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ouch - Bring Me The Horizon【和訳】【リメイク】

 "君の腕に残ったままの傷痕が、もう消えているはずの痕が
 あの時を思い出させるんだ"

 Bring Me The Horizonの6th Album "amo" からインタールード、ouchです。

 2019年1月に当ブログで和訳した楽曲ですが、この度指摘のコメントを踏まえ調べなおした上で和訳しなおしました

 単刀直入に、申し訳ありませんでした。今まで見ていただいた方にも。

 ご指摘を受け、僕も「前の和訳じゃ全然違う曲じゃん……」と考えを改めましたので、お詫びするとともに、一度ご覧になった方も今一度新しい和訳をご覧いただけたらと思います。是非見て。

 冒頭の言語はフランス語であり、しかもかなりの怨嗟が込められた言葉です。また、souvenirの訳し方……この辺りがかなり前の和訳と異なっています。


Title:ouch (2019)
Band:Bring Me The Horizon (2004-present)
Album:6th Album "Amo"(2019)
Vocal:Oliver Sykes
Lyrics:Bring Me The Horizon


Tu as tué mon bébé
 僕の愛したものを、君が殺したんだよ

Na, na, na, na
Na, na, na, na, na, na, na
Na, na, na, na
Na, na, na, na
Na, na, na, na, na, na, na
Na, na, na, na

I always knew
this is gonna end in tears
Didn't think your wrists would keep a souvenir

 僕はずっと分かってた
 嫌な涙の結末になるんだろうって
 君の腕に残ったままの傷痕が、もう消えているはずの痕が
 あの時を思い出させるんだ

 in tearsは文全体ではなく動詞endにかかっているので、以前の訳「涙を流しながら」よりも「涙で終わるだろう」とした方がよさそうです。また、この場合の涙はネガティブな意味合いです。参考文献はこちら

And I thought that I had heard it all
Till I heard your lover screaming down the phone
 何もかも知ってるつもりだったよ
 電話越しに叫ぶ、"君の恋人"の声を聴くまでは

 I thought that I had heard it allを「よくある話だと思っていた」としましたが、had heardが過去完了形となっているので、「何もかも聞き尽くしたと思っていた」という意味の方が適切そうです。

I know I said I was under your spell
But this hex is on another level

 「君にすっかり魅せられたんだ」
 自分がそう言ったことは覚えてるよ
 ただ、君の災厄は想像を超えていた

And I know I said you could drag me through Hell
But I hoped you wouldn’t fuck the Devil

 「君となら地獄にでも行ける」
 僕がそう言ったことは覚えてるよ
 だけど、君が悪魔と結ばれてるだなんて……


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冒頭のフランス語(指摘内容への回答)
souvenirの意味(指摘内容への回答)
chorusの歌詞は過去曲の引用(情報収集により得た追加説明)

順に説明していきたいと思います。


冒頭のフランス語Tu as tué mon bébé

 ご指摘の1つは上記の歌詞について「あなたは私の赤ちゃんを殺した」というのが正しい、という内容でした。

 早速、海外楽曲を訳すとき愛用しているGenius Lyricsを参照したのですが、ご指摘とそのまま同じ解釈が掲載されていました。以下、全文訳です。

(注:Bring Me The HorizonのフロントマンOliver Sykesを「オリバー」として訳します)

“Tu as tué mon bébé” is French for “You killed my baby.”
 この歌詞は、フランス語で「君が僕の愛しい人を殺した」となる。

Whether this is directed at Oliver’s ex-wife, Hannah Snowdon, or the man she cheated with, French tattoo artist Guy Le, is up for debate. If the former, it could mean the terrible things she did to him ruined or “killed” his perception of his wife or “baby.”
 この歌詞がオリバーの前妻に向けられたものか、前妻との不倫相手(フランス人)に向けられたものかは議論の対象となっている。
 仮に前者(前妻に向けたもの)だとすれば、前妻がオリバーに酷い仕打ちを働いたということで、それは前妻( = baby)への理解を台無しにする( = killed)ものだったということだ。

