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詩学の前日から——高塚謙太郎「FAREWELL FAREWELL」を読む

峯澤典子さん編集の詩誌「hiver」(2023, 下)で出会った高塚謙太郎の詩「FAREWELL FAREWELL」について。

hiver (2023)

Fairport Convention の Sandy Denny が唄う 'Farewell, Farewell' は、伝承歌 'Willie O' Winsbury' (Child 100)の曲に、Richard Thompson が詞をつけたものだ。その歌の

Farewell, farewell to you who would hear
You lonely travelers all
The cold north wind will blow again
The winding road does call

という詩行を、この詩の題名を見て、思いおこしていた。

と同時に、Pentangle の Jacqui McShee の唄う無二の  'Willie O' Winsbury' が頭の中で鳴っていた。

高塚の「FAREWELL FAREWELL」は、冬の詩学というものがもしあるとすれば、それを詩の言語の可動域のなかで、この上なく美しくうたったものだ。その精密さは、ピアノフォルテのアクションと倍音に秘められた数学的精密さと不思議とを想起させる。

もし、ピラミッドの特別の間で詩作する詩人がいるとすれば、そこだけではたらく特別なフラクタルなひびきを余すところなく活かした詩行ができあがることだろう。それがこの詩ではないか。

この詩のどこをとっても、その詩学がひびいている。前日から。

詩学の前日から
降りつづく雪の模様
といってみてそれでも
明晰されないとしたらもう
花の見立ててきた
波の音が
フラクタルな雲を名づけて

高塚謙太郎「FAREWELL FAREWELL」

#詩誌 #hiver #高塚謙太郎

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