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[英詩]Bob Dylan, 'Girl of the North Country'

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

英詩のマガジンの本配信、今月2本目です。歌われる詩の1回めです。ボブ・ディランのアルバム 'The Freewheelin' Bob Dylan' (1963)に収められた曲です。歌の題は 'Girl of the North Country' または 'Girl from the North Country' として知られています。バラッドの影響が色濃い歌ですが、ディランはどんな独自色をこめたのでしょうか。

聴いたひとはすぐ分ることですが、有名なフォークソング 'Scarborough Fair' に似ています。それもそのはず、出どころが英国のフォーク音楽の至宝マーティン・カーシ (Martin Carthy MBE, born 21 May 1941, 下の写真)です。ディラン (Bob Dylan, born 24 May 1941) はカーシから直接この伝統歌を教わったのです。そして、カーシから許しを得て自分の歌 'Girl of the North Country' に一部組込んだのです。作者名は Bob Dylan となっています。

その点、同じくカーシからこの歌を習って自分の歌に取入れたサイモン (Paul Simon, born 13 October 1941) とは大違い。サイモンはこの曲をまるごと 'Scarborough Fair' という〈自作の〉曲として、サイモンとガーファンクルで発表したのです。後年、サイモンとカーシとは和解しましたが。

もともとは伝承バラッドに由来する伝統歌で、カーシはあの特徴的なギターの演奏を考え出したのです。あまりにもかっこいいので、サイモンがコピーしたくなる気持ちも分らないではないですが。幸い (?)、ディランにはそこまでのギターの腕はないので、歌の一節を取入れただけに終わりました。

この歌にかかわる3人がいづれも1941年生まれなので覚えやすいですね。

ディランの名誉のためにつけ加えておきますが、ディランはギターが下手というわけではなく、ときに素晴らしい演奏が録音されていることもあります。しかし、もともとはピアノで出発したので、ピアノで弾き語りをするときのほうが迫力があるようにも感じます。

先日もお知らせしましたが、今月から、とうぶん、Bob Dylan, '100 Songs' に載っている歌を取上げてゆきます。1か月に最低でも2篇、可能なら4篇ていど、取上げたいと思います。月の主配信は〈英詩の基礎知識〉〈歌われた英詩1〉〈歌われた英詩2〉の3部構成にする予定です。

これまでは一つの歌に 12,000-15,000 字を費やして論じてきましたが、今後は一つあたり 5,000 字見当(または多くても10,000字以内)で論じてみます。ディランの詩は複雑で深いので、これだけの字数で論じられるかは不明ですが、読む方の負担も考えつつ、なおかつディランの全体像がくっきり見えるような記述を目ざします。ご理解くだされば幸いです。

目次
まとめ
原詩
日本語訳
韻律
解釈
こぼれ話

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201803)」へどうぞ。

この定期購読マガジンは月に本配信を3回配信します。そのほかに副配信を随時配信することがあります。本配信はだいたい〈英詩の基礎知識〉〈英語で書かれた詩〉〈歌われる英詩〉の三つで構成します。2016年11月から主要な内容をボブ・ディランとシェーマス・ヒーニでやっています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人たちです。

【お断り】2018年3月から〈英詩の基礎知識〉〈歌われた英詩1〉〈歌われた英詩2〉の三つで構成します。歌われた英詩はボブ・ディランを当面扱います。

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まとめ

ボブ・ディランの 'Girl of the North Country' ('Girl from the North Country') は伝承バラッドにインスピレーションを受けて作ったラヴ・ソング。その愛の表現が伝統の定式を活かしつつ巧みに綴られ、英国の伝統歌とは違った清新さを感じさせる歌になっている。おそらくは優しき人や、そういう人々に囲まれた自分の優しき人生との別れを惜しむ歌。

動画リンク [Bob Dylan, 'Girl from the North Country' ('Quest' (Canadian TV), 10 March 1964)]


原詩

Girl of the North Country
(Girl from the North Country)
Bob Dylan

If you’re travelin’ in the north country fair
 Where the winds hit heavy on the borderline
Remember me to one who lives there
 She once was a true love of mine

If you go when the snowflakes storm
 When the rivers freeze and summer ends
Please see if she has  a coat so warm
 To keep her from the howlin’ winds

Please see if her hair hangs long
 It rolls and flows all down her breast
Please see for me if her hair is hanging long
 For that’s the way I remember her best

I’m a-wonderin’ if she remembers me at all
 Many times I’ve often prayed
In the darkness of my night
 In the brightness of my day

So if you’re travelin’ in the north country fair
 Where the winds hit heavy on the borderline
Remember me to one who lives there
 She once was a true love of mine

(詩テクストは Chrsitopher Ricks ら編の校訂版[2014, 下の写真]に準拠。流布版テクストとはかなり違う。実際に唄われている歌詞に近い)


日本語訳

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