見出し画像

ANOHNI - Drone Bomb Me【和訳】

わたしが悪いことくらいわかってるから
 この頭と、ガラスの内臓を吹き飛ばしてほしい
"

 トランスジェンダーのアーティストANOHNIのアルバムHOPELESSNESSからリードトラック、Drone Bomb Meです。

 ポップなエレクトロサウンドの楽曲と、その音楽性に場違いなほど恐ろしい現実について歌っている楽曲であり、「そんな現実に対して無関心でいるな」というメッセージを確かに感じるアルバムとなっています。

 僕はBring Me The Horizonのカバーでこの楽曲を知りましたが、敢えてこの曲を選ぶあたりにも何か意図があるのかな、と思い、和訳に至りました。
少なくとも「他人から反感を買うかもしれない変革を進んで行う」点がANOHNIとBMTHの共通項であり、またどちらも「自身の内面と戦っている」アーティストのように思えます。


Title:Drone Bomb Me (2016)
Artist:ANOHNI
Album:HOPELESSNESS
Vocal: ANOHNI
Lyrics:Hudson Mohawke & ANOHNI



Drone bomb me
Blow me from the mountains, and into the sea
Blow me from the side of the mountain
Blow my head off, explode my crystal guts
Lay my purple on the grass

 ドローンの爆弾をわたしに落として
 山の向こうから吹き飛ばして、海に沈めてくれればいい
 山の中腹から吹き飛ばして
 頭を吹き飛ばして、ガラスの内臓を壊して
 グチャグチャになったわたしを、草むらに横たえて

補足:my purpleとはGenius Lyricsの有志解説曰く「飛び出た血や臓器のこと」。


I have a glint in my eye, I think I wanna die
I wanna die
I wanna be the apple of your eye

 一つだけ光る希望を見つけたの
 わたしはもう終わりたいんだって
 わたしは死にたいよ
 その素敵なレンズで見つめてよ

補足:
“the apple of one's eye”で「~の目に入れても痛くない」の意。
「ドローンのカメラに捉えて=狙いを定めて爆撃して」。もしyour eye"s"(複数形)なら誰かの瞳のことだと考えられるが、単数形なのでカメラの単眼のことだと思われる。


So, drone bomb me, drone bomb me
Blow me from the mountains, and into the sea
Blow me from the side of the mountain
Blow my head off, explode my crystal guts
Lay my purple on the grass

 ドローンの爆撃でわたしを焼いて
 山の向こうから吹き飛ばして、海に沈めてくれればいい
 山の中腹から吹き飛ばして
 頭を吹き飛ばして、ガラスの内臓を壊して
 グチャグチャのわたしを、草むらに横たえて

Let me be the first
I'm not so innocent
Let me be the one
The one that you choose from above
After all, I'm partly to blame

 真っ先にわたしを狙ってよ
 わたし、そんなに言うほど無邪気じゃないのよ
 わたしのところへ一番乗りで来て
 空の上から選んでよ
 まあどうせ、わたしにも原因があるんだと思う

補足:
... be partly of blameで「...にも責任がある」の意。紛争で爆撃される子供が自身を責めている。そうでなければこんな無情な現実に折り合いがつかないから……?聴き手に色々と考えさせるための歌詞のようにも思います。


So, drone bomb me, I'm partly to blame
Blow me from the mountains, and into the sea
I'm partly to blame
Blow me from the mountains, and into the sea

 ドローンの爆撃でわたしを殺して
 わたしにも責任はあるから
 山の上から叩き落として、海に沈めてくれればいい
 わたしも悪いんだから
 山の上から叩き落として、海まで吹っ飛ばせばいい

I wanna die
I’m not so innocent
I'm partly to blame
Blow my head off
Explode my crystal guts

 死んでしまいたいの
 わたしはそれほど純粋じゃないから
 わたしが悪いことくらいわかってるから
 この頭と、ガラスの内臓を吹き飛ばしてほしい

My blood, my blood, my blood
Choose me, choose me, choose me tonight
Choose me
Let me be the one
The one that you choose tonight
Choose me tonight, tonight

 血がほとばしり空を舞う
 今夜、他でもないわたしを選んで
 わたしを選んで
 わたしを選んで、死なせてほしい
 今夜は、今夜こそは


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 この歌の少女は自分の身に降りかかる死をあまり悲観していないように思えます。むしろ現実を受け入れ、「こうなったのは私もきっと悪いんだろう」という言葉を淡々と紡ぎ、自分の体が千切れて宙を舞う様を想像しては、「私の上に爆弾を落としてほしい」と、死の瞬間に焦がれています。
 ラブソングのようにthe apple of your eyeやchoose meという言葉を選ぶその様には、まるでそれしか祈る対象がないかのような、それしか知らないかのような無垢さを感じさせます。けれど彼女はI'm not so innocentと歌う。

