[英詩]Abstract for Concrete
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ディランを含む英詩にたびたび登場する換喩 (metonymy) (*) の一つに the Abstract for the Concrete と呼ばれる用法がある。抽象 (the abstract) で具象 (the concrete) を表す方法である。
(*) 換喩:あるものを表すのにその属性またはそれと密接な関係のあるもので表現する技巧。原因で結果を、容器で内容を表すなど。物事の隣接性に基づく比喩。例えば、the crown=king, the bottle=drink / wine, fur and feather=beasts and birds, scepter=sovereignty, count heads (noses)=count people, the White House=the President, suit=business executive, the turf (track)=horse racing など。
[Metonymy; source]
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この abstract for concrete について、簡潔にふれてみる。
修辞学 (rhetoric) 関連の文献には、いろいろな換喩の記述があるが、ここでは Web 上の 'Rhetorical Figures' を基にする (おそらく、カナダの University of Waterloo が開発したもの)。
典型例
いちばん簡単に Abstract for Concrete を説明するために、ふつうの言い方をこの修辞 (trope) で言い換えるとどうなるか、を示してみる。
次のような文を考える。
The sick man seeks a physician; the grieving man, solace; the poor man, aid.
病気の人は医者を求める。悲しむ人は慰めを。貧しい人は助けを。
ごくふつうの、簡明な言い方である。これを Abstract for Concrete を用いて表現すると次のようになる。主語に当たるところがどう変わるかを見てほしい。
Illness is in need of a physician; grief is in need of solace; poverty is in need of aid.
病は医者を必要とする。悲しみは慰めを必要とする。貧困は援助を必要とする。
意味するところは明らかであるが、何か思想的真実を述べたような、重みが加わる。
この言い換えは、具体的なものを抽象的な語に換えるというものである。
応用
この修辞はさまざまな場面で応用がきく。具体的な人を挙げて、その人をイメジさせて、何が必要かを伝えるには最初の直截な言い方がいいだろう。
それに対して、経済や社会の専門家が政治的な提言をおこなう論文などであれば、抽象語を主語にした修辞が効果的だろう。
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そして、もう一つ。この修辞は詩的でもあり得る。直截に簡明に伝えたいときは、いつでもストレートな物謂いはもちろんできる。
だけれども、ひとつクッションを置いて、間接的に伝えて、より花を咲かせたいときには、このような修飾も選択肢にはいる。
詩人はさまざまな修辞を駆使して、自在にことばの華をあみだす。
ディランの例1 ('Every Grain of Sand')
Abstract for Concrete の例をボブ・ディランから拾ってみよう ('Every Grain of Sand')。
I gaze into the doorway of temptation’s angry flame
わたしは誘惑の炎がかっと燃える門戸をじっと見つめる
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