If it’s the latter, it could be referencing the man Hannah cheated on Oliver with hurt or upset her and Oliver was there for her. Oliver talked about being there for her when she was broken in a now-deleted Instagram post:
 また、後者(不倫相手に向けたもの)だとすれば、不倫を唆すことで(オリバーだけでなく)前妻を傷つけ、怒らせたことについて指摘した言葉だと考えられる。不倫発覚の後、前妻が自傷行為に走った際に、オリバーがインスタグラムに投稿した以下の内容がある(現在は削除されている)。

[…] When she tried to harm herself I was the only one who really tried to help her. I found a rehab place for her, I kept in touch. I loved her. I love her still, but I can’t forgive her. […]
 (前略)彼女が自分を傷つけようとしたとき、僕は彼女を支えようと藻掻ける唯一の人間だったんだ。彼女が安らげる場所を探したよ、彼女に触れ続けたよ。彼女を愛していた。今だってずっと愛してる。だけど、どうしても彼女を許すことができない……(後略)

また、この解釈へのリプライで「Babyは抽象的な"無垢"を表してると思う」とのコメントがありました。

“Baby” could represent innocence. The betrayal killed all innocence as she was guilty of all accusations. A baby looks at the world with fresh eyes and an untainted perception. This betrayal tainted his perception of his spouse and severely harmed him.
 Babyは「無邪気さ」「(何も知らないことによる)無垢」の示唆じゃないかと思う。裏切りという彼女の罪の告発によって、全ての無垢は殺されてしまった。赤ん坊は、まっさらな瞳で世界を見つめ、まだ汚れていない景色を手に入れられる。裏切りは、オリバーの瞳に映る彼女を汚染した。そして彼は酷く傷ついたんだ。

 まとめると、Tu as tué mon bébéは直訳で「君は僕の愛する人を殺した」となり、意訳すれば「前妻との無垢なる愛情のひとときが、裏切りによって崩壊した」ことを表している、ということです。
 また、場合によっては前妻との不倫相手に対して「お前が殺したんだよ……」という恨み節とも解釈できます。当たり前の一言とはいえ、かなりダークな一面をオリバーは見せています。

 というわけで、ご指摘のとおりでした。

※フランス語の意味も調べました。
 ・Tu = You
 ・as = avoir(英語のhave)の活用形。フランス語は主語によって動詞が活用します。Tuとavoirが組み合わさった場合、Tu asという活用形になります。
 ここまでのTu asで、英語でYou haveを表します。(Tu as = You have)
 ・tué = tuer(英語のkill)の過去分詞形。
 Tu as tué ≒ You have killedとなります。
 なぜavoir(英語のhave)が必要なのか?ということですが、フランス語の過去形にはいくつか種類があり、中でもavoirを用いない「単純過去」とavoirを用いる「複合過去」があります。
「単純過去」は「過去に一度起きたが、現在の状態とは関係がない」で、複合過去よりも使用頻度が低いとのこと。なのでこの用法を使うと「現在の状態とは関係がない」が強調されます。つまり、この文で使ってしまうと、「君は僕の愛する人を殺したけど、今も彼は人殺しをしてるかもしれないし、してないかもしれない……」という怪文になります。
 「複合過去」は「過去に起きた出来事で、その結果今も~になっている」というニュアンスです。この場合だと歌詞のニュアンスである「一度殺されて今も死んでる」に合います。なので、asが付加されている方が自然です。
 ・mon = my
 ・bébé = baby
 長くなりましたが、以上の理由から Tu as tué mon bébé =You killed my babyとなります。 


 ②souvenirの意味(指摘内容への回答)

 もう一つのご指摘は、「souvenirは思い出という意味」でした。

 かなり細かいニュアンスを指摘されているように感じたので、まずは英英辞典を引いてみました。

something you buy or keep to help
you remember a holiday or special event

 休日や特別な出来事を思い出させるような何か。
 特に、購入して手元に置いておくもの。
(ケンブリッジ英英辞典)