 死ぬことを祈るようになるのは確かに無垢ではなくて、でも彼女は少なくとも多くの人のように、順序だてて現実を知っていく余裕などなかったように思えます。物心ついた時から生きるか死ぬか、吹き飛ばされるか今日もまだ息をしているかしかなかったかのような……そんな生き方をしていたら、「早く殺してほしい」と祈ったって不自然ではありません。
 彼女は確かに無垢ではありませんが、それに至った経緯やその死の運命に対する責任は果たして彼女自身にあるのか?と問われると……


〇ANOHNIとしての言葉

 ANOHNI(アノーニ)はBring Me The Horizonと同じくイギリスを拠点とするアーティストで、同名の歌手が中心となっているプロジェクトでもあります。元々はAnthony Hegarty(アントニー・ヘガティ)という名前とAntony & the Johnsons(アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ)で活動していましたが、Drone Bomb Meが収録されるアルバム"HOPELESSNESS"を皮切りにANOHNIへと改名し、プロジェクトも新たに立ち上げたそうです。
 Antony & the Johnsonsの音楽性はアコースティックなサウンドですが、ANOHNIはエレクトリックに加え政治的批判や地球温暖化問題などデリケートな問題に切り込んだ歌詞となっています。それでも本人曰く「制作からアルバム完成まで3年かかった」とのこと。決して軽い気持ちで出せたものではなかった様子です。

「このレコードはちょっとした〈トロイの木馬〉的な作品なの。エレクトロニック・アルバムとして作っていて、聴いていて心地良い、現代的なポップスの様式に合わせながら、そこに強烈なメッセージを含む歌詞を埋め込むことで、人々が家で普通に楽しんでいるうちに、いつの間にか無人爆撃機などについてのメッセージを耳にしていることに気付く……みたいなね。人間という種族としての私たちを立て直そうとする動きに参加しなきゃ、と思わせるようなものかしら」。 - 記事からの引用

「真実を発信するには勇気がいる。特に〈9.11〉以降から現在のアメリカの状況においてはね。だから私はすでにプライヴェートの生活で使い続けてきたアノーニという名前で、次の一歩を踏み出す必要があった。そろそろ世界と共有しなければいけないと思ったの。私の活動の新しいチャプターを始めるのにも、ちょうど良いタイミングだったのよ」。

 彼女はどちらかというと「政治のことしか考えていない人」ではなく、「普段は違うことを歌うけど、自分の生きている世界で起きている問題に対して距離を置くことに違和感を抱いたからこそ、繊細な問題に切り込んだ」という姿勢のように思えます。
 機会があればAntony & the Johnsonsの曲を聴いてみてほしいのですが、曲調はカントリーやオペラライクな温かいもので、歌詞ももっと多くを包み込むようなものや死について歌う荘厳なものが多くあります。典型的なむちゃくちゃ良い曲。このANOHNI名義がかなり異質で、かつ直接的な表現を多用していることがよくわかります。


 以下、Genious Lyricsの有志解説を和訳していきます。歌詞に対しての解説を一つ一つ取り上げます。

〇About “Drone Bomb Me”(この楽曲について)

It’s a love song from the perspective of a girl in Afghanistan, say a 9-year-old girl whose family’s been killed by a drone bomb. She is kind of looking up at the sky and she’s gotten herself to a place where she just wants to be killed by a drone bomb too. (- BBC radioでのANOHNIのコメント) この楽曲は、ドローンの爆撃によって家族を失ったアフガニスタンの9歳の女の子の視点の歌です。
 素っ気なく空を見上げては、家族のいる場所に行きたいと彼女は祈ります。


〇Blow my head off, explode my crystal guts
 Lay my purple on the grass

Obviously the “crystal guts” and the “purple” are parts of her body that are likely to be shown if the girl gets bombed.
Given the gore, the artist probably used an euphemism to make it look beautiful.
The imagery chosen is essentialist and speaks of a hidden preciousness rather than the materiality of her innards.

 “crystal guts”と“purple”は、もし歌い手が爆弾で吹き飛ばされたら見える光景を指している(臓器や血)。この歌詞は、それらの流血的でグロテスクな表現を婉曲的に美しく見せるための方法と言える。
 そしてこれは本質主義的な主張である。つまり彼女の“guts”や“purple”は一般に知られる「臓器」という器官よりも厳かな貴さを持つということだ。


〇I have a glint in my eye, I think I wanna die

The girl from whose perspective this is written is a child in the Middle East whose parents have been killed by a drone strike. All she wants now is to die – she has nothing left to live for.
 少女はドローンの爆撃で両親を失った中東の子供として描かれている。
今彼女が求めるのは自身の死ーーー最早生きる意味など少女は持たない。

The “glint” in her eye is presumably a drone, coming from the West to destroy her.
 “glint(一筋の光)”とはドローンのことだ。彼女を焼き払うその爆撃機を、彼女は求めている。


