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No Place Like You - Thousand Below【和訳】

"どこにいたって、君の影さえも感じれない"

ポストハードコアバンドThousand Belowの1st Albumから1曲です。

この曲を訳す前に同バンドのSleeplessを訳しましたが、そちらは全編通して「君がいないから眠れない」だけを繰り返していて、和訳にすると酷くクドクドになってしまって……というわけで没になりました。胸焼けした。

が、No Place Like Youは暗示的な歌詞が続いて、さらに単純に恋愛感情だけでなく広義の別離とも捉えられる節があったりと、
聴く人次第で受け取り方に幅がありそうな詩的さを含んでいて、いいなあ、と思ったのでこちらを採用しました。

コーラスのthe weight of two soulsが何を表しているのか、がこの楽曲の肝だと個人的には思います。


Title:No Place Like You (2017)
Band:Thousand Below (2016-present)
Album:The Love You Let Too Close (2017)
Vocal:James DeBerg
Lyrics:Thousand Below


To be honest, I didn't think my heart could weigh so heavy on my chest
言いにくいんだけどさ……
あるべきものが抜け落ちてしまったみたいに
この胸がすっかり空いてしまったみたいなんだ

Is it really safe that I carry my loss so closely
Now it's starting to hurt you and the way that you know me

慎重に、慎重にこの喪失を取り扱うことが
果たしていい方法なんだろうか
そうして僕は君に傷を付けていく
君が僕を知る術も、傷つけていく

I learned so fast
I've never known anyone like you
Really there's no place like you

そうして理解したよ
君みたいな人は他にいないって
どんな場所でも、君の残滓を感じることさえできないって

But now you're leaving
Now you hate me, and I don't blame you

君は去っていく、僕を心底憎みながら
そんな君に小言の一つさえ言えないよ

Cause I'm carrying the weight of two souls on my back
and I'm wearing thin

だって僕は二つの魂を背負っているから
そうして僕は擦り切れていく

How am I used to this
How did you even love me anyways

以前の僕はどうだったんだっけ
どうやって君は僕を愛していたんだっけ

And I know that going my way isn't easy
そうして僕は思い知るんだ
一人で歩んでいくのは難しいって

But now I'm wondering how you see me
Cause I've never let anyone this close before

君の目に僕はどう映っていたんだよ
誰一人近づけさせない僕は、どう映っていたんだよ

Really there's no place like you
ああ、どこにいたって、君の影さえも感じれない

But now you're leaving
Now you hate me, and I don't blame you

君は去っていく、僕を心底憎みながら
そんな君に小言の一つさえ言えないよ

Cause I'm carrying the weight of two souls on my back
and I'm wearing thin

だって僕は二つの魂を背負っているから
そうして僕は擦り切れていく

How am I used to this
How did you even love me anyways

以前の僕はどうだったんだっけ
どうやって君は僕を愛していたんだっけ

And now I'm wearing thin
How am I used to this

そうして見る影もないくらい擦り切れていく
以前の僕を見失っていく

Now I'm living in isolation
There's a part of me I buried with him
That I'd do anything for you to see

僕はもう一つだけなんだ
もう片方の僕は、葬ってしまったから
君を理解するために、何だってしてやろうって

I don't know how we ended up like this so far away
But there's just no place, there's just no place like you

それがこんなにも遠く離れてしまうなんて
考えてもなかったんだ
そして君を感じられる場所はどこにもない
どこにだってないんだよ


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先述したthe weight of two soulsの歌詞ですが、個人的にはこういうことかな……と思います。
単純に「君と僕の別離」とするには少し引っかかる部分があるので。

But now you're leaving
Now you hate me, and I don't blame you

君は去っていく、僕を心底憎みながら
そんな君に小言の一つさえ言えないよ

Cause I'm carrying the weight of two souls on my back
だって僕は二つの魂を背負っているから

このコーラスの歌詞の直前に「君」を傷つけさえしてしまった語り手ですが、とうとう「君」が去ってしまうその時には非難の言葉一つも言えない状況になっています。
その理由として「僕が二つの魂を背負っているから」とありますが……ここだけではどういう意味なのか分かりません。二つの魂ってなんだ?

Now I'm living in isolation
There's a part of me I buried with him
That I'd do anything for you to see

僕はもう一つだけなんだ
もう片方の僕は、葬ってしまったから
君を理解するために、何だってしてやろうって

で、アウトロの叫びの部分でそれが語られます。

必死に「君」を理解しようとして、傷つけさえして、そして「以前の僕」を捨てさえして……その果てに「君」はどこかへ行ってしまう。
けれどそんな君を非難することさえできない。
なぜかというと、葬ってしまったはずの「以前の僕」がそれを止めようとするから。

the weight of two soulsとは「以前の僕」と「現在の僕」の心境とその違いを表していて、
端的に解釈するなら、「どうして君はこうなんだ」と葛藤し攻撃してしまう危険性さえ孕むのが「現在の僕」で、
それでも君を大事にしたい」と純粋に願い止めようとするのが「以前の僕」……というところ、だと思います。

To be honest, I didn't think my heart could weigh so heavy on my chest
言いにくいんだけどさ……
あるべきものが抜け落ちてしまったみたいに
この胸がすっかり空いてしまったみたいなんだ

曲の始まりのこの歌詞について、「君自体を失くしてしまったこと」について語っているのかな?と思いそうになりますが、
全編通すと語り手がなくしたものは「以前の僕」あるいは「以前の僕が確かに抱いていた想い」ではないでしょうか。

コーラスの歌詞で「君」自体を失くしてしまった語り手ですが、
それ以前に、「君」に対する何か大切な感情を失くしていて、
それも完全に失くしたわけじゃなくて「二つの自分を背負っているせいで、君にちゃんと言葉で伝えられない」という……
まるで二つの自分に板挟みの状態になっています。だからI'm wearing thin(薄くすり減っていく)のでしょう。


……まあ、こう解釈した根拠は、当のアウトロの歌詞でburied with "him"とあって、
同バンドのSleeplessのMVを見ると「男女の別離」を歌っていることから、himは「君」ではなく、「語り手自身」を言っているんじゃないかな、と考えたからです。
これがもし「君」が男性なんだったら大外れで、語り手が女性であるか、あるいは語り手と「君」が同性である可能性もありますけども……

buried with meではなくhimとすることで、まるで他人のように過去の自分を扱っているところにクるものがあります。
最早自分だとさえ感じられないものに足を引っ張られて、
だけどその感覚は、まるである日に置き忘れた大切な感情のような、そんな気がして離れられない。

輝きを放つ過去ほど、想いを抱いた記憶ほど、それを達成できなかった今の自分自身を蝕むものはないのかもしれません。
それは他人との別離よりも、酷く孤独な戦いです。