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[英詩]Bob Dylan, 'Everything Is Broken'

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

英詩のマガジン の本配信、今月3本目です。歌われる詩の2回めです。今回はボブ・ディランの傑作の誉れ高いアルバム 'Oh Mercy' (1989年、下) に収められた 'Everything Is Broken' です。

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録音は1989年3月14日。オーヴァダブは1989年4-7月。録音スタジオは、New Orleans の The Studio. プロデュースは Daniel Lanois で、録音エンジニアは Malcolm Burn と Mark Howard. 音質はすばらしく、ボブ・ディランのハイレゾ DSD 音源の中でも一二を争う。

次の参加ミュージシャン。

Bob Dylan - vo, g, hca
Daniel Lanois - dobro
Brian Stoltz - g
Tony Hall - b
Willie Green - ds
Daryl Johnson - ds
Malcolm Burn - tambourine

(vo: vocal, g: guitar, hca: harmonica, b: bass, ds: drums)

本歌ができるきっかけについて、ディランは自伝で、Coney Island (New York 市 Brooklyn 区南部の保養地) で横になっているときに、砂に埋もれているポータブル・ラジオを見た体験を述べます。その壊れたラジオを見て、他にも多くの壊れたものがあるのを思い出し、気分が落ち着かなくなったという。

はじめは 'Broken Days' というタイトルで、壊れた関係についてのものでした。その段階では 'I sent you roses once from a heart that was truly grieved' のような歌詞を含んでいました。典型的な失恋の歌です。その初期ヴァーションはアルバム 'Tell Tale Signs' (The Bootleg Series vol. 8) に収められています。

ところが、ディランはこの歌に政治的な面を加え、脱出口が見えず全てが粉々に砕けた機能不全の現代社会を糾弾するようになります。そのメッセージは同じアルバムに収められた 'Political World' よりも辛辣。

詩テクストをリクス校訂版に準拠して考えます。

参考文献 は、文字数の関係で別の note にあります。

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(202012)」へどうぞ。

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【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として新しい方から2番めのノーベル文学賞詩人です。(最新の Louise Glück もときどき取上げます)
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

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まとめ

ボブ・ディランの 'Everything Is Broken' は、原曲の人間関係の破局の痕跡をわずかに留めながら、社会や政治などのあらゆる面が壊れていること、人心も荒廃していることを唄う。原曲 'Broken Days' のほうが詩的密度が高く、優れていると思われるが、なぜか公式盤に入らなかった。

動画リンク [Bob Dylan, 'Everything Is Broken' (live)]

動画リンク [Bob Dylan, 'Everything Is Broken' (Official Audio)]


原詩+注+日本語訳+韻律+解釈

Everything Is Broken
Bob Dylan

1連

Broken lines, broken strings
Broken threads, broken springs
Broken idols, broken heads
People sleeping in broken beds
 Ain’t no use jiving, ain’t no use joking
 Everything is broken

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