inis_Oirr #アイルランド語 #アラン諸島 #Lasairfhiona_Ni_Chonaola  


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