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Calm Snow - I SEE STARS【和訳】

”分かるのは、もう互いの言葉は通わないということ”


Title: Calm Snow (2016)
Band: I SEE STARS (2006 - present)
Album: Treehouse (2016)
Vocal: Devin Oliver (clean) , Andrew James Oliver (unclean)
Lyrics: Andrew James Oliver, Devin Oliver


Don't you tell me all them lies, we both know
Don't you tell me how time flies, it's so slow
All the love in the world we both show
But when it comes to something real, we both choke

 僕らの吐いた嘘を精算しよう
 ゆっくりと過ぎてしまった時間を数えてみよう
 世界中の愛情をさらけ出しあった
 それはいつしか、生々しくなり
 互いの首を絞め合った

So tell me how does it feel to know
That your lies, your lies won't save you now?
To know your lies, your lies
Your lies won't save you now

 嘘が君を守ってくれなくなった今
 どんな気持ちなのか教えてくれよ
 僕が君の嘘を知ったから
 君の嘘は、これからは君を助けない

We're watching things unravel slowly
You're just trying to get away from yourself
It's obvious you're speaking in languages I can't read
You just hide and confide in someone else

 目を背けていたことをゆっくりと暴いていく
 君はただ自分から逃げようとするだけ
 分かるのは、もう互いの言葉は通わないということ
 君は誰かの影に隠れるだけ

Don't you tell me all them lies, we both know
Don't you tell me how time flies, it's so slow
All the love in the world we both show
But when it comes to something real, we both choke

 覚えている限り、君の吐いた嘘を教えてよ
 その間どれだけの時間が経ったのか、考えてみてよ
 僕らは世界中の愛情を見せつけあって
 それはいつしか、生々しくなり
 互いの息を奪い合った

So tell me how does it feel to know
That your lies, your lies won't save you now?
To know that your lies, your lies
Your lies won't save you now

 今まで君を守っていた嘘は
 今ここから刃を向ける
 僕が君の嘘を知ったから
 君の嘘は、もう君を助けてはくれないんだ

We're watching things unravel slowly
You're just trying to get away from yourself
It's obvious you're speaking in languages I can't read
You just hide and confide in someone else

 目を背けていたことをゆっくりと暴いていく
 君は君自身から逃げ出したいだけだろう?
 分かるのは、もう互いの言葉は通わないということ
 君は、僕ではない誰かの影に隠れるだけ

Your lies, your lies, your lies, your lies
 君の嘘が、嘘が

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 こんにちはSeigaです。今日はアメリカのエレクトロニコアバンドI SEE STARSの5th Album "Tree house"から、リードトラック Calm Snowを和訳しました。

 この曲はyoutubeで500万再生となっているにも関わらず、僕が洋楽の和訳を行う上で「伝家の宝刀」と呼んでいる、投稿型の歌詞意訳・説明サイトGenius Lyricsにおいて、歌詞説明の投稿が全くない曲になっています。英語の解説文献がない中、ネットにある他の方の和訳を見合わせつつ、MVを解釈して自分なりに訳したのが上記です。
 同じ歌詞を繰り返す場合、意図的に和訳の表現を変えて、同じ歌詞の意味を多面的に考えられるように工夫しているので、曲を流しながらなぞると面白いかもしれません。

 また、このブログではお約束なのですが、和訳の作業をした後のおまけとして、歌詞やMVの解釈を記載しています。これが正解とはとても断言できないものですが、筋が通るところまで説明することを意識しており、何か曲と歌詞を通じて考え、この曲がより印象深くなるきっかけとなれば幸いです。下記からどうぞ。


■歌詞に対するMV演出の違和感

 「嘘はもう君を守らない、僕がそれを知ってしまったから」「君はただ自分から逃げようとするだけ」。
 歌詞の文言だけを見ると、歌い手が相手を一方的に罵っているようにも見えます。二人でうまくやっていたのに、君が嘘を吐いて何かに隠れたせいで僕らはダメになってしまった。そんな歌詞と見受けられます。

So tell me how does it feel to know
That your lies, your lies won't save you now?
To know your lies, your lies
Your lies won't save you now

 嘘が君を守ってくれなくなった今
 どんな気持ちなのか教えてくれよ
 僕が君の嘘を知ったから
 君の嘘は、これからは君を助けない

We're watching things unravel slowly
You're just trying to get away from yourself
It's obvious you're speaking in languages I can't read
You just hide and confide in someone else

