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[詩学]「未来は過去、過去は未来」あるいは対照法と逆説

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

標題は管啓次郎の最新の詩の一節から。

琥珀色の蜜の中を渡り鳥の群れが泳いでいる
シベリア鉄道追いかけてアラスカ鉄道追い抜いて
夜もぼんやり明るい光を浮かべた
蜜色の空のメシャスベを渡って行きます
未来は過去、過去は未来、時間は大空の巨大な環形動物

(注。メシャスベ=ミシシッピ川)

こういうレトリックを antithesis「対照法」という。

詩において広く用いられる修辞法である。正反対の観念を置き、意味を鮮明にする技法。



paradox は修辞から理解の様式に変貌した

しかし、見方を変えれば、これは paradox「逆説」である。一見矛盾しているようだが、よく考えると真理をうがつ。つまり、不合理に見えて正しい説。そうだとすれば、「よく考えると」の部分が難しいことがある。

そこで、思考のレベルでいうと、逆説は古代の修辞家が文彩と捉えたものの上をゆく、理解の様式といえる。20世紀の批評家はそのような立場に立った。

つまり、単に言葉の綾として、修辞として、矛盾することを並べたわけでなく、われわれの思考の習慣に挑戦する意図がある。

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※「英詩が読めるようになるマガジン」の副配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201703)」へどうぞ。

この定期購読マガジンは月に本配信を3回配信します。そのほかに副配信を随時配信することがあります。本配信はだいたい〈英詩の基礎知識〉〈英語で書かれた詩〉〈歌われる英詩〉の三つで構成します。2016年11月から主要な内容をボブ・ディランとシェーマス・ヒーニでやっています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人たちです。

今回の副配信は、現代の英詩の重要な技法のひとつパラドクスについて考えるためのものです。特にボブ・ディランの詩にはパラドクスがよく出てきます。参考になればと思います。

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17世紀の詩人以来、特に oxymoron「矛盾語法」「撞着語法」の修辞を用いることで逆説を展開することが行われてきた。キリスト教文学においてもよく用いられる。

21世紀において paradoxer「逆説家」の詩人としてボブ・ディランを考えることができる。

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