ミカーレのオープンと初めての来客 #1
「ただ今、4月5日午前10時をお知らせします。」
片手に収まるサイズのポータブルラジオから発せられた、聞きなじみのない女性の声が、店内にこだましました。
「今日は4月なのに寒いね」
店長のミカレさんが窓を見つめながらつぶやきました。
外では音がしない程度の小雨が降り、
霧でかすんだ山がいつもとは違って見えます。
「僕達らしさがあっていいじゃないですか」
彼は、理系の大学に通う「さこた」という青年だ。少し理屈っぽいところがあるが、純粋でいい人だ。
「そうなんだけどねぇ。だって今日は待ちに待ったこの店の開店日よ。もう少し、天気が味方してくれればよかったのに。」
「でも、無事オープンできなのだから、よかったとしましょう。」
「そうね、こんな天気の中来ていただいたお客さまには最高のおもてなしをご提供しましょう!」
午後2時
「カランコロン」
店内にベルの音が鳴り響きわたりました。
ついに初めての来客です。