また、こちらの記事も参考になりました。

「souvenir」とは、実は、場所や出来事の記念となる様なお土産、記念品です。そのお土産、記念品を見ながら、旅や出来事の思い出を語れる様な物の事であり、食べ物や飲み物は含まれないのです。食べ物は食べたらなくなってしまいますし、飲み物も飲んだらなくなってしまいますからね。

 日本語では「お土産」と訳されるsouvenirですが、「形に残るもの」でかつ「購入できるもの」と限定されています
 要するに「何かを思い出させるような品物、記念の品」というニュアンスで、「お土産」よりは限られた範囲の言葉になります。

 ここまで調べた限りでは、確かに「思い出」のニュアンスに近いのですが、「souvenirの意味は思い出」とするご指摘には未だ首を傾げていました。しかし語源を辿ると……

 (知恵袋をソースとして使う是非についてはかなり怪しいところがあるので、もし文献や書籍等で反証があればご指摘いただければ……と思います)

ラテン語 subvenire(心の中によみがえる)が語源です。
ドイツ語でも souvenir (おみやげ、記念品)と言います。
どちらもフランス語からの借用です。

ラテン語subvenire -> フランス語souvenir -> 英語・ドイツ語souvenir
(心の中によみがえる) -> (思い出、思い出す) -> (お土産、記念品)

 以上の順で意味が変容したそうです。
 語源としては「思い出」が正しいですし、「思い出させる」「もの」と意味を分解しても「思い出させる」の方が意味のウエイトが高い言葉のように思います。

最後に、Genius Lyricsから歌詞の解釈を訳します。
Didn't think your wrists would keep a souvenir
について。

Here, Oliver Sykes refers to his ex-wife Hannah Snowdon’s suicide attempt in 2016. The scars from this suicide attempt are still showing on her arm through her tattoos. (中略)
 オリバーがここで示唆しているのは、前妻が自殺未遂を図ったことだ。その時の傷跡は未だ残り、彼女の腕のタトゥーの間から見える。

Oli calls this a souvenir because it will always remind Hannah of their relationship and the divorce.
 オリバーはこの傷跡をsouvenir(思い出させるもの)と呼んだ。前妻との関係や、離婚のことを思い出させることになるからだ。

 ご指摘とGenius Lyricsの内容から、和訳を「君の腕に付いた痕がいつも思い出させる」に変更しました。
 前訳「アレをまだ身に着けている」は指摘の内容とは異なるかもしれませんがかなり違和感のある訳だったため変更しました。


chorusの歌詞は過去曲の引用(情報収集により得た追加説明)

 こちらはGenius Lyricsを読み直して新たに発見した内容です。アルバム発売当初はここまで豊富に解釈が掲載されていなかったようにも思います。(medicineとか目覚ましいほど変わってる……こっちももう一度訳した方がいいなあ、と思ったり……)

 コーラスの部分のこの歌詞について。

I know I said I was under your spell
But this hex is on another level

 「君にすっかり魅せられたんだ」
 自分がそう言ったことは覚えてるよ
 ただ、君の災厄は想像を超えていた

And I know I said you could drag me through Hell
But I hoped you wouldn’t fuck the Devil

 「君となら地獄にでも行ける」
 僕がそう言ったことは覚えてるよ
 だけど、君が悪魔と結ばれてるだなんて……

 以下全訳しますが、要するにBring Me The Horizonの5th Albumの楽曲 "follow you" の歌詞と同じフレーズが引用されている、という解釈です。

These lines are a throwback to the band’s 2015 song “Follow You,” a love song about his relationship with Hannah Snowdon. In that song he says:
 Bring Me The Horizonの2015年の楽曲"follow you"と同じ歌詞が使われている。この楽曲は前妻との関係を綴ったラブソングだ。follow youの中で、オリバーはこう歌っている。

So, you can drag me through hell
If it meant I could hold your hand
I will follow you, ‘cause I’m under your spell
And you can throw me to the flames
I will follow you, I will follow you