 目を背けていたことをゆっくりと暴いていく
 君はただ自分から逃げようとするだけ
 分かるのは、もう互いの言葉は通わないということ
 君は誰かの影に隠れるだけ

 この楽曲の歌詞やサウンド、ボーカルDevin Oliverの歌い方は感傷的ではありますが、日本の男性歌手が重めのラブソングで歌うような、自罰的で、贖罪を求めるニュアンスはあまり感じられません。どちらかというとParamoreやAvril lavigneのような「お前のせいで私は傷ついた」というニュアンスが感じられます(彼女らよりもサウンド的にしっとりしているので、もっと適切な例えの歌手がいるかも)。
 これは9:1以上で相手が悪いでしょ、と考えている風の歌詞です。

 ですが、この前提を踏まえてMVを見ると何か違和感を覚えます。
 歌詞のような男女の関係、嘘にまつわる映像だなと納得することができるものの、ボーカルの攻撃的な感傷だけでなく、映像の合間合間で葛藤が見えるような映像になっていることです
 僕の場合は上記とは読解の順序が逆で、MVを観た印象から英詞を読み、違和感を感じました。何せ映像からはもっと内省的で自罰的な印象を受けたのです。それは歌詞の攻撃性とは全く異なるもので、一見相容れません。
 ここが、この曲の面白いところだと思います。


■「嘘を暴く」という行為

 次はMVの内容を順に追っていき、その解釈の一つを見出していきます。

無題1

 ここでは歌い手が彼女に鋭利な矢で射抜かれようとしていますが、これは歌詞とは立場が全く逆になっています。
 歌詞では歌い手が相手の非を一方的に責めているようですが、MVを見る限りでは相手は全く引き下がっておらず、むしろ一触即発の場面です。

無題3

 弓矢に射抜かれ吹き飛ばされた歌い手の視点は、急に暗転し、先住民族さながらの黒い影に付きまとわれながら、森を彷徨います。

 この影については、歌詞中に出てくる "You just hide and confide in someone else" の someone elseではないかと思います。

We're watching things unravel slowly
You're just trying to get away from yourself
It's obvious you're speaking in languages I can't read
You just hide and confide in someone else

 目を背けていたことをゆっくりと暴いていく
 君はただ自分から逃げようとするだけ
 分かるのは、もう互いの言葉は通わないということ
 君は誰かの影に隠れるだけ

 僕はここからさらに、この影たちが相手の吐いた嘘の具現であると推測しました。嘘はそれを言った相手自身を取り繕い、その真実を隠し、相手を守るために機能します。歌い手の周りを踊り、歌い手の後を追い、先へ進む邪魔をしてくる様は、まるで相手の吐いた嘘が真実への道を阻むかのようです。ただ、この嘘は明確に攻撃を仕掛けてきません。それは、相手にとって嘘は、歌い手を傷つけるためのものではなく、自身の真実を隠すためのものでしかないためです。
 歌い手はその嘘によって互いの言葉が通わなくなったと、相手の嘘を吐き続けた態度を否定します。そしてこのMVは、歌い手が相手の嘘を暴き、互いの言葉をもう一度通わせるための道すがらが描かれているように思います。

無題5
無題6

 歌い手は黒い影を振り払いながら、妖艶な赤い天蓋ベッドの部屋に辿り着きます。追いかけてきた黒い影はいつの間にかいなくなり、そこにあるのはもう一人の歌い手自身と相手が体を重ね合う場面です。歌い手は顔をしかめながら俯きがちにそれを見つめ、やがて相手が一瞬だけこちらをちらと睨むような描写が入ります。

 歌い手にとってこの場面は、相手の吐いた嘘に翻弄されるフェーズを乗り越え、次に相手の持つ真実を見つめる覚悟を決める場面だと考えられます。先ほど黒い影を「相手の吐いた嘘の具現」だと推定しましたが、ここで影が消えたのは、嘘のベールがいよいよ剥がれ、歌い手が知りたい真実のすぐ近くまで迫ってきているという表現だと考えます。だけど真実を知る手前、歌い手は目を俯かせてしまう。
 歌い手は「君の嘘をゆっくりと暴こう」と歌うその裏で、真実を暴くことに葛藤を抱いている。なぜなら真実を引き出すことで、自分と相手が過ごした時間のうち、見たくないもの、自分の失敗や恥ずべきことまで芋ずる式に付随してくるから。相手の真実を暴いた代償のように、自分の真実を見つめなければならない。
 そこで躊躇する歌い手を、真実の形をした相手はちらと睨む。「これが真実だ」「散々掘り返してきて、今更何を躊躇っているんだ」という風に。