〇I wanna be the apple of your eye

That is, the girl wants to be the reflection in the drone’s camera lens. The apple is a metaphor for being a target.
 “the apple of……”とは、ドローンのカメラにどうか写してほしいという願いだ。ドローンがターゲットを捕捉することの比喩として“the apple”を用いている。


〇Let me be the first I'm not so innocent

This girl is so enamored with the idea of death that she’s trying to justify her obsession by the tiniest things such as not being “so innocent.”
 「純粋無垢」とは言えないような、些細なこだわりを押し通すために死ぬ。その考えに、少女は酷く惹かれている。

These lyrics could also have a second meaning from a personal perspective of ANOHNI herself, who perhaps feels such tremendous guilt as an American citizen that she sees herself, The Taxpayer, as to blame for the “War on Terror”.
 また、恐らくだが、この歌詞はアノーニ自身の考えに基づいた第2の意味がある。彼女は途方もない罪を感じている。彼女自身も含め、納税している米国民には「テロとの戦い」に関する責任を負う必要があると考えている。

 この訳が間違っていたら指摘をいただきたいのですが……ANOHNIはイギリス出身なので、アメリカ在住でない限りは納税していません。ただ、同アルバムに"Obama"という楽曲があり、当時のアメリカ大統領への失望を歌った楽曲があるので、確かに彼女はアメリカに在住しているのかもしれません。僕も含め日本人には分かりにくい概念ですが、多国籍国家であるアメリカはどこの国出身かということを気にしないし、気にしてはいけないという風潮があるようで、だからこそ「アメリカに納税さえしていればアメリカの国民である」という発想になり、結果"she sees herself"(彼女自身もそうだと分かっていて)という表現で解説をしているのではないかと推測します。
 「納税している以上、この歌の少女のような人をあまりに理不尽に殺す紛争に加担している。それは私自身もそうだ」と彼女は言ってるんじゃないかなあ……という解説です。

 「早く殺してほしい、私は無垢じゃないし」という歌詞はリスナーを立ち上がらせるためのように思いますし、その点でこの解説は僕の前述の感想とも一致します。


〇Let me be the one
 The one that you choose from above
 After all, I'm partly to blame

Maybe part of the little girl’s obsession with the drone comes from her feeling as if the drone bombing her family is her fault somehow, seeing as she survived.
(この一文を訳すために時間をかけたのですが、正確に訳せる自信がないため保留とさせていただきます……somehowやseeingのかかる位置が全然分かりません。もし御助力いただければ、コメントください……)

The event haunts her so much that her relationship with the drone has become almost religious. She sort of worships the drone knowing what it’s capable of and she’s ready for her demise at any given moment.
 もはや彼女にとってドローン爆撃機はほとんど教祖的なものでさえあった。彼女は幾分ドローンを崇拝し、いつだって終わりの時を迎える心積もりをしている。

Also, ANOHNI has mentioned that some inspiration for this album stems from her feeling like a “passive-participant” in a system that supports something as atrocious as a drone bombing.
 またアノーニはアルバムを通して、ドローン爆撃のような凶悪な出来事を支援する制度に対し消極的で受け身な姿勢について言及している。


 「人の前に立つ創作者として活動するなら、政治的発言なんて誰も望まないからやめた方がいいよ」という言葉を耳にしたことがあります。確かに政治はあまりに多くの人間の意図を背負い、あまりに多くの人間の生活と命を背負い、あまりに多くの希望と罪と偏在する極論を抱えているため、繊細で言及することも憚られるきらいがあります。ただ僕が思うのは「政治について言及する奴は気持ち悪い」というイメージを植え付けた誰かがいるのではということで、本来生活に直結するもののはずなのに、大切な人を守るために無関心ではいられないもののはずなのに、誰もがここまで遠ざけようとしている状況には少し違和感を覚えます。

 正直僕も「政治について言及する人はちょっと……」という感情を抱いてしまう人の一人なのですが、果たしてこの歌のような人間がどこか現実で生まれていて、少しでも自分の行動がそんな現実を引き起こすことに加担しているならば、或いは自分が盲目と無関心を選んだばかりに人が死んでいるのであれば、果たしてそれはどうなんだろう、と思ってしまいます。
 そういう風に考えさせることこそDrone Bomb Meの意図ですし、むしろ考えさせるだけではなく立ち上がってほしいと訴えるのがこの歌なのかもしれません。


- 余談 - 

 Bring Me The Horizonのカバーはこちら。Spotify限定公開です。

 近年エレクトロサウンドに振っているBMTHにとって親近感を覚える楽曲であったことは間違いなく、アーティストとして「戦っている」感があるのところをリスペクトしているんじゃないかなあ、と思います。
 というかAntony & the Johnsonsの方はかなりの再生数と知名度を誇ってますし、BMTHにしたら尊敬する先輩アーティストにあたるのかもしれませんね。


 にしてもGenius Lyricsの解説が一文訳せなかったのが悔しくてなりません。こちらでも引き続き調べてみますが、重ね重ねご協力いただけると嬉しいです。