 君となら地獄へだっていけるよ
 いつまでも君の手を握って、付いていくんだ
 だって君に魅せられてしまったから
 君になら業火の中に放り込まれても構わない
 ずっと付いていくよ、君に付いていくよ

When Oliver Sykes wrote that love song, he was thinking about some love spell, but, when the relationship ended, he discovered that it was a hex, an evil spell or curse.
 オリバーがこの曲を書いた時は愛の言葉を綴っていた。だが彼らの関係が終着した時、この言葉は邪悪な呪いの言葉となった。

Also, Oli says that she fucked with the devil because she cheated on him with Guy Le Tatooer, he’s both referencing the hell said in “Follow You,” but also saying that he hates this guy.
 また、オリバーは前妻と不倫し二人を騙した不倫相手を、follow youで言うhell(地獄)だと述べている。さらに彼について、以下のような憎しみの言葉を残している。

But Guy Le Tatooer, the biggest scum bag I’ve ever came across in my life. […]
 あいつはド下劣なクソ野郎だよ。今まで会った誰よりもね……

 さすがに「follow youで言ってたdrag me to hellのhellとは不倫相手のこと」は時系列が合わないんじゃないか……とは思いますが、結果としてfollow youが不倫という地獄を示唆する歌になってしまった……という意見は頷けます。だからこそ、ouchではhellを「不倫の現場」、devilを「不倫相手」として歌ったのだと考えられます。

 それにしても「行き先が地獄だろうと、僕を魅了した君についていくよ」と歌った後に「ついていけなくなるほどの地獄が待っていた」とは……事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものです。

 follow youでは「呪いでも構わない、地獄の業火でも構わない」と愛を歌い、ouchは「だけど想像以上だった」と別れを切り出す……

 ほとんどアーティストの意志による公開とはいえ、パーソナルな部分に意見するのはリスナーとしてあまり褒められた行為ではありませんが……正直に言ってこれだけの情報ではオリバーに非がなかったのかどうかは断定できません。なのでこれは、「僕はあんなことをされて傷ついた、と意見と感情を述べているだけの歌」です。前妻と不倫相手はこれに反論する権利がありますし、それを頭ごなしに否定していい理由はありません。とにかく、「僕は傷ついたよ」と言っているだけの歌です。

 Bring Me The Horizonは自身の傷を曝け出すことで同じ痛みを持つ人を救ってきたバンドだ……という趣旨の主張を、僕はこのブログで度々繰り返してきました。それは時としてアグレッシブに自分の意見を押し通してしまう反面もあるので、それが大きく出てきたのがこのamoというアルバムな気はしています。ただ、再三繰り返しますが彼は「僕は痛かったよ」と言っているだけです。個人の私情や恨みつらみがこの曲の趣旨ではない……とだけ。解釈しなおした上で、言っておきたいと思います。

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 今回ご指摘の内容について、資料不足と理解不足のまま和訳記事を掲載したことをお詫び申し上げます。また、的確にご指摘いただいたことに感謝致します。

 前訳には少数ではありますが「いいね」がついており、閲覧数もそれなりにあります。
 和訳とは捉え方によってニュアンスが変わるものですが、今回の記事は明らかに誤りであったことを認めます。このリメイク記事をご覧になり、あの時見た和訳は間違っていたのか!と、曲に対するイメージを刷新いただけることを願ってやみません。そうでなければ申し訳なさすぎる。

 第三者の指摘がなければ分からない部分は僕が思う以上に多く存在します。が、それを指摘する労力はそれなりに大きいものです。重い腰を上げた上、不勉強な僕に「んなわけねえだろ」と言われ、あまつさえ他の読者に「なんだこのコメント……」と思われたら報われないにも程があります。そこをご指摘いただいたのは、謙遜でも嫌味でもなく本当にありがたいことだと思います。

 いい勉強の機会になり、和訳を見直すこともできました。重ね重ね、的確なご指摘に感謝いたします。