 歌い手はそれでも、真実の相手に詰られようと、恐る恐る相手の影に手を伸ばしていきます。

無題7
無題9

 歌い手が見たものは剥き出しの彼女自身でした。歌い手は目を見開きながら、ゆっくりと彼女に触れる。すると彼女の影は鳥の大群となり、森の奥深くへと逃げ込んでしまいます。

無題8

 一瞬周囲を見渡し戸惑う歌い手ですが、彼女を成した鳥の群れを追いかけて森を進んでいきます。自身が暴いた真実に戸惑いながらも、ここまで来たなら行くしかないとばかりに進む。今度は影に追いかけられるでなく、独りでに彼女を追いかけていく。

無題11

 森の奥、崖の上で再開を果たした二人は、額を寄せ合い、互いの手を取って見つめ合います。やがて黒い影たち=相手の吐いた嘘、が追いかけてきますが、二人はそれにはもう手を貸さないとばかりに、崖から投身し振り切ります。嘘を吐くことはもうやめようと、真実を見つめあえてようやく触れ合えたと、過去を清算し逃げていく。

 ここまでの場面を通じて、「臆さず真実を曝け出したことで、互いの理解が深まり、言葉は再び通い合うようになった」という綺麗なストーリーが成り立っています。が。

無題12

 曲の最後、場面は再び暗転し、胸に矢を穿たれた歌い手が息絶えたような場面へと急転します。気にもせず行き交う雑踏、雑踏に消えたであろう彼女、降り積もる静かな雪の中で、曲は終わります。

 恐らく歌い手が森の中で見たのは、彼自身が思い描いた理想の未来であり、現実の二人が終わっていく今際の走馬燈でもあります。
 互いの嘘を曝け出して、本当の意味で言葉を通わせるという歌い手の試みは、現実の彼女の明確な拒絶により実行されなかった。苦しみながらも恐れながらも真実を直視することで分かり合えると信じた未来はとうとう訪れなかった。彼女は雑踏に消え、静かな雪だけが残った。

 およそ、そんな感じの歌だと思います。


■秘密のひとつふたつくらいあるものね

 以下、雑な所感です。

 嘘は以下の二種類に大別できます。

 一つは嘘を吐く側が相手に配慮する嘘です。大人が子供によく聞かせる「大人の事情」という風に、相手に投げかけても正しく伝わらない、相手が処理しきれないこと。その事実に対して相手が子供であると判断し扱うこと。これをされた相手は「もっと信用してほしいな」という気持ちになります。ただしこの場合相手の怒りはそれほど喚起されません。一人で抱えた結果相手が死んでしまったりなどしたら怒るでしょうが、この嘘は相手が自分を大切に思っていたことの証でもあり、自分を気遣って細部を伝えないよう配慮してくれたことを理解できるため、さほど大きな怒りにはつながらないと思います。
 もう一つは嘘を吐く側が自分を守るための嘘です。自分の過ちや失敗、特に伝える相手にとって深く関連がある出来事について、自分の間違いを認識されたくない、失望されたくない、という心理で隠してしまうことです。これをされた相手は多くの場合怒ります。様々な喧嘩の要因になり、恐らくこの後は罵詈雑言、逆に言葉を交わさなくなる、など過激な争いが生まれる原因になります。しかしこれも結局は、嘘を吐かれた相手にとって「自分はこの事実を受け止められると信用されていなかったんだ」と失望するきっかけになります。
 結局嘘は、それを伝えても相手もしくは自分が受け止められないと判断した場合実行されるものなのです。一方で、もし相手または自分が時を経て成長し、その嘘を受け止められるまでになったとしたら許し合える可能性はあります。嘘は諸刃の防御手段であり、問題の先延ばしなのです。
 それ故に、"嘘"=悪と一概に言い切ることはできません。相手が受け止められないと判断するなら、墓場まで持っていくか、道半ば知られてしまうことで背中を刺される覚悟を持って守ることは、果たして善悪で判断が付けられることでしょうか。
 善悪で判断が付けられないならば、"嘘を暴く"という行為もまた、必ずしも善であるとは断言できないのです。

