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[英詩]伝統歌の基礎知識(3)——'Nottamun Town'

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

伝統歌のなかには不思議な歌があります。今回取上げるのは 'Nottamun Town' という伝統歌です。

この歌が知られているのはジーン・リッチーの歌唱によってです。そのリッチーはこの歌のことを「超現実主義フォークソング」'A piece of folksong surrealism' と呼んでいます。

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[Jean Ritchie (1922-2015)]

「超現実主義」といえば20世紀の文学芸術運動のことばです。ではこの歌は20世紀の歌なのでしょうか。

いいえ、違います。中世以来の歌と考えられています。

そんな不思議な歌があるのでしょうか。18世紀には英国では歌われなくなり、その後、歴史から消えたように見えて、20世紀の初頭に突如米国のアパラチア山脈で発見されます。17世紀に英国から米国への植民者が伝えたものと言われています。

それからはいろいろの歌い手が唄っています。そのメロディを借用したボブ・ディランの〈戦争の親玉〉はディランのプロテスト・ソングの頂点と目されています。

なぜ、ディランはこの歌に惹かれたのでしょうか。また、なぜ、多くの歌い手がこの歌を今も唄いつづけているのでしょうか。「超現実主義フォークソング」だと思いつつ、なぜ、ジーン・リッチーはこの歌を唄いつづけたのでしょうか。

さまざまの疑問がわきます。一挙に解決はできないでしょう。今回はその詩をながめて、解決の糸口だけでも考えてみましょう。

なお、リッチーが亡くなったとき(2015年6月1日)、英国のフォーク音楽の評論家、私が敬愛するケン・ハントが追悼記事を書いています。その中でディランに与えた影響について触れています。

このあと、原詩、日本語訳、韻律、解釈を順次、みていきますが、当マガジンの本配信の毎月1回目は英詩の基礎知識を扱うので、丁寧に基礎からお話しします。

このあと、本配信の2回目にはふつうの英詩(ノーベル賞詩人のシェーマス・ヒーニなど)、3回目に歌われる英詩(最近はノーベル賞詩人のボブ・ディランの歌をやっています)を取上げる予定です。ほかに、副配信として、サブ・テーマみたいなのを1回か2回配信することが多いです。

目次
原詩
日本語訳
韻律
解釈
 Nottamun
 riddle
 5連のなぞ解き
 聴き比べ

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201710)」へどうぞ。

このマガジンは月額課金(定期購読)のマガジンです。月に本配信を3回お届けします。

英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈英語で書かれた詩〉〈歌われる英詩〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2016年11月から主にボブ・ディランとシェーマス・ヒーニでやっています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人たちです。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。

バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。

ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。

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原詩

Nottamun Town

In fair Nottamun town, not a soul would look up,
Not a soul would look up, not a soul would look down,
Not a soul would look up, not a soul would look down,
To show me the way to fair Nottamun town.

I rode a grey horse, a mule roany mare,
Grey mane and grey tail, a green stripe down her back,
Grey mane and grey tail, a green stripe down her back,
There wa'nt a hair on her but what was coal black.

She stood so still, she threw me to the dirt,
She tore-a my hide and she bruised my shirt.
From saddle to stirrup I mounted again,
And on my ten toes I rode over the plain.

Met the King and the Queen and a company more,
A-riding behind and a-marching before
Came a stark-naked drummer a-beating a drum
With his heels in his bosom come marching along.

They laughed and they smiled, not a soul did look gay,
They talked all the while, not a word they did say,
I bought me a quart to drive gladness away
And to stifle the dust, for it rained the whole day.

Sat down on a hard, hot cold frozen stone,
Ten thousand stood round me, and yet I's alone.
Took my hat in my hand for to keep my head warm,
Ten thousand got drownded that never was born.


日本語訳

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