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4年半ぶりの超大作"Draw"、3部とも追った時……

何かに、誰かに「憧れ」を抱いたことのある人へ。
この物語を、僕自身の全力を持って勧めたい。

Draw the Emotional "Draw"

〇当人にとって最大の挫折とは

私事だけど、僕は三が日から箱根駅伝を観ていた。
知り合いに長距離ランナーのいない僕なりに、想像と妄想を膨らませながら観戦した。
家族とも、
「予選を勝ち抜くほどの選手達。きっと、毎日走っていないと気持ち悪くなる人達なのだろうな」
なんて勝手な想像を交わし合う。
そうこうしているうちに、5区のランナーがゴールインしていく。

何かに勝利しその喜びを表現する者。
燻るように曖昧な表情で息を荒らげる者。
感情を出すことを避ける者。
そして、望んだ記録が出なかったのか、泣き顔の者。

僕は思った。
「諦めなければ夢は叶う、続けさえすれば夢は叶うというけれど、彼らにとっては箱根で勝負できる4年間の期限を切ってしまえば、もうここで表現できることは無い。
いくら願ったって、努力したって、それが叶うまでに終わりが来てしまえば......どうしようもなく、終わりだ」

例えば駅伝なら社会人になっても続けられるかもしれない。
走り続けることなら生きている限りできるだろう。
もしかすると「シニア箱根駅伝」なんてものが将来実現するかもしれない。未来は分からない。
だけど、「この歳で、箱根で目標を果たす」ということは、
これはきっと二度と取り戻せないことで、そういう取り返せない事実ほど、周りは「死んだわけじゃない」「まだ続きがある」「世の中走るだけじゃない」と言うわけだけれど、その瞬間やり遂げたかったことは今後二度と果たせないのだ。

やっぱり、自分が全てを賭けてやってきたことが否定された瞬間というのは、
冗談では済まないくらい生きる気力を奪われるものじゃないか、と思う。
発想の転換や周囲の支え、本人の気付きによって立ち直ることはできるかもしれないけど、
それでも夢破れた瞬間の痛み、苦しみは、想像を絶するものだと思う。

そんな身近に起きたことを勝手な想像で例え話にしてしまったけれど、
これから紹介する、僕が今年の初っ端から頭をぶん殴られたような衝撃を受けた大作、"Draw"と関係のあることのように思う。


〇物事の最大の期限は死だ

物事には期限がある。その最たる物は死だ。
死は絶対だ。誰にでも何にでも訪れる。

「過ぎたことは取り返せない」とは言うが、大抵の失敗は事後対応と日々の心掛けがあれば、まあ、なんとかなる可能性がある。
だけど。
死んでしまえば取り返せない。

いくらやりたいことがあっても、死んでしまえば未来はない。
いくら伝えたいことがあったとて、死んでしまえば二度と返事は聞けない。
死人に口はない。それは時として、遺された者に想像、妄想を喚起する。呪縛と呼べるほど強力な妄念となり、遺された者の人生を狂わせる。

さっきは「発想の転換や周囲の支えで立ち直れる」なんて言ったけれど、
身近な死の経験がない僕にとって、果たして大切な人が死んだとき、そうやって立ち直れるのかは本当に自信がない。
「ああしていれば」「もっと話していれば」
想像するだけでも恐ろしい数の後悔が押し寄せてくる。
それを一つでも減らそうと躍起になっているのが僕の現在なんだけど、
やっぱり体験したことのないもの、未知に対する想像は例えようもなく恐ろしい。

この作品は、憧れ、いわば「本物への執着」から全てが狂った、
また、取り返しのつかない選択を取り戻そうと懸命にもがいた、
2人の才ある画家の悲しい物語だ。


〇サークル渾身の大作、Draw(CD)・Draw(小説)・Fake(漫画)

導入が長くなってしまったけれど、ここからはしっかりと、ネタバレのないよう紹介していきたい。

本作は、サークルメンバーゆよゆっぺ氏によって2011年に発表された楽曲「Leia」および「Reon」の世界観をベースに、物語として完結させた作品群だ。
CD・小説が正史となっており、番外編として漫画が存在する。

画家の玲音(Reon)はある衝撃的な出来事とその後悔の念から、友人である礼亜(Leia)の肖像画を描くことを始める。
自身の持てる技術と時間の全てを費やし、彼の生活や友人関係、得てきた名声を破壊しながらも筆は止まることがない。
「生きてなんか、ない。この絵はまだ偽物だ」
『どうしてあの時私を描いてくれなかったの?』
届くことのない願いに、それでも手を伸ばした、2人の画家の物語。


〇本作品への尋常ではない制作意欲

この3作品群はゆよゆっぺ氏を代表とする同人音楽サークルDraw the Emotionalにより、コミックマーケット95の2日目、12月30日の日曜日に頒布された。

同サークルは2018年9月に活動再開を宣言し、実に4年半ぶりにイベントへの出場を果たした。
VOCALOIDを起用したアルバムとしては実に6年振りのリリース(ゆよゆっぺ名義のStory Of Hopeから6年。サークルとしてはPlanetary Suicideから実に7年)となった上、
アルバムCD、アルバムの楽曲の物語を綴った小説(日車文氏著)、その物語の外伝として漫画(同サークル所属 正直氏著)、
以上3点をセットとした異例の販売形態が取られた。