 さて、この歌についてややニヒルな立場から物を言うならば、そもそも嘘を暴く必要があったのか、という話があります。

 例えば血のつながった家族や長年苦楽を共にした親友や仲間でさえ、自身の素性を全て暴かれ、それでもなお平然としていられるか、というと、微妙だと思うのです。どれだけ親密な間柄であろうと、恥ずべきことや消し去りたい過去、知られたくない失敗、未だに治らない癖を持っている人は多いです。仮に全て曝け出しても今まで通りでいられるという自信があるなら、本人にとっては心配がないでしょう。
 ただし、今回の場合「自分の嘘を曝け出す」ではなく、「相手の嘘を暴く」になるため、話は変わってきます。自分の心の持ちようはいくらでも変えられるかもしれませんが、相手の感じ方を操作することはただの押し付けであり、たとえば「俺が曝け出したんだから、お前も自分を暴いて見せろよ!そしたら言葉が通うよ!」なんて価値観を押し付けられたとしても、見せたくない自分を持つ人間ならば、以下のような心理になってもおかしくはありません。
 「いや……それはさすがに無理……」
 「そもそも本当のことを曝け出せば分かり合えるという前提、あなたの妄想じゃあないんスか……??」

 もしかすると歌い手は、「君と分かり合いたいんだ」という自分の世界観を盾にし、合意の取れていない考えを押し付け、相手のパーソナルスペースに土足で踏み込んだならず者なのかもしれません。縄張りを踏み荒らされた相手は拒絶します。どれだけ親しい間柄であっても、踏み入られたくない領域、明かしたくない秘密は存在し得るものだと思うのです。

 なので、歌い手のやったことは合意のないエゴであり、相手のことを考えていない自慰的な押し付けです。

 …という結論でこの話を終えたいわけではないです。

 例えば歌い手がこんな心理になった原因が、相手の強烈な裏切りによるものだったとしたら。長い間共有してきた信念をある日急に否定されたとしたら。相手が浮気や不倫を隠して働いていたとしたら。今まで交わしてきた言葉の多くが虚飾に塗れていたと判明したのだとしたら。
 信頼の喪失、その反動の失望によって、思想の押し付けと言う強硬手段へと歌い手が駆り立てられたのだとしたら、一様に歌い手だけを責めることはできません。

 嘘は善悪の区別が付けられない手段です。未来への負債であり、現在を守るための手段であり、ずっと暴かれない可能性だってあります。
 ですが重要なのは、確定しないリスクを抱えることは、誰よりも嘘をつく本人自身にとって大きな不安であるということです。まるで降り積もり山積する雪のように、いつ裁かれるとも分からない罪を、それが暴かれるまで時間をかけて背負い続けていくのです。

 それを当然のことと見做すのも一つの解釈ですが、できることなら僕は、背負い続けた苦しさ自体をある程度認めた上で嘘の本題にあたっていけたらと思うのです。嘘を吐かれた事実を一度に浴びせられた自分も辛いですが、嘘を吐き続けた相手の負荷も多大なものであり、その重さを比べたって不毛で、まずは相手が持っていたものの重さを認め、受け止めることが、対話の上で重要だと考えます。

 歌詞から類推しても、歌い手の目的は、「互いの言葉が通うようになること」であり、「嘘を暴くこと」ではなかったはずですから。


 とかいう、結論として「どうしたらバッドエンドを回避できたのだろう」という文章になりましたが、まあ、当事者でない自分が三流評論家風に言っても仕方ないところはあります。ただ、文字通り、額面通りに歌詞とMVを受け取るならば、嘘を吐いた相手をゆっくり宥めていく歌ではなく、感情的に嘘を否定した結果何かが壊れてしまった、という風景に見えました。
 生きてると理屈や目的より感情に振り回されてしまうことばっかりなので、自分も気を付けていきたいし、その沼にはまっている人を否定するでなく「そういう時もあるわな」を前提に向き合っていきたい所存です。この歌のような過去に感傷に浸るのはいいですが、この歌のような未来を迎えたいとは思えないですし、だからこそこの歌には価値があるのだと思います。


 以上となります。長文をご覧いただき、ありがとうございました。



↓この曲のMVから一場面を切り取って、イラストを描きました。↓