しかも、サークルメンバーのゆよゆっぺ氏、正直氏両名曰く、かなり厳しいスケジュールの中、どうしても完成させたいと半ば強行した本作品だ。
特にゆよゆっぺ氏の音楽活動の多忙さは世間的に知られるところでもあり、VOCALOID、DJ、楽曲提供、アコースティック、バンドと活動は多岐に渡る。そんな中、楽曲を作りながらハイペースで動画を投稿し、12月のコミックマーケットに作品を間に合わせたエネルギーは尋常ではない。

何にせよ、この作品に対して相当の熱意があることが伺える。


〇世界観に圧倒される。かつてから楽曲を聴いていた人間でさえ……

まず、冬コミで運良く同サークルの3部作を手に入れたあなたへ。
全身全霊を以って伝えたい。

絶対に、絶対に3点とも読んでくれ。
「ゆよゆっぺの楽曲が好きだけど、本は読まないし……」
「とりあえず買ったけど、音楽が目当てだからな……」
気持ちは分かる。僕も普段からそんなに読む方じゃない。
けれど、これだけははっきりと言える。
これはゆよゆっぺ氏と正直氏が渾身の思いで綴った大作だ。
小説を読んで、音楽を聴いて、漫画を読んで。やっと物語は完結し、そしてあなたにしか描けない解釈がようやく芽吹く。

ゆよゆっぺ氏のあまりに悲しい楽曲、正直氏の繊細で色彩溢れた絵。
僕は2人のファンだ。サークル活動再開直後のグッズ販売でもそれなりにグッズを手に入れたし、ゆよゆっぺ氏がネットで発表した新曲を軽くカバーした。
そしてコミックマーケットの当選が決まった瞬間、1度も行ったことのない冬コミケに参加することを決心し宿をすぐに取った。
何せ僕が学生時代から衝撃を受けて何度も聴いて歌ったLeiaとReonの新作なのだ。聴かないわけにはいかない。

けれど、そんな僕ですら、この楽曲の持つ真の世界観は、長年、全く理解出来ていなかったと実感した。
小説を読み、楽曲を反芻し、漫画を読んで。
僕がかつてから愛したLeiaとReonは、初めて完結した。

僕はゆよゆっぺ氏の作品をはじめとする多くの音楽に影響を受け、音楽制作をしている。
そんな憧れから始まった創作活動の来歴を持つ自分にとって、
この物語はあまりに重かった。辛かった。文字通り涙が止まらなかった。
年明け前の新幹線の中で、マスクで口元を隠しながら何度も泣いた。
礼亜と玲音の物語の変遷と結末。
憧れるということ。愛するということ。
死があるということ。手遅れということ。
あらゆることに限界が存在すること。

この物語を読み体感した人が抱く感想は自由だし、
1つの解釈に縛られることは創作者の望むところではないと思う。
けれど、事実として、僕はめちゃくちゃに泣いた。
贔屓目に見てかつてから大好きなサークルだったが、
こんなにも、こんなにも純粋に作品で殴られるなんて考えもしていなかった。
4年半ぶりの活動再開なんてものじゃない、最初からフルスロットルだ。彼らの伝えたい何かが濁流のように押し寄せてきた。
僕はこの作品に出会って、心を揺さぶられすぎて、何度も聴いて読んでその度に感想を書いて……そんな年末年始を過ごした。

感想については語りたいことが山ほどあるけれど、それはまた別の機会に。

とにかく僕がこの記事で伝えたいのは、「一人でも多くの人にこの3部作を体感してほしい」ということ、その一点だ。


〇僕が作った作品じゃないけど、多くの人に読んでほしい

ネタバレをできる限り回避しながら、思ったことを吐き出す勢いで感想を書いてきた。

とにかく多くの人に読んでほしい。体感してほしい。それが僕の切なる願いだ。
ゆよゆっぺの曲が好きな人にも、正直氏の絵が好きな人にも、
創作活動をしている人にも、何かに憧れを抱いたことのある人間なら、誰しも考えさせられる内容になっている。
甘い話じゃない。簡単な言葉では片付かない。すとんと入ってくる物語ではないと思う。
けれど、そんな風に、読んで聴いた誰かに爪痕を残すような物語には、間違いなく偉大な価値があると思う。
僕もこの数日で何度も読んでは聴いているけど、本当に毎回毎回新しく気付くことがある。
一度読んだだけで堪えきれないダメージを与え、何度も読むことで徐々に浸透していく。

僕には一銭も入らないけど、多くの人の感想が僕は読みたい。だから紹介させてもらいたい。

海外発送も受け付けているとのこと。

冬コミで買った人。今すぐ読んで。中盤から涙が抑えられんかった、僕は。
まだ3部作を手に取っていない人。本当にごめんなさい。作品が発送されるまで生殺しだ。

アルバムに収録されている楽曲の多くはゆよゆっぺ氏がフル尺でMVとともにアップロードしているので、それを聴いて待っていてほしい。


楽曲もただのバンドサウンドではない。何度聴いても新しい音があることに気付く、仕掛けが幾重にもかけられた、洗練された悲しみの音楽だ。

僕はアルバムのReon → Canvasの流れが好きすぎるのと、Fakeのギターソロでマジで泣いた。ほんと、年明け前の12月31日の22時に号泣するとは思わなかったね……いつかカバーしたいね。


僕の個人的感想兼紹介文に長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

一人でも多くの方の人生が、この作品によって前に